こんにちは、編集部の名和実咲です。
いきなりですが、「KLOKA(クローカ)」というクリエイティブスタジオをご存じでしょうか?食べられる天体「チョコレートコスモス」や「蛇口からホットチョコレート」のほか、商業施設のディスプレイや企画展示まで手がける、今話題の集団なのです。
私がKLOKAを知ったきっかけは、2016年、伊勢丹新宿店のバレンタイン催事で開催された「チョコレート鉱山」の企画。ゴツゴツとリアルな山は、ジオラマかと思いきや、本物のチョコレートでできています。10種類のなかから好きな場所を選んで、トンカチで掘ってもらい、そのカケラを可愛い小瓶に詰めて持って帰れるというもの。そのときの写真がこちら。
こんな夢のある世界を創り出す人に会って、話をきいてみたい!と思い、「チョコレート鉱山」の仕掛け人でもある、KLOKAのアートディレクター・矢島沙夜子さんにお話を聞きに行ってきました。
今回の記事は、2部構成。まず1部は、2016年〜2017年に手掛けた企画をご紹介します。続いて2部では、企画においてこだわったポイントや、独特の世界観をつくっていく上で大切にしていることを聞いたインタビューです。
KLOKAのめくるめくフードアートの世界
まずはKLOKAが2016年〜2017年までに手掛けた、お菓子にまつわる作品をご紹介します。多岐に渡る活動のほんの一部ですが、ファンタジーな世界観をたっぷりと感じていただけるでしょう。
1)チョコレートの銀河が銀座三越に現れた!「THE CHOCOLATE COSMOS by KLOKA」
KLOKA恒例とも言えるバレンタイン企画、2017年は銀座三越にて「宇宙」をテーマに展開していました。宝石のようにきらめく惑星をはじめ、架空の惑星が表現されたチョコレートの銀河、その名も「ザ チョコレート コスモス」。
採掘してほしい惑星を伝えると、どこかの民族のような衣装を纏った採掘員さんが、コツンコツンと星のカケラを砕いて瓶に詰めてくれます。
一番人気だったのが「琥珀糖星 MEMORY PALACE」(写真左)。この惑星の物語は、おぼろげな記憶が行き着く終着点が琥珀糖星で、誰のものでもなくなった記憶は、永い時間かけて甘い記憶の結晶体(琥珀糖)になる…というもの。
なんてロマンチック!全ては語られていないものの、惑星にはそれぞれ物語があり、詳細な世界の約束事があるそう。
その他にも、蛇口からホットチョコレートが出る装置があったりと、ワクワクする仕掛けが展開されていました。まるで子供のころ絵本で見たお菓子の世界に迷いこんだような、無邪気な興奮に包まれる空間が広がっていました。
2)摩訶不思議なお菓子の国「ボンボン王国」、サマンサタバサが砂糖の国に!「Samantha Thavasa presents “Bon-Bon Voyage!” by KLOKA」
2016年夏サマンサタバサ DELUXE 表参道GATES店にて「砂糖の妖精がサマンサタバサをジャックした!」をコンセプトに、オリジナルスイーツがつくれる体験型イベントが開催されました。
500種類以上のデコレーションパーツをトッピングしてオリジナルカップケーキがつくれる「ファンタスティック・カップケーキ・ファクトリー」をはじめ、お悩み相談カクテルバーや、雲のような綿菓子の「クラウド・サロン」など、女の子の夢を詰めこんだスイートな世界が広がっています。
店舗自体はすでに閉店していますが、Instagramには、参加した人が甘い夢のひとときを投稿してくれています。ハッシュタグ「#bonbonsamantha」 「#bonbonvoyage」で砂糖の国を覗いてみると…
ⅰ)「ファンタスティック・カップケーキ・ファクトリー」
マシーンがカップケーキを運んでくれます。
飾り付けのアイシングパーツ(砂糖菓子)もベルトコンベアーで運ばれます。タイミングをあわせてレバーを回すと、トッピングができる仕組み。
