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【シナモンロールに導かれ/長野・軽井沢】一年後にまた会いたい、軽井沢のフィンランド「一年(いちねん)」

UPDATE:

フードイラストレーター

まるやまひとみ

シナモンロールが好きだ。
吸い込まれそうな渦巻き、半分に割った時の縞模様。
アーティスティックな姿に何度陶酔したことだろう。
溶けてしまいそうな甘さと芳香に満たされ、私の奥底に眠るシナモンロールの記憶を呼び起こす。
もっとシナモンロールのことが知りたい。シナモンロールに会いたい。
シナモンロールは私をあちらこちらに連れ出し、縁を繋いでくれる。
さあ、今日も今日とてシナモンロールを求め西へ東へ…

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一年前の今日、私は軽井沢にいた。
別荘地の一角に“一年だけ”オープンしていたフィンランドのシナモンロールとサーモンスープのお店「一年」。
目に映るその光景は、まだ見たことのない本場フィンランド。
一年が終わる前に、なんとしてもここに行きたい。
居ても立ってもいられず横浜を飛び出したあの日。忘れられない宝物のような一日。
帰り際に場所を移しての継続を知り、「必ず伺います!」と弾むように声をあげた。
私はその約束を果たすため、再び軽井沢に降り立つ。

※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税込です。

目次

暮らしのそばにある小さな文化複合施設

北欧のおうちのようなかわいらしさ。

北陸新幹線・しなの鉄道「軽井沢駅」から車で約10分。スイスをイメージした人造湖「レマン湖」が中心にある軽井沢レイクニュータウンへ。
フィンランドの空気をまとった小さなカフェ「一年(いちねん)」は、その湖を背にした商店エリア「KOHAN」の中にある。
2024年9月、別の場所に間借りというかたちで一年間限定のカフェをスタートしたが、この場所を続けたいという思いが静かに芽生え、同じレイクニュータウン内で2026年4月、現在のかたちで再び扉を開いた。

やや霧がかった朝の湖はとても幻想的。

入店すると、オーブンの中で焼き上がりを待つシナモンロールの甘やかな香りが全身を包む。
湖側にはテラス席を設け、奥深くまで続く緑の絶景をひとり占めできる。
木の温もりと余白をいかしたしつらえが、訪れる人それぞれの時間をゆっくりとほどいていく。

ここでは食べること、読むこと、手に取ることがゆるやかに結びついている。
1階にはフィンランドの定番であるシナモンロールとサーモンスープをメインに提供するカフェと、その一角にブックコーディネーター・内沼晋太郎さんの選書による「自然」「暮らし」「食」「旅」といったテーマごとの本が並び、ページをめくるたびに遠い北欧の風景が浮かび上がる。
2階のアート&クラフトギャラリー「friscum(フリスカム)」では、セレクトされた作家の手仕事による生活工芸品や暮らしの道具などが展示販売されている。

2階のギャラリーからも見える湖畔。その風景は絵はがきのよう。

食、本、雑貨。
これらに触れることで離れ離れだった要素が実は繋がっているのだと実感でき、「もっと知りたい」「大切にしたい」という気持ちが心に灯る。
ふとした瞬間に気付く自然の美しさ。澄んだ空気が三つを繋ぎ合わせる。

自然とともにある軽井沢で北欧の文化を尊ぶ

フィンランドから大切に持ち帰ってきたという北欧食器。

お菓子教室やレシピ開発などに携わってきた店主は、中軽井沢でカフェの立ち上げに関わったことをきっかけにこの地へ移住。
「そろそろ自分のことをやりたい」と思いを募らせていると、長屋の一部を使い「一年だけカフェをやらないか」との話が舞い込んだ。これが店名の由来となる。
ちょうど同じ時期に、ご主人や友人とフィンランドへ旅に出る予定があった。
ならば、その旅で得たものをカフェにしよう。そう決めて、現地の文化を学んだという。

フィンランドで最も身近だったのが、シナモンロールとサーモンスープ。

人の手で成形されたとは思えぬほど、規則正しく並ぶシナモンロールに感動!

