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【シナモンロールに導かれ/原宿】表参道を眼下に望む「VAT BAKERY(バットベーカリー)」

UPDATE:

フードイラストレーター

まるやまひとみ

シナモンロールが好きだ。
吸い込まれそうな渦巻き、半分に割った時の縞模様。
アーティスティックな姿に何度陶酔したことだろう。
溶けてしまいそうな甘さと芳香に満たされ、私の奥底に眠るシナモンロールの記憶を呼び起こす。
もっとシナモンロールのことが知りたい。シナモンロールに会いたい。
シナモンロールは私をあちらこちらに連れ出し、縁を繋いでくれる。
さあ、今日も今日とてシナモンロールを求め西へ東へ…

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

2022年3月。原宿・表参道のカフェブームの先駆けとして20年に渡り街を見守ってきたカフェ・ラウンジ「montoak(モントーク)」が幕を閉じた。
“看板のない店”でありながら知る人ぞ知る人気店で、閉店前は建物を囲むように列ができたほどだ。
原宿カルチャーを象徴するカフェとしてこの地に宿る魂はリレーのように受け継がれる。
2024年12月15日、モントークの跡地にコンセプトストア「V.A.(ヴイエー)」がオープン。
建物の外観や内装をいかした建築・ストアデザインは荒木信雄氏が手がけ、ショップ・ベーカリー・カフェの3つが重なり合う複合的なカルチャー空間へと生まれ変わった。
「V.A.」は“Various Artists”を意味し、「さまざまなモノやコトが交差する場所」として新たなカルチャーを発信していく。

※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税込です。

目次

記憶の継承と再構築

入り口に小さな看板を発見!

外観こそモントークそのままだが、以前カフェが入っていた1階がショップ、中2階と2階がベーカリー&カフェという構成になっている。
内装の一部をいかしながらも新しい要素が加わり、過去と現在が共存するような不思議な居心地。
静かで洗練された世界観が広がっている。

ショップの奥ではオリジナルアパレルグッズを販売。

1階は物販とポップアップスペースとなっており、「V.A.」のロゴが入ったスタイリッシュなアイテムなど、メンズを中心にユニセックスで身につけられるアパレル商品が販売されている。
驚いたのが、厨房がレジの向かい側に位置しているためショップからベーカリーのパンを焼いている様子が見られるところ。
それぞれが独立しながらも回遊することで感性が刺激される独特な構造が面白い。

高級感と懐かしさが混在。

ショップから階段を上がると、さらに中2階と2階に分かれたフロアへ。
それぞれに異なる空気が流れており、ベーカリーのある中2階からは老舗ホテルのロビーのような雰囲気が漂っている。
レトロな丸いタイルが表情をつけ、半階へと続く階段へと誘う。

落ち着く風合いと明るさはおひとり様でも利用しやすい。

中2階に置かれた椅子とテーブルは、2024年5月に閉店した神田の老舗喫茶店「珈琲専門店エース」で使われていたもの。
「V.A.」のオープンとタイミングが重なったこともあり、縁があって引き継がれたのだそう。
革張りの質感や重厚感が喫茶店らしい温かみと親しみを与える。
このスペースにはかつて多くの人に愛された時間の蓄積も息づく。

白と赤にブルーの三角メニューが映える。

2階に上がると雰囲気はガラリと変わる。
シンプルな設計の中に動きが感じられる象徴的な赤いボックスシートと白いアーチ。
近未来なようでレトロ感もある。
大きな窓からは表参道の並木道を見渡すことができ、外の喧騒を切り取りながらもどこか距離を感じさせる景色が特別なひとときを演出。
同じ場所でありながらも滞在の仕方によって印象が違う、グラデーションのある空間設計が感性に響く。

製法にもコンセプトが宿るベーカリー

ベーカリーにはパンにドーナツ、フィナンシェなどの焼き菓子も並ぶ。

「VAT BAKERY」はパンを売る場所であると同時に、カルチャーを提示する場所でもある。
ショーケースに並ぶパンは整然とした四角い造形のものが多い。
これは生地を「VAT(容器)」で焼き上げ、その後カットする工程から生まれるものだ。
均一に火が入ることでどこを食べても安定した食感が楽しめるだけでなく、断面の美しさも際立つ。

この日は苺を挟んだサンドイッチも。

整ったフォルムの中に彩りを加える食材。具材もはみ出るほどたっぷりだ。
メニューはベーカリースタッフが考案しているそうで、パンやサンドイッチに季節の味覚を取り入れるなど遊び心が見え隠れする。

