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たねや
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すべてのお菓子は「農」に通ず。

[その4]

季節のお菓子には、季節の山野草を

最後に話を聞いたのは、愛四季苑(はしきえん)園長の木澤千鶴さん。彼女は転職でこの農藝部門に入社しました。

初めてのことばかりで最初はきつかった…と話し始めましたが、聞いていくうちに、「私はこの仕事を天職やと思う」と話してくれたのが印象的でした。

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愛四季苑の前身が誕生したのは、約30年前。「和菓子は季節を取り入れ味わうもの。季節の山野草を店に飾ることでお客さまにも四季を感じていただきたい」という想いからはじまった愛四季苑は、2014年、ラ コリーナがオープンする1年前に一足早く移転しました。

2017年現在、全体で約3万ポット、450〜500種類もの山野草を育てています。

具体的ににどういうことをやっているんでしょうか。それでは、インタビューをはじめます。


木澤

私たちは「山野草(さんやそう)」という、自然の中で咲いている花を自然のままに鉢の中で表現しています。

百貨店の店舗のなかには植物がほとんどないので、そこに展示することでお菓子を買いに来られたお客さまに季節を感じていただきたいと思って。

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日本橋三越店 レジ前/レジ奥に置く山野草
木澤

30年ほど前に愛四季苑の前身ができ、日本橋三越店からはじめて、その他の百貨店だけでなく、県内のほぼすべてのお店にも納品しています。特に県内の店舗は自分たちで納品に行って、先週の分ととりかえながら、お店のスタッフやお客さまの反応を聞いています。

1週間でどのくらいの数を納品しているのでしょうか。

木澤

1週間に約60〜70鉢ですね。それが毎週交換になります。また、寄せ植え教室や小さな寄せ植えの販売なども含め、年間では約2万ポットのお花を使います。ポットとは「栽培用植木鉢」のことです。

ものすごい数ですね!

木澤

でも、すべてがきれいな状態で花が咲くわけではないので、約3万ポットは用意しておきます。看板の横で大きく活けたい植物や、レジの近くに置きたい小さいもの、背の低いもの、高いものなど、場所に応じてバランス良く用意します。

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たねや農藝の工房棟の一部。ここから毎週、全国のたねや店舗へ山野草が出荷されていきます

年間を通して出荷していくポットの数はどういうふうに管理されているんでしょうか。

木澤

実は、今まで肌感覚だったんです。植物の個数にしても、「この植物は去年たくさん使ったな、だから今年の植え替えのときにたくさん用意しよう」って、準備をしていたんですね。

ただ、500種類もの植物を管理をするのは、作業的にあまりにも大変なので、去年使用した植物の数をデータ化しました。来年度からの管理作業に活かしていく予定です。

500種類!そんなにたくさんの種類があると、お店のスタッフに情報を共有するのも大変そうです。

木澤

なので毎週、店舗にお花を送るときに、こういう「茶花情報」を同封しているんです。

どの鉢のどの位置に何の植物があって、そのいわれは何なのか。こうしたお花や植物の知識はお客さまとの会話のきっかけになるので、ひとつひとつ作成して送っています。

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「今週の茶花情報」として、花の名前や由来、特徴などを事細かに記載しています

すごい。これを全店舗分つくるんですか!

木澤

はい。全店舗分作成しています。そして寄せ植えと一緒に段ボールに入れて、毎週出荷しています。

年間を通して様々な仕事がありそうですね。

木澤

そうですね。12月〜3月の冬の時期は、「株分け」と「植え替え」という作業をするんです。

どんな作業をするのでしょうか。

木澤

植物に苗は小さなポットで育てているので、ずっと置いておくと、根もはるし、養分不足になってしまうんですね。これをポットから外してねを根をほぐし、適切な処理をして新しい土に植え替える作業なんです。

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木澤

そして5月ぐらいになると、植物が水を必要としてくるので、しっかり水やりすることが主な作業になってきます。

草取りをしたり、草丈を調整する「切り戻し」をしたり、花後のお礼肥をあげたり、種を取ったり…増やしたい植物は「挿し木」をすることもあります。

そんなこんなでもう秋冬になって、また株分けと植え替えをする季節になるわけです。

あっという間ですね。

木澤

1年通してずーっといろんな作業があります。それをスタッフ全員で一生懸命やるんですけど、手をかければかけるほど、きれいな花を咲かせてくれるんですよ。

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ラ コリーナの回廊の屋根に植えた桔梗も、愛四季苑で育てたもの

「私、この仕事が天職やと思う」

仕事量の多さにびっくりしているんですが、木澤園長はこれまでどういう仕事をされてきたんですか。

木澤

たねやでは、最初から愛四季苑です。前職は電機メーカーに勤めていたので。

だいぶ、業界が変わりましたね。

木澤

そうです。まさか私も自分がこの仕事をするとは思ってなかったんですよ。

一時期専業主婦をしていたんですが、やっぱり仕事がしたいなぁと思って。

偶然、たねやが企業内保育園(おにぎり保育園)をつくるというタイミングと、求人のタイミングがうまく重なったんです。そこで入社すると同時に、下の子が3歳になる年だったので、おにぎり保育園の一期生として入園させました。

