
お菓子をつくる会社で働く人たちを通して、
「会社にとって大切にしていることは何か」を
考えるコンテンツを、はじめます。
お菓子の会社で働く人たちは、お菓子に対してどんなふうに向き合っているのだろうか? 僕自身、お菓子の会社である株式会社BAKEでこのウェブメディアの編集を担当していますが、これまで何十本ものお店を取材しに行くなかで、その会社で働く人たちの話を通して、お菓子のこだわりだけではなくそんなおいしいお菓子をどんな人がつくっているのかにも興味を持つようになりました。
お菓子を通してお店を見ていくと、どんなことを大切にしてお菓子づくりをしているのかは、人それぞれ、お店それぞれ少しずつ違っていて楽しいです。
これまで公開している取材記事は、お菓子にまつわるストーリーを紹介し、商品そのものを主役にした取材記事でした。
それゆえ、創業から変遷に至る話や、働いているスタッフさんの経歴など、面白いなと感じるところがあっても、泣く泣くカットすることがありました。それは、あれこれ盛り込んでいたら、商品にまつわるストーリーがおろそかになってしまうから。
だから、お菓子の会社で働く多種多様な人たちの声を集めて、お菓子に対してどんなふうに向き合っているのかをまとめるコンテンツがあったら面白いだろうなと思いました。
それこそ、このメディアのタグライン「おいしいにはストーリーがある」にもつながるのではないか、と。
どんな会社だったら詳しく話が聞けるかなぁ、と考えていたときにパッと思い浮かんだのが、滋賀にある「たねや」という会社でした。
取材のきっかけをくれたのは、BAKEの人事部ではたらく福田さん。知り合いづてに『La Collina』という冊子をもらい、「これすごいから平野くん読んでみて!」と持ってきてくれました。
冊子の写真と文章の素晴らしいこと! まさか無料でもらえるとは思えないほどのクオリティーなのです。そして、こんな素敵な会社があるのか!と、気持ちが高ぶってしまったほどでした。
調べていくうちに、たねやは和菓子の「たねや」や、洋菓子の「クラブハリエ」など、“たねやグループ”として複数のブランドを持っていて、そのうちの「クラブハリエ」は、大学生のころ住んでいた大阪でよく食べていたことを知ったのです。
さらに、イラスト漫画を描いている吉本ユータヌキさんに、訪問記事を書いてもらったことがあり、以前連絡を取ったこともあったのでした。
▷ 【#日曜日ソーダ】吉本ユータヌキ vol.01「クラブハリエ / バームクーヘン」
そして、今回の企画内容の概要と、なぜたねやに取材したいのかをまとめた企画書を送ったところ、快諾いただき、うれしくてガッツポーズをしてしまったほど。そして、まずは一度打合せという形で、5月下旬に「ラ コリーナ 近江八幡」を初訪問しました。
東京から新幹線に乗って約2時間。そこからJR、バスを乗り継いで約1時間。そこで見たのは、お菓子屋がやっているとは思えないほど、緑いっぱいの広大な景色でした。
小鳥のさえずりや葉っぱが重なって織りなす音。新緑の季節ということもあって、緑がキラキラしてまぶしいほどでした。
そして1時間ほど、ラ コリーナを案内していただきました。
「これから田植えをやるんですよ、社員も一緒に」
と、当たり前のように話してくださった広報の国領さんの言葉が今でも忘れられません。
また、打合せの際にいただいた、年に2回発行している『La Collina』という冊子。すでに発行されている号も頂き、熟読し、お菓子づくりの本気さ、原材料、農業への投資など、川内倫子さんなどの著名な写真家さんが撮った心掴まれる写真と編集部の文章に、ついつい惹き込まれてしまいました。
どうしてお菓子の会社が数十年先の未来に投資をしようとしているのか。彼らは、何を大切にしているのか。たねやで働く人たちの考え方を通して、深く理解したいと思うようになりました。
後日、取材日程を調整していただき、6月末、合計15名の方にお話を聞いてきました。皆さんすごく気さくで、関西弁混じりの取材は、あっという間に時間が経ってしまうほどでした。
「お菓子は、どうやってつくっているのか
ストーリーを知れば知るほどおいしく感じる」
これは、これまでの取材を通して感じた僕の持論です。
今回は、「たねや」という会社にフォーカスして、工場長、デザイナー、農藝スタッフ、企業内保育園の園長、店長など、様々な人に話を聞いて深掘りするコンテンツを公開していきます。
これまでの特集の形式とは違うため、今回の「連載」に当たって、今見ていただいているサイトデザインは、通常記事よりも少しパワーアップしました。デザインは、BAKEデザイナーの小野澤さんです。
今回、撮影をお願いしたのは、 フォトグラファーの三浦咲恵さん。
グルメ情報誌「dancyu」や着物の季刊誌「七緒」などで、撮っている方で、僕の大好きな写真家さんのひとり。もともと、現代ビジネスとサイボウズ式の合同メディア「ぼくらのメディアはどこにある?」で掲載されていた星野リゾート代表の星野さんのインタビューで写真を見たのがきっかけでした。
▷ 「ありえない、いらない、ウケない」は大歓迎――星野リゾート、反対を“快感”に変える「独自スタンス」
三浦さんの撮る写真は、見ただけではわからないような空気の機微まで捉えるところが特徴。写真を通して“味わい”のようなものまで伝えてくれる三浦さんの写真で、最初の連載をお願いしたいと考え、ありったけの思いを込めてメッセージを送り、うれしいことに、今回の特集で撮っていただけることになりました。
三浦さんが撮り下ろした写真の強さに負けないよう、僕自身、せいいっぱい記事を書きました。
僕は、お菓子をつくることはできません。知識としても、まだまだ初心者です。だからこそ、へんに背伸びすることなく、たねやで働く人たちについて、聞いたこと、そこで感じたことを丁寧に伝えていこうと思っています。
それでは、明日からの記事の公開をどうぞおたのしみに。
WRITER
平野太一
CAKE.TOKYO 編集者。あたらしいものとおいしいものを求めて、プライベート・仕事を問わず、実際に訪ねることをモットーに、日々活動しています。 Twitter : @yriica
PHOTOGRAPHER
三浦咲恵
1988年大分県生まれ。City College of San Francisco写真学科卒。帰国後、株式会社マッシュにてスタジオアシスタントを経て、2014年鳥巣佑有子氏に師事。2016年独立。現在、ジャンルを問わず、雑誌・Web・広告等で活躍中。