このふたつは日本でいう、おにぎりと味噌汁のような存在。
とくにシナモンロールはカフェだけでなくコンビニでも売られ、家庭ごとにレシピがあるほど暮らしの中心にある食べものだ。
限られた食材を大切に使い、素材の味をまっすぐに引き出す北欧の料理は、どこか軽井沢の風土とも重なる。
理想の味を求めて食べ歩き、なかでも心に残った老舗カフェのシナモンロールを手がかりにレシピを磨きあげた。
生地には北海道産小麦「ゆめちから」、シナモンロールにはコクのある無塩バターを使用。
北欧のシナモンロールに欠かせないカルダモンは、お店でホールから挽いている。
かたちは“たたかれた耳”を意味する「コルヴァプースティ」というフィンランドで昔から愛される見ため。安定したかたちを作れるようになるまで何度も練習したそう。

焼き上がったばかりの芳醇なシナモンロールの香りに体が反応し、今すぐにかぶりつきたい!とうずうず。
湖畔の景色を眺めつつ、再会をじっくりと噛み締めよう。

何度でも会いたい!夢に見る本場のシナモンロール

シナモンロール

illustration by まるやまひとみ

強めの焼き色にパールシュガーの白が映える。
以前よりレベルアップした香ばしさと、カルダモンをアクセントにした北欧独特の香り。
これが朝一番に香ってくると、私は一日をパワフルに過ごせるのだ。

「シナモンロール」¥480(税込)、「青えんどう豆とスモークハムのスープ(ハーフ)」¥700(税込)、「コーヒー」¥500(税込)

今回はサーモンスープではなく、「青えんどう豆とスモークハムのスープ」をチョイス。
このスープは「木曜日のスープ」と呼ばれる北欧の伝統的な一杯。
私が訪れたのがちょうど木曜日だったので、このスープを飲みたいと思っていた。
もちろんコーヒーも外せない。シナモンロールとの相性を考えられた中深煎りのブレンドで、後味のほのかな果実味がパンの甘い余韻とやさしく重なる。
小さめのカップで提供されたコーヒーは一杯だけおかわりができる。
一杯のコーヒーを最後まで大切に飲むのもいいけれど、食後にもう一度温かいコーヒーを味わえるのは、なんとも嬉しい。

さあ、シナモンロールを耳から食べようか、パールシュガーたっぷりの真ん中から食べようか。

悩んだ末、こんがりと焼けた耳をがぶり。

カリッとザクッのちょうど中間的な歯切れのよさ。
焼き菓子にも似た焼き目の香りから生地のリッチさが伺える。
むぎゅっとした噛み心地、しっとりとふんわりのバランスに思わずにんまり。
カルダモンは噛むほどに爽快な風を吹かせ、かじった部分からは閉じ込められていたシナモンの風味が一気に飛び出してくる。
焼きたてのほのかな温もりがスパイスの香りを一層立ち上がらせ、バターのミルキーさがじんわりと。
コーヒーをひとくち含めばシナモンを包みこむようなコーヒーの香味が広がり、肩の力が抜けていく。
食べる手も止められない。ボリッボリッと近づいてくるパールシュガーの足音。
加速する惜しみない甘さが、スープの塩気とも不思議と合う。

濃厚なのに、さらりと飲める味わい深さ。

「青えんどう豆とスモークハムのスープ」は、ミルクを使わず、地元の無添加ハム工房から取り寄せたスモークハムと青えんどう豆をじっくり煮込んで撹拌。
凝縮されたうまみに、回しかけられたオイルがまろやかさを与え、くちあたりなめらかな仕上がりに。
通年メニューとして親しまれ、夏には冷製で軽やかに表情を変える。
トッピングのディルが北欧らしく、そして上品。
シナモンロールと交互に味わって、あっという間に空になった器を眺めつつ、おかわりのコーヒーで余韻に浸ろう…

頭の片隅に残り続ける色褪せない思い出

レジ横の誘惑。ひと皿ぜんぶ欲しくなる。

「一年」に行きたくて初めて訪れた軽井沢。
日本であることを忘れ、遠い存在だった北欧に一歩近づいた気がした一日。
大袈裟かもしれないが、私はあの日、確かにフィンランドにいた。
都会にはない空気、緑、空の広さ。目をつむれば思い出す風景は間違いなく一生の宝物だ。

湖のほとりで、パンをちぎり、スープをすくい、本を開く。誰かの手仕事に触れ、まだ知らない世界に思いを馳せる。
その積み重ねが、日々の暮らしをちょっとだけ豊かにしていく。
「一年」は、そんな時間の入口のような場所だ。
そしていつか、この小さなカフェがフィンランドにも根を下ろす日を夢見ているという。軽井沢と北欧をつなぐ物語は、まだ静かに続いている。

一年後もまたここで会えますように。

SHOP INFORMATION

SHOP 一年(いちねん)
Instagram https://www.instagram.com/ichinen_karuizawa
ADDRESS 長野県北佐久郡軽井沢町発地414-90
軽井沢レイクニュータウン内Kohan F-K
OPEN 8:30〜16:00
CLOSE 火曜日、水曜日

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