そのときに提案されたのが愛四季苑でした。当時は、愛四季苑がどんなことをしているかも知らなかったんですが…そこから、山野草の猛勉強です。

イチから勉強だったんですか。

木澤

そうです。植物の名前を控えて帰っては、色々な本で何度も調べました。「育て方はどうするんやろう」と、手探り状態でした。

そのころにちょうど山野草の育て方を指導してくださる渡邊輝世先生が来てくださって。その先生に教えていただきながら、株分けのやり方とか、種まきの仕方、挿し木の仕方を教わってから、愛四季苑で育てる苗の質が良くなったんですね。

その先生のおかげで。

木澤

ええ。同時に自分でも山野草の自生地の環境などを調べながら、毎回資料を参考にしてお店でのディスプレイを考えていました。

何百種類もあると、似ているけど違う種類だけでなく、資料に載っていないものも多そうです。

木澤

そうなんですよ。でも、なぜか苦じゃなかったんですね。

それはどうしてですか?

木澤

この仕事がすごく好きだったんですよね。家で子育てをしながらであっても、子どもが寝静まってから必ず植物の本を見ていたんです。

翌朝出社すると、昨晩調べたことを試してみて…というのを繰り返していました。自分が実践したことで春から元気な新芽が出てきたり、花がきれいに咲いてくれたりすると、すごくやりがいを感じるんです。

もちろん、教えてくださる先生や、一緒にやってきたスタッフがいてくれるからなんですけど。こんなに自分に合った仕事はないなと思って。

…天職だ。

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木澤

「お前を見てるとうらやましい」ってうちの主人が言うんです。

「楽なことばかりではないやろうけど、仕事として、やりたいことがやれている人って少ないと思うから、それはすごく良い仕事なんやと思う」って。自分でもそう思いますよ。

ああ、いいなあ。例えば道を歩いていると、生えている植物が気になってしまいますか。

木澤

そうですね。ついつい立ち止まって見てしましますね。だから家族と歩いていると、「お母さん遅いねん」と子どもに言われます(笑)。

できるだけ自然に近い状態で育てたい

これから夏ですね。今どういうことをしていく予定ですか?

木澤

毎年、春の時期は新芽が出てきたときに、もう一度肥料をあげる追肥作業をします。ラ コリーナは「自然に学ぶ」がテーマなので、油粕や骨粉などの有機肥料をあげるようにしています。クスノキの葉っぱを木酢液に漬けこんだ自然農薬も散布して虫を予防しています。

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木澤

育てるときには、植物が自生地で育つ環境に近づけるようにしています。居心地の良い場所で育てると、植物もいい花を咲かせてくれるので。

先日、ラ コリーナ造園の都志園長が中心となってこの棚をつくり替えてくださったんですけど、棚の位置も木陰を利用するなどして、自生地に近づけているんです。

そして、納品するときにも山野草が自然の中で生えている環境をそのまま鉢で表現することを大切にしています。

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最後に。今後、やりたいことがあったら教えてください。

木澤

この愛四季苑は、現状お客さまには入っていただけないのですが、いつか入れるようになったときには、お客さまが山野草を自由に選んで、好きな器に寄せ植えをして帰っていただける場所になったらいいなぁと。人も自然もともに集う、にぎやかな場所にすることが私の夢です。


今回話を聞いて、農作物をつくる過程には、大変な苦労の裏側に大きなよろこびがあるとお三方は口を揃えて話していました。

変わりゆく自然とともに、自然と向き合い続けること。

自分たちも農業をおこなうことでそれがどれだけ大変なことなのか、身をもって体感する。それは、原材料をつくる農家さんへの尊敬の念へとつながります。たねやが農業をやる理由は、ここにあるのかもしれないと思いました。

(農藝部門の様子は、たねやグループのブログ「ラ コリーナ日誌」でも一部紹介されています)

変わることこそ、自然で面白いことなのだ。今回の3人の園長さんに話を聞いて、農業への見方が変わりました。

WRITER

平野太一

CAKE.TOKYO 編集者。あたらしいものとおいしいものを求めて、プライベート・仕事を問わず、実際に訪ねることをモットーに、日々活動しています。 Twitter : @yriica

PHOTOGRAPHER

三浦咲恵

1988年大分県生まれ。City College of San Francisco写真学科卒。帰国後、株式会社マッシュにてスタジオアシスタントを経て、2014年鳥巣佑有子氏に師事。2016年独立。現在、ジャンルを問わず、雑誌・Web・広告等で活躍中。

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