ⅱ)失恋と懺悔をテーマにした「お悩み相談カクテルバー」
受話器に向かって恋のお悩みや、罪の告白をすると、声量や周波をプログラミングで解析し、その人にあわせたカクテルができあがる仕組み。
ちなみに、失恋は甘めに、懺悔はピリっと辛めにできあがることが多いそう。女の子のお悩みは、いつだって絶えないものですね…。
ⅲ)入道雲やうろこ雲、雲職人が紡ぐアトリエ「クラウド・サロン」
大人だって「あの雲、食べてみたいなぁ」なんて思うこと、ありませんか?そんな夢を叶えてくれる、綿菓子のブース。店内の飾り付けにも淡いピンクやブルーの雲がたっぷりあしらわれていました。
まるでおとぎ話の世界が飛び出してきたかのような、ファンタジックな世界…。いつかまた砂糖の精が東京をジャックしてくれないかな、と願わずにはいられません。
3)鉱山チョコレートを採掘!「Mt. Isetan Chocolaterie by KLOKA」
2016年のバレンタイン企画は、新宿伊勢丹で開催された「マウントイセタンショコラテリエ バイ クローカ」。
山や沼地、地層など異なる地形で構成され、採掘したチョコレートは瓶詰めの標本にして持ち帰ることができます。
蛇口から出るホットチョコレート「ショコラショーポンプ」は、チョコレート鉱山のふもとに湧き上がるカカオの源泉をイメージして展開。ミルクとビターの2種類のフレーバーを調合し、6種のトッピングマシンで自分好みの味に仕上げることができます。
KLOKAの考える、お菓子と体験のデザイン
ここまで見ていただいて、少しでもKLOKAの魅力が伝わったでしょうか?
続いて、KLOKAの世界を体験してもらう上で大切にしていることを、チョコレート銀河の企画を例に、矢島さんに伺いました。ここからはインタビュー形式でお届けします。
バレンタインの企画の話をもらったとき、どう思いましたか?
矢島伊勢丹さんの催事フロアには、有名ブランドのチョコレートが集まっています。名だたるショコラティエに並ぶような素敵な体験をしてほしくて、KLOKAなら何ができるだろうって考えることから始まりました。
銀河チョコレートの企画で気をつけたことはありますか?
矢島いかに夢を崩さないように、美しく見せながら掘るか、ですね。ここを掘ると下半球が落ちちゃう、なんてことがあっては、夢も崩れてしまいますからね(笑)。工房で何度も型をつくっては、チョコレートを削ってみての試行錯誤を繰り返しました。あとは惑星のカケラ=夢のカケラなので、採掘員は慎重に惑星を掘ってもらいました。
採掘員とお客さまは、それぞれどのような立ち位置になりますか?物販形式ではない、お菓子と体験の提供において、どう考えたのか気になります。
矢島採掘員は、ファンタジーの世界と現実を繋ぐ役割があります。私のなかの物語上では、王族に仕える、惑星を扱える特別な一族のような存在です。
お客さまは、この惑星に訪れる旅行者のような存在ですね。惑星に遊びにきて、お土産に星のカケラを現実世界に持ち帰れるような設定です。会場ではあまり語らないですが、ちゃんと設定はあるんですよ!
あえて多くの情報や物語を公開していないのは、なぜですか?
矢島今はいろいろな情報を選べる時代ですよね。いろんなメディアがあって、物語とはいえ、一気に膨大な情報を提示されたらひいてしまいます。
ただ、展示や作品に興味を持ってくれた人が掘り下げたいと思ったとき、発見してもらえるものはちゃんと用意しています。背景となる物語や世界観の設定など、公開している情報の10倍くらい用意してあるんですよ。
10倍も!ちなみに、装苑で連載されているブログで「チョコレート銀河」での各惑星について熱く語られていたので、拝見していました。
矢島わ、なんか恥ずかしいですね。笑
こういう物語は、企画のために考えているんですか?
