こんにちは、CAKE.TOKYOチームの平野です。
CAKE.TOKYOでは、「おいしいには、ストーリーがある」というコンセプトで、これまでおいしいお菓子にまつわるストーリーを聞いてきました。
今回お話を伺ったのは、ストーリー性のあるお菓子づくりをされている、『cineca(チネカ)』代表の土谷みおさん。面白い取り組みをされている彼女に、“ストーリーを持ったお菓子ができるまで”を伺いました。
ものがたりのあるお菓子『cineca』について
まずインタビューに入る前に、『cineca』について、簡単にご紹介します。
『cineca』とは、土谷みおさんが代表を務めるブランド。「潜水服は蝶の夢を見る」や「イリュージョニスト」などの映画からインスピレーションを受け、そこからストーリーを膨らませて、それをお菓子で表現しています。
例えば、「a piece of -時間を溶かす静かのラムネ-」。
「潜水服は蝶の夢を見る」という映画のストーリーから着想を得てつくった、石の形をしたラムネです。味の種類は、生姜と桜とローズマリーの3種類があります。
他にも、「Eda 拾い集めたプレッツェル」。
こちらは、「イリュージョニスト」というアニメーション映画のあるシーンからインスピレーションを受けてつくった、枝の形をしたプレッツェルです。そのお菓子にチーズをつけて雪に見立てたり、ピンクペッパーとはちみつをつけて木になる実に見立てたりして、土谷さんが印象に残ったシーンをお菓子を通して連想させてくれます。
このように、土谷さんのフィルターを通してつくられた『cineca』のお菓子たち。さっそく、土谷さんにお話を伺いました。
『cineca』が生まれるまで
まずは、土谷さんが『cineca』を立ち上げるまで教えてください。
土谷私もともと、お菓子をつくることと食べることが大好きだったんです。小さいころからよくつくっていて。中学生のころはお菓子しかつくらない「料理部」という部活に入っていました。その部活がきっかけでお菓子づくりがすごく好きになって、趣味でいろいろお菓子をつくって親しい人にプレゼントしていました。
好きな気持ちがあるものに寄り添って仕事をしたいなと感じていたので、大好きなお菓子を使っていつも抱えているイメージやアイデアと結びつけたら、面白いことができるかもと思って。
そこから、どういう経緯で『cineca』が生まれたんですか?
土谷以前から、「ilove.cat」というサイトのデザイナーとして関わっていたんですけど、そのサイトが1周年のお祭りをやるときにお菓子を販売する機会をいただいたことがきっかけでした。そのときにつくったのが、「kalikali(カリカリ)」というキャットフードの見た目をしたクッキーです。
いずれ自分のブランドを持ちたいと思っていたんですが、これまで食の世界にいたことがなかったので「他の人にはない何か」を持っていないといけないなぁと考えていたときに、自分は、お菓子が好きなだけじゃなくて「映画好き」でもあるなと思ったんです。
それが『cineca』の映画とお菓子の組み合わせの原型になるんですね! 映画はかなりの本数見るんですか?
土谷そうですね。その年によって差はありますが、300〜500本くらい見ます。
そんなに!
土谷映画の解釈って、人それぞれじゃないですか。映画を見た後に、私なりに考えることが多いところが好きで。映画からストーリーを膨らませて、お菓子に落とし込む。「映画(シネマ)×お菓子」でシネ菓子、シネマという言葉にすこしお菓子らしさを加えて『チネカ(cineca)』になったんです。
これまで見た1,000本分の映画への愛情
今までどのくらい本数見ているんですか?
土谷数えたことはないですが、少なくとも1,000本以上は見ていると思いますが、今でも1日に1本以上のペースで見ているかな…。見ない日もありますが、見る日には4,5本ぐらい。忘れちゃうので、復習のために同じものを何回も見ることもありますね。
どういう系の映画が好きなんですか?
