※この記事には移転前の店舗で取材・撮影した情報が掲載されています。

この先は行き止まりかな。あるのは民家だけなんじゃないかな。

mimetがあるのは、そんな細い路地の先です。昭和に建てられたんだろうとすぐに分かる入口は、だれかの家につながってるんじゃないかと開けるのに少しドキドキします。

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だけど、その扉の先にあるのは温かなカフェビストロです。まるで親戚のおうちのような居心地の良さを感じてしまうと、きっとまた来ようと思ってしまう空間が広がっています。

そんなmimetの看板商品のひとつは『mimetのホットケーキ』です。厚みのあるふかふかとした素朴なんだけど上品で、食べると心がふわりと浮かんでゆるやかにほぐれるような安心感を覚えます。

mimetとホットケーキをもっと知りたくて、オーナーのヤマモトタロヲさんと店主の滝沢絵美子さんにお話を伺いました。

いつ来て何を頼んでもいい。自由なスタイルを提案したくて

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ヤマモトさんはmimetを開くより前から、渋谷区松濤に『aruru』と『urura』という南部鉄器料理のビストロを営んでいます。

「岩手のきのこに感動したことをきっかけに岩手の食と伝統産業を掲げたお店にしようと思ったんです。でもオープン予定が震災の年だったので、岩手の食材が手に入らなくなっちゃって。なので南部鉄器とできる限り国産の生産者がわかる素材を使ったビストロを始めることにしました」

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ビストロを営むヤマモトさんですが、かねてよりカフェスタイルのお店をつくりたいと思っていたのだと話します。ヤマモトさんが提案したかったのは、老若男女が訪れるようなカジュアルでお客さまに寄り添うお店。

「レストランで『おなかすいてないのでサラダだけで』と言ったら、お店の人はがっかりしちゃいますよね。でもカフェだったら今日は食事、今日はデザート、と自由度が高いところがいいと思ったんです」

それから新たにカフェを開くにあたり選んだのは、下町感がたまらなく好きだったという富ヶ谷エリアでした。そして紹介してもらった物件は、築40年ほどの民家です。

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2階への階段は雑貨や洋服を扱うブティックに続きます。

「例えば、古いもののように、価値を見つけずらいものを自分なりに解釈して、ひとつひとつ輝かせることが自分にできることだと思っています。単に僕が、古いものが好きというのもありますが…。

この物件も紹介されてすぐに、厨房にいるスタッフとカウンターのお客様の目線が合うお店のイメージが浮かびました。ここなら、お客さまが毎日来ていただける空間が演出できると思ったんです」

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mimetの名前は、フランスのアルル地方の東側にある小さな村、Mimetに由来します。

「店名はミメットではなく、ミメと読みます。ミメと呼ぶのは、一度ご来店されたお客さまなんじゃないかな。ミメットじゃなくてミメとたくさんの方に呼んでもらえるようなお店になったらいいな、と思いを込めてつけた名前です」

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見えないこだわりがつくる、”ふつうのホットケーキ”

mimetをはじめるにあたり、名古屋出身のヤマモトさんはホットケーキをメニューにすることをあらかじめ決めていたのだそう。モーニングや喫茶店文化に慣れ親しんだ、ヤマモトさんらしさを感じます。

ホットケーキの材料は極めてシンプル。小麦粉と卵、お砂糖、ベーキングパウダー、牛乳。材料について聞くと「本当にふつうのホットケーキですよ」とヤマモトさんは笑って話します。

「粉やハチミツは国産で、生産者がはっきりしているもの、その人がプライドを持ってつくったものをできるだけ理解して選ぶようにしています。こだわりといえば、そういうところでしょうか」

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じわじわとホットケーキの上で溶けていくバターが、はちみつをかけるとじわり滲んでいきます。きつね色の生地が、儚くも愛おしく感じます。厚みのある生地はナイフを入れるとふかふかと弾んでいるようにさえ思えました。

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ヤマモトさん曰く”ふつうのホットケーキ”を、こんなにもおいしくするものはなんなんだろう。材料? 生地の混ぜ方? それとも焼き方?と秘密を探ろうとすると、ヤマモトさんの口からするりとひとつの答えがこぼれました。

「南部鉄器の力が大きいんですよね」

南部鉄器から感じる「かわいい」や「おいしい」の向こう側

南部鉄器こそ、mimetのホットケーキのおいしさの秘密。お店に勤める前から南部鉄器に惚れ込んでいる店主の滝沢さんもそう話します。

「焼き上がりの表面のカリッと感も、中のふわっと感も、南部鉄器の遠赤外線の力です。シンプルな材料でつくるホットケーキのおいしい焼き上がりは、南部鉄器と素材の賜物だと思います」

南部鉄器は熱伝導率がいいので生地全体にムラ無く熱が伝わり、さらに遠赤外線の力で表面に集中して熱を加えられるので外側がカリッと仕上がるのです。それもあって厚みのある生地のホットケーキも表面はさっくり、中もしっとりしています。

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「南部鉄器でつくる料理はおいしいんですよ」と滝沢さんは話します。重たいし扱いを気をつける必要はあるけれど、鉄器で沸かしたお湯は口当たりが丸くておいしいし、鉄分も摂れる。いいことがたくさんあるのにな、と少し寂しそうです。

「ホットケーキがかわいいね、だけでなく南部鉄器でつくるから引き出されるおいしさ、この鉄器で焼くことで得られる目には見えない栄養のこと、このホットケーキを通してもっと深く知ってもらえたら嬉しいですね」

南部鉄器への思い、そして手間を惜しまないこだわり。「おいしい」を越えて、食べることすべてに込められたmimetの思いを、南部鉄器を通じてじんわりと感じました。

お客さまとのたわいない会話が、mimetらしさ

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最後に、とmimetのいちばん好きなところをヤマモトさんに聞いてみました。すぐに返ってきた答えは「スタッフ」です。

「へんてこな人間と自分だったらみんなで楽しくお店を運営していけると思うんです。へんてこっていうのは褒め言葉ですよ。突出した魅力がある人です。

そういう意味でmimetはスタッフそれぞれのキャラが立っています。料理がおいしいことはもちろん必要ですけど、楽しかったとか癒やされたとかスタッフに会いに、ということがお客さまがお店に来る目的でもあるわけです。だから、mimetは人に会って楽しいお店であるところが一番好きですね」

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毎日お店に立つ滝沢さんも、お客さまとの距離の心地よさを日々感じていると話します。

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例えば、わんぱく盛りの子どもと一緒にランチを食べに。
明日から一人暮らしを始める上京したての娘さんとご両親が、東京の夜を楽しみに。
仕事終わりの友達と、ごはんを食べた後のデザートで。

いつ行っても、ひとりでも、きっとmimetはあたたかく迎え入れてくれるんだろうという安心感がありました。

mimetには、いろんな人が思い思いの時間を楽しみにやってきます。きっと、今日も変わらずそんな空間が広がっているんだと思います。

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大塚いちおさんが描いたmimetの看板猫。ホットケーキやお店のあちこちにいるので探すのも楽しいです。
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SHOP INFOMATION

NAME 【移転】mimet(ミメ)
URL https://www.instagram.com/mimet_cafebistro/
ADDRESS 【移転先】東京都渋谷区富ヶ谷1-9-20 1F
TEL 03-5738-8241
OPEN 11:30〜22:30
CLOSE 水曜日

※他、臨時休業する場合があります