矢島すでに自分の世界観の核となる「クロニクル」があって、企画の内容と照らし合わせながら、繋がりそうな物語をどんどん広げていくんです。
クロニクル?
矢島私が創りたい世界観の設定や年代記みたいなものですね。「Aという星があって、B王国が繁栄して…」とか。その後は、レシピをつくってもらうやりとりの中で、インスピレーションを受けて、さらに物語が展開されていくこともあります。私の場合は、物語から創りたいイメージが湧いてくるので、物語の後づけはあまりしないですね。
食べものは、ファンタジーと現実世界を繋ぐ接点
食べものの企画は、いつ頃から手がけられていますか?
矢島2013年に神宮前のギャラリーROCKETでバレンタイン企画をしたことがきっかけです。「蛇口からホットチョコレート」という言葉が当時ネットで話題になったようで、想像以上にたくさんのお客さまが足を運んでくださいました。
Twitterでみたことがあります!「え、蛇口から?」とびっくりしました。
矢島1日20人来てくれたらいいなと思っていたんです。でも、何百人もの行列ができたと聞いて驚きました。今までニッチな世界で発信していたアートやファッションはどうしても見る人を選んでしまうのに対し、食べものやお菓子は、人を選ばない間口の広さを感じたんです。
確かに、 食べものやお菓子だと、知識がなくても楽しめます。
矢島空間を見て、食べたり飲んだりすることは誰にでもできますし、五感を使ってその世界を体験できるって、すごく面白い!と思って。
ジオラマやウィンドウディスプレイなど、今までは見て楽しめるものをつくってきましたが、食べる体験と繋げることで「展示作品のもう一歩先に行けるぞ」という感覚がありました。
これからの食べる体験が持つ意味
今後、矢島さんがやりたいことについて教えてください。
矢島直近の夢は、以前ギャラリーROCKETで一晩だけ展開した「ディナーマシーン」をもう一度つくることです。
どういうものかというと、Vの字にふたり一組で座ると、ディナーがスタートします。前が壁になっていて、引き出しからパンがでてきたり、料理にあわせて、お皿の底に映像や音楽が流れたりする仕掛けがあります。料理にあわせた演出を机が自動的に行ってくれるというマシーンですね。それをもう一回やりたいなぁと。
お皿の底に映像?
矢島そうです。そのときは「ドラキュラのスープ」という名前をつけた辛いスープで、スープ皿の底にドラキュラの映画が流れているんです!「スープインシアター」と呼んでいます。
ぜひいつか食べてみたいです!これからの「食べるという行為や体験」について、矢島さんの考えを聞かせてください。
矢島60年代のSFみたいに、チューブ食や、食べなくても脳内で満足できる商品が開発されるような未来は来ないかもしれませんが、生死の問題を除外したとき、食べることの意味って何だろうと考えて。舌の上の味だけでなく、うつわを選ぶように、食べるという行為にいろんな選択肢があったらいいなと思うんです。
三ツ星のレストランのシェフの料理やレシピは、クリエイティブで素晴らしいと思います。そこでわたしに何ができるかな?と考えたときに、アートやファッションといった付加価値を生み出せたらと思っています。
素敵なお仕事の話をきけて、うれしいです。ありがとうございました!
■教えてくれた人
矢島沙夜子さん
クリエイティブスタジオKLOKAに所属し、インスタレーションやウィンドウディスプレイ、プロダクトのディレクション、グラフィックデザインを中心に活動中。錬金術をテーマにしたチョコレート工場のような企画や、架空の浮島のジオラマなどに独自のストーリーを展開するなど、ファンタジックな作風が特徴。KLOKA PRODUCTSとしてアクセサリーブランドもスタートし注目を集めている。