【旅とおやつ。/愛知編】小倉トーストで未来を切り開く「喫茶はじまり」


フードイラストレーター
まるやまひとみ
「名古屋名物」と聞き、思い浮かぶものはなんですか?ご当地グルメの宝庫とも言われるほど多くの名物がある名古屋。
私が10年ほど前に初めて名古屋へ行き、最初に食べた名物は喫茶店の「小倉トースト」。当時はまだ都内には「あんバター」も広まっておらず、「あんぱん」とも違う「バタートーストとあんこ」という斬新な組み合わせに心が踊ったのを覚えています。
喫茶店文化が根付く東海地区ですが、コロナ禍において廃業を余儀無くされる喫茶店が増え、それに伴い喫茶店にパンを卸していたパンメーカーも大きな打撃を受けました。そこで立ち上がったのが、当時名古屋のパンメーカーに努めていた「喫茶はじまり」の店主。
小さな一歩を大きな力に変えて進むエネルギー源・小倉トーストと、名古屋の暮らしを支える喫茶店の魅力に迫ります。
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。また、価格はすべて税込です。
文化の底上げを目指して

氷の旗に誘われてしまいそうになる猛暑の日。
大曽根商店街の中ほどにある「つどいタウン」は、まちづくりに力を入れたシェアキッチン&レンタルスペース。使われなくなったビルをリノベーションし、街を盛り上げる拠点として2023年に誕生しました。「喫茶はじまり」はその1階と2階。
街が活気を取り戻した時、「このお店が“はじまり”だったね」と言ってもらえるお店にしたいと名付けたといいます。

お子さんがのびのびと過ごせる広い畳に、作業したい人に嬉しい電源も完備。
畳の小上がりが和の雰囲気を醸し出す2階。大きな窓が光を取り込み、思わず背伸びをしたくなるような清々しい気持ちに。生まれも育ちも名古屋という店主にとって、モーニングとは早朝の仕事を終えて帰宅する前にひと息するようなもの。一日中モーニングサービスを行っている喫茶店もあるほどで、それぞれの朝時間に寄り添っています。
こうした喫茶店文化は、織物の一大産地である愛知県一宮市で機会音から離れて商談を行ったり、休憩できる場所として喫茶店が多く利用されていたことから発展していったのだそう。ドリンクを注文するとトーストやゆで卵、サラダなど独自のサービスが無料で提供され、働く人たちの活力になっているのです。
小倉トーストが持つ底知れぬ可能性

期間限定で提供されている「からふる小倉トースト」は推し活に大好評!
名古屋名物として様々な変化を遂げ、個性的なあんこメニューからお土産まで豊富なバリエーションで名古屋を盛り上げている「小倉トースト」。これが名物となった背景は大正時代まで遡ります。
とある喫茶店で、トーストを“ぜんざい”に浸して食べているお客さんを見た店主が、あんこをトーストに挟んで提供したのが始まりだとか。地元の人たちにとって小倉トーストは当たり前の存在で、どこの家庭にも好みのあんこがストックされているそうですよ。
喫茶店にも家にも欠かせないトースト。休みの日は家族でモーニングという方も多いそうです。
ところが、コロナの影響を受け喫茶店が続々と閉店。店主が働いていたパンメーカーも卸し先が減り、パンの売上が激減したといいます。
「この状況をなんとかしたい。」
失われつつある街と人の活気を取り戻すべく、2020年に愛知の喫茶店を支援するプロジェクト「小倉トースト100変化」を発案。地元の業務用パンメーカー3社が力を合わせ、支援者と共に100通りのアレンジレシピを作りました。活動を機に店主自身も小倉トーストの奥深さを再発見。より魅力を伝えていきたいと、2023年には「小倉トースト普及委員会」を発足します。

店頭にて「小倉トースト普及委員会」オリジナルグッズを販売中
委員長として、小倉トーストを愛する仲間とともにさらなる街の活性化に尽力。愛知県内の小倉トーストを食べ歩きマップ化したりスタンプラリーを開催したりと、お店に足を運んでもらえるような企画を次々と行い、ついには2023年9月10日、「オ(0)グ(9)トー(10)」の語呂合わせから9月10日が「愛する小倉トーストの日」として一般社団法人「日本記念日協会」に認定されました。
店主は委員長としての活動を続ける傍ら、「パンメーカーとしての仕事はやりきった」と次のステップへ。それが「喫茶はじまり」のオープンです。

