お店のスタートはおいしいいちごとの出会いから

maisondefrouge_01

まずは、いちご専門店を出されるようになったきっかけを教えていただけますか?

渡部いちごとの出会いは、以前お仕事をしていた会社の取引先の女の子が 「すごくおいしいいちごを見つけたから!」と、教えてくれたことがきっかけです。そのいちごが衝撃的な美味しさで。それがすべてのはじまりですね。

紹介してもらったいちご農家さんは2代目の方だったのですが、直売もしていきたいという気持ちの強い方だったんです。その方の心意気に惹かれて、最初はその農家さんがつくったものだけを広めるためにお店を始めました。

その農家さんがつくったいちごだけですか?

渡部そうです。その方のいちごを広めるためだけのお店です。

それから広がっていって、今では各地の農家さんからいちごを取り寄せていらっしゃいますね。

渡部今日(取材時)入荷しているのは、宮崎の「さちのか」と