土谷好きな映画の系統…。そうですね、ハリウッド映画からB級映画までジャンル問わず何でも見ますが、“暗めの映画”が多いです。分かりやすいところで言うと、ミヒャエル・ハネケ監督の『カフカの城』や『白いリボン』が好きですし、マイク・リー監督の『人生は、時々晴れ』、イングマール・ベイルマン監督の『秋のソナタ』なども。最近の映画ですと、『アデル、ブルーは熱い色』、『わたしはロランス』は私の中でヒットして何回も観ました。アメリカや日本の映画も好きですが、イギリスやドイツの映画を好んで観ることが多いです。
そこまで見てしまう「映画」の魅力って何だと思いますか?
土谷本もそうかもしれませんが、見た後にちゃんと自分で解釈をして、自分なりに物語を紡いでいくことができるところですかね。
『cineca』のお菓子ができるまで
続いて、土谷さんがつくっている『cineca』のお菓子について聞いてみました。
(お菓子を見ながら)お菓子ごとに全然デザインが違うなと思ったんですが、これはあえてですか?
土谷そうです。それぞれのお菓子にそれぞれ映画監督がいるようなイメージでデザインしています。つまり、それぞれのお菓子にひとつずつ違った映画の世界観をつくりたい。だから、意図的にデザインを分けています。
卸しているお店には、そのお店の個性に合ったものを選んでもらっているので、単発で『cineca』のイベントを開催する場合は全種類置くこともありますが、基本的には数種類ぐらいですね。
例えば、先ほどの『kailikali(カリカリ)』は、どんなふうにしてつくっていくんですか?
土谷『メルシィ!人生』という映画の中で、子猫がミルクを飲んでいるワンシーンがあります。その映画の中では子猫でしたが、今あの子はどうしているんだろう? 大きくなって今はもうカリカリ(キャットフード)を食べているのかな? と考えてみました。そのときふと「カリカリ」という言葉の面白さに気づいたことと、もし人がカリカリを食べることができたらということから生まれました。
カリカリのように、ひと粒がちっちゃなお菓子をつくろうと考えて素材選びをしながら、カリカリという音を体感してもらうために固さを調整して、固めのクッキーに仕上げました。見た目も、キャットフードのような茶色にして。
何度も試作を繰り返してレシピができたら、その後に、それに見合ったパッケージ・ビジュアルをつくっていく感じですね。
1からすべてやっているとは…。本当に大変ですね。
土谷お客さまの中には、「作品のようですね」って言ってくれる方もいるんですけど、作品とはあまり思っていないんです。私のお菓子は「駄菓子の延長」のような感覚も持ってつくっている部分があります。駄菓子ってとてもユニークですよね。手にしたときや食べるときにわくわくする気持ちを、私のお菓子でも感じてもらえたらうれしいです。
高尚なものというよりは、「日常の延長線上のようなもの」でつくっている感じですか?
土谷そうですね。なので買える価格設定でありたいと思っています。一個5,000円だったらなかなか買えないと思うんですけど、1,500円とか2,000円だったら買える範囲だと考えています。「ちょっとした非日常」として、自分へのご褒美にしたり誰かへのプレゼントにしたりできるお菓子でありたいなと思っています。
私のお菓子を通して、映画を好きになってくれたらうれしい
『cineca』は、お菓子の名前とその説明文がすごく面白いなと思ったんですが、どういう意図を込めているんですか?
土谷映画を見た私の主観が濃く入っているので、第三者にはなかなか伝わりにくいんじゃないかなと思うので、しっかり時間をかけて考え、一言でどれだけ語れるかをすごく大事にしています。
最後に、お菓子の分野に関わってよかったことってなんですか?
土谷お菓子に限らず、口に入れるものって絶対誰もがやる行為じゃないですか。ものすごく距離が縮まるんです。「食べてしまいたいくらい好き」って言うくらい。食べるという行為って愛情表現になりうると思うんです。愛情があるからすごく距離が縮まる。
他人との距離を一気に縮める力を感じたり、私のお菓子を通して映画に興味を持ってもらえたりしたとき、お菓子でできることの大きさを感じます。
土谷さん、ありがとうございました!お菓子と映画を愛して『cineca』のお菓子がつくられているのだと分かり、また、これまでの成り立ちもたくさん聞くことができて、とても楽しかったです。