2階のカウンター席。店内には作家さんの手作り作品が所々に。
退職後、開業に向けてカフェなどで修行し、経営はもちろん、コーヒーやお菓子作りの知識も深めていったそうです。喫茶店への想いを常に持ちながらあんこに情熱を燃やします。
小倉トーストがただの名物としてでなく、人と街をひとつにするきっかけとなれば。そうしてできた「あんこづくしのメニュー」はこだわりにこだわった愛の結晶です。

瀬戸焼の器が小倉トーストをより艶やかに魅せる。
食パンは店主が以前働いていたパンメーカー「永楽堂」の「くちどけもちこ」を使用。生地にもち米粉を加えているため、焼くことでお餅のような香ばしさに。
あんこは名古屋の老舗「舘林製餡」。シロップに漬け込んで作られるという「蜜漬けあんこ(つぶあん)」のほか、「赤練り(こしあん)」も定番です。
こしあんの小倉トーストはめずらしく、こしあん好きはもちろん、いつもはつぶあん派だけどこれは食べてみたくなる!と選ばれる方も。とくに人気なのが、「蜜漬けあんこ」と「赤練り」を一度に両方味わえる“あいがけ”。蜜漬けと聞くと甘そうですが、通常のつぶあんに比べ糖度は低め。みずみずしく輝く粒とすっと引くような甘さが印象的です。丁寧に濾された赤練りは、舌を撫でるようなきめ細かさで風味がとても清らか。
小倉トーストの命とも言えるあんこに力を注ぎ、あんこを添えた「自家製プリン」、「あんこ玉スムージー」と他にはないあんこメニューが私たちを魅了。あなたの「小倉トースト遍歴」もここからはじまるかも…?
「喫茶はじまり」始まりの小倉トースト!(イラストあり)

illustration by まるやまひとみ
今回いただいたのは
●あんモンブラントースト ¥680(税込)
●コーヒー ¥480(税込)
「あんモンブラントースト」は、「小倉トースト100変化」で生まれたアレンジレシピの中で高評価を得た「小倉モンブラン」のレシピを改良した愛着のあるメニューだそう。個性的な小倉トーストが食べたくなったらぜひこちらを!

和と洋が見事に融合。
トーストした食パンにたっぷりバターを染み込ませ、アイスクリームとクリームチーズをトッピング。ラムシロップで伸ばしたこしあんでアイスクリームを覆い、モンブランに仕立てていく姿はパティシエさながら!
パンが小ぶりなので朝食やおやつにちょうどよく、お子さんからお年寄りまで食べやすいサイズ。ケーキ風の小倉トーストです。

目をつけたら今にも動き出しそうなフォルム。
焼きと焦げの絶妙な加減。まずはパンの風味を味わおうと耳をひとかじり。小麦の香味が鼻を抜けたあと、舌に広がるもち米粉の甘さ。ラムはほんのりと、そよ風のごとくかけぬける心地よいアクセント。中心部はバターとアイスが一体化し極上のしみじゅわ。塩気と酸味が味を盛り上げるクリームチーズとの素晴らしきマリアージュ。あんこのなめらかさとパンの口溶けが合わさる瞬間の高揚感は心と記憶に染み渡ります。

澄んだあんこの味わいでコーヒーの苦味がすっきりと。
コーヒーはトーストに合わせ、ほろ苦さとコクの重厚な味わいのもの。口に残る塩気と甘さをキリッと整えてくれ、小豆の風味にもマッチしたブレンドです。
さらに、ドリンクには一口大のあんこがついてきます。名古屋の喫茶店ではドリンクを注文すると豆菓子やお店それぞれの“おまけ”がついてくるのが粋なところ。
そのまま食べたり、トーストに追いあんこをしたり、砂糖の代わりにドリンクに溶かしたり…とそれぞれに楽しめます。プラス100円で追加のあんこも注文できるというあんこ好き感激!なサービスも。とどまることを知らない魅惑のあんこスイーツをご堪能あれ。
喫茶店文化を守ること、それは暮らしを守ること

お客さん手作りの“小倉トーストアイテム”を探すのも楽しい!
名古屋に訪れたある日の朝。喫茶店で「ブレンド」と伝えると「モーニングはお付けしますか?」と店員さん。お願いすると、コーヒーと一緒に運ばれてきた厚切りのトースト半分とゆで卵。黄身がホロッと崩れるくらいのゆで卵に塩をつけ、バターの染みたトーストと交互に食べる。コーヒーの香り漂う店内。カサカサとこすれる新聞紙の音。常連のお客さんに紛れ、自分も慣れたようなふりをしてコーヒーひと口。この風景がいつまでも、ずっとずっと続いてほしい。私もそう感じたのを覚えています。

1階のレジ前ではコーヒーを飲みながら談笑でき、縁側にいるような気分に。
喫茶店の存続が危ぶまれるのはコロナだけではなく、後継者がいないことも要因のひとつです。名古屋に住む人たちにとって、喫茶店は小さなコミュニティとしての役割も担っているといい、交流の場としても大切な存在。横のつながりも深い名古屋の喫茶店だからこそ実現した「小倉トースト100変化」のように、ひとりでは成し得ないこともみんなと力を合わせれば達成できる。街を動かすのは人の心だと、私も改めて気付かされました。

レジ横の手作りおみくじ。私が大凶だったのは内緒の話。
「喫茶はじまり」は誰かが自然と集まり会話や新しいコミュニティができたりと、誰かにとっての“はじまり”の場所となっています。週替わりで一風変わった小倉トーストがメニューに加わることもあるので、それを目当てに通う常連さんも。あんこ好きの聖地として、旅の途中に立ち寄る方もいるそうです。
今日も誰かがほんの少しの癒しを求め、喫茶店でしか味わえない特別な時間に心を寄せます。
ちなみに、「小倉トースト100変化」の自由な発想で生まれた斬新なレシピは、現在も公式noteに掲載されています。名古屋名物同士を掛け合わせた「あんかけ小倉トースト」なども…味の想像がつきません!みなさんも自宅で小倉トーストを楽しんでみては?
SHOP INFORMATION
SHOP | 喫茶はじまり |
---|---|
WEBSITE | https://kissa-machidukuri.com |
ADDRESS | 愛知県名古屋市北区大曽根2-9-57 |
OPEN | 11:00〜21:00 (L.O.20:00) ※【日曜日】17:00まで |
CLOSE | 水曜日 |
人気の記事
-
【2025年】駅ナカで手に入る!JR品川駅でおすすめのお土産5選!話題のスイーツをチェック
CAKE.TOKYO編集部
-
【東京・渋谷】「I’m donut?(アイムドーナツ)」のグルテンフリー専門店が誕生!米粉×生ドーナツの新体験を
CAKE.TOKYO編集部
-
【東京・自由が丘】生ドーナツ専門店「I’m donut?(アイムドーナツ)」とベーカリーカフェ「dacō(ダコー)」が2025年8月30日ダブルオープン!
CAKE.TOKYO編集部
-
【東京・お茶の水】大人気ベーカリーの2号店「ダコー 」はエンターテインメントなベーカリーカフェ
CAKE.TOKYO編集部
-
【2025年】手土産にピッタリの限定品も!羽田空港で持ち帰る、ご褒美スイーツ
旅するパンマニア
片山智香子
おすすめ記事
-
【東京・有楽町】毎日食べたい、こしあんを極めた中山屋の「こしあんのどらやき」
CAKE.TOKYO編集部
-
東京・大田区から届いた!噂の二度漬け!「ダブルリッチキャラメル!ポップコーン」はおいしい偶然から生まれた
CAKE.TOKYO編集部
-
【お取り寄せ】愛媛の柑橘が香る、やさしさとスパイスを詰め込んだ贅沢な一杯。15ichigo「愛媛柑橘のクラフトコーラ」
CAKE.TOKYO編集部
-
【お取り寄せ】和歌山・有田の太陽と人が育んだ、早和果樹園の「もっちり有田みかんゼリー」で夏のごほうび
CAKE.TOKYO編集部
-
【ひとくちのふうけい】山里で輝く、ひとくちの恵み──檜原村の「生はちみつ」
CAKE.TOKYO編集部