バットで焼かれた四角いシナモンロールにくぎ付け。

「VAT BAKERY」のラインナップの中でも、ひときわ印象的なのがシナモンロールだ。
ベースとなる生地は、しっとりリッチなブリオッシュ。
コクと甘味が拮抗する絶妙なバランスに、巻き込まれたシナモンフィリング香り立つスパイシーさ。
バットに入れて焼くことで外側はサクッと軽やか、中はふんわり空気を含む仕上がりに。
そこにアイシングのなめらかな甘さやクランブルを重ねることで、単調になりがちな菓子パンにリズムを与える。
視覚的な美しさだけで終わらない、それこそが「V.A.」全体のコンセプトとも呼応している。

リズミカルな味わいでボリュームを忘れさせるシナモンロール

illustration by まるやまひとみ

今回いただいたシナモンロールは
●シナモンシュガー ¥400(税込)
●レモン ¥450(税込)

定番のシナモンロールはシナモンシュガー・ブルーベリー・レモンの3種類。
四角くカットされたシナモンブレッドに一つひとつトッピングをほどこす。

赤いソファーにシナモンロール、気分はアメリカンダイナー。

「VAT BAKERY」のシナモンロールは、層・食感・余韻の三重奏から成る独特の味わいが特徴的だ。
ひとくち目から感じるバターのリッチさとシナモンの香り。追いかけるようにじわっと舌を撫でる甘さ。
時間差で現れる風味に歯応えが重なり、シナモンロールであってどこか焼き菓子のような満足感もある。
このリズムとコントラストが楽しくいつまでも食べていたい。

焼き目はしっかりこんがりと。

アイシングのやさしい甘さにアーモンドとクランブルのざくざくとした食感を重ねた「シナモンシュガー」。
複雑に入り組んだシナモンとトッピングの不規則性により、食べる箇所によって味が変化していく。
表面は香ばしく、生地はほどけて小麦の香りが立ち上がる。
アーモンドのほろ苦さやクランブルのバターが混ざり合い、最後には口の中でひとつにまとまっていく。
メリハリのあるアクセントが手を止めさせない。

躍動する断面もおいしさの証。

シナモンブレッドにレモンカスタードとイタリアンメレンゲを絞った「レモン」。
ソフトなメレンゲがシュワシュワと溶け、レモンカスタードがキレのある酸味で魅了する。
シナモンとレモンの鮮烈な香りが口内に響き、味の輪郭をシャープにする。
甘さ・香り・酸味のバランスで成立する一体感はレモンパイを彷彿とさせ、満足感はあるのに重くないフレッシュさが次のひとくちを誘い出す。

口に残るレモンの余韻そのままに華やかに締めくくる。

コーヒーは、コロンビア・ケニア・エチオピアの3種からコロンビアを。
それぞれの個性をいかしながら、店内で一杯ずつドリップされる。
マグカップにたっぷり注がれたコーヒーは、マイルドな苦味に余韻はすっきりと。
スイーツ系にも食事系にも合う穏やかな風味で、シナモンロールの甘さをやわらかく包む。
厚みのあるマグカップで冷めにくく、誰かとおしゃべりしながらゆっくり味わうのにもありがたい。

常に更新され続ける新しさも“原宿らしさ”

椅子の色と重なり合うカフェパリス。

店内では「珈琲専門店エース」の名物であった「のりトース」もいただける。
スナック感覚で食べられる塩気の効いた「のりトースト」には、オリジナルドリンク「カフェパリス」がマッチ。
シロップ入りの甘いミルクに濃く抽出したコーヒーが層状になっている。
混ぜずに飲むことで口の中で味がゆっくりと溶け合うおしゃれな一杯でカクテルを飲んでいるような錯覚に。

実は「モントーク」も、1970〜90年代に伝説のカフェと言われた日本初のオープンカフェ「カフェ ド ロペ」の跡地にその想いを引き継ぐ形でオープンしたカフェだった。
長年多くの人に親しまれてきたカフェや喫茶店の記憶が、「V.A.」という新しい場所で静かに息づいている。
そこに座り、パンを頬張り、コーヒーを飲む。その何気ない一瞬の中にある、過去と現在が自然とつながっていくような感覚。
ただ流行を追うのではなく、異なる時間や価値が味わいを生み、ひとつの体験として次なる記憶としてこれからも残っていくことだろう。

SHOP INFORMATION

SHOP VAT BAKERY(バットベーカリー)
Instagram https://www.instagram.com/vatbakery
ADDRESS 東京都渋谷区神宮前6丁目1-9 2F
TEL 03-6419-7237
OPEN 10:00〜20:00(L.O.19:30)

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