
大学生時代、大阪に住んでいた自分が、たねやグループを知ったきっかけは、「クラブハリエ」のバームクーヘンでした。
しっとりとしていて、時間が経ってもふわふわ。周りにかけられたフォンダン(砂糖)のシャリッとした食感やバームの生地とは違う甘さがアクセントで、買うたびに、もらうたびに、毎回うれしい気持ちでいっぱいでした。
初回の和菓子工場の訪問に引き続き、第2回は、クラブハリエのバームクーヘン工場を訪ねました。思い出のバームクーヘンができるまでを見られるということで、前日からワクワクでした。
工場内は、白衣・マスク・帽子着用必須。体調に異常がないか、体温を計ります。さらに白衣に付着するゴミを取るため、60秒間コロコロをして、手を洗い、アルコール消毒液をかけます。そして、エアーシャワーで目に見えないゴミを吹き飛ばします。
今回案内してくださったのは、バーム工場 工場長の福森相浩さんと緒方宏彰さん。
それでは、工場の中に入っていきます!(今回は、特別に工場に入らせていただきました)
「おおおお〜!!」
思わず声が出てしまうほどの大量の卵。ものすごい速さでパカパカと卵が割れていきます。
バームクーヘンは、原材料に卵をたくさん使います。うちでは1日50,000個ぐらい。毎日届く新鮮な卵を使っています。
クラブハリエでは使っている卵は、ちょっと薄いピンク色をした「ピンク玉」という卵なんです。これまでずっと、バームクーヘンに適した卵を探していて、たどり着いたのがこれです。
僕は白色の卵しか見たことがないのですが、「ピンク玉」は鶏に与えるエサで色が変わるのでしょうか。
いえ、鶏の種類で色が変わるんです。「ピンク玉」を産む鶏が、食欲旺盛で。すごくお金がかかるんですけど、その分すごくいい卵を産んでくれるんです。
念入りに、卵の状態や色、不純物の有無などをチェックしてから、上白糖と卵を機械で混ぜます。7分ぐらい待つと、空気を含んで膨れてきます。
大量につくる割にはボウルが小さくないですか…?
大きなミキサーを使って、一度に大量につくるところもあるのかもしれませんが、それをすると生地にムラができてしまうんです。
おいしいバームクーヘンをつくるためには一見効率が悪く見えるかもしれませんが、手間は絶対に惜しみません。
原材料も日々進化しています。良い品質のものが出てくれば積極的に取り入れます。
でも、商品として確立しているものを、変えることって難しくないんでしょうか。
いえ、原材料や製法に関しては、 どんどん進化をしていかないと。 時代に応じて、よりおいしくなるのであれば、 伝統は守りつつ、よりいいものを追求します。
最後はバターを合わせて生地は完成です。完成なんですけど実は、このあとに大事な工程がありまして。
大事な工程?
このできあがった生地を、職人の素手で確認します。「手を入れるのは不衛生では?」と言われる方もいらっしゃるのですが、おいしいバームクーヘンをつくるためには絶対に欠かせない工程なんです。
自分の素手で、生地の良し悪しを判断できるのにどれぐらいかかるんでしょうか。
これが、すごく難しいんです。できない人は一生できません。すごくデリケートな作業で、職人でも1週間やらなければ感覚を忘れてしまうほど。だから、毎日やります。
本当に微妙な生地の粘り具合を確認することが最終的な出来上がりに大きな影響を与えます。
季節によっても、生地は変わります。春、夏、秋、冬。あと季節の変わり目。それを最低3回は経験しないと。
できる人は限られますね。
そうですね、未熟なうちは自分だけで判断できないので練習はさせるんですけど、同じロットで誰かが再度確認する。これでだんだん精度を磨いていくんです。
分かる者だけができたらいい、では、末永くおいしいものはつくり続けられない。いかに次の世代の職人を育てていくかが、僕の課題でもあるんです。
(次のページでは、出来上がった生地を焼き上げていく作業です)
WRITER
平野太一
CAKE.TOKYO 編集者。あたらしいものとおいしいものを求めて、プライベート・仕事を問わず、実際に訪ねることをモットーに、日々活動しています。 Twitter : @yriica
PHOTOGRAPHER
三浦咲恵
1988年大分県生まれ。City College of San Francisco写真学科卒。帰国後、株式会社マッシュにてスタジオアシスタントを経て、2014年鳥巣佑有子氏に師事。2016年独立。現在、ジャンルを問わず、雑誌・Web・広告等で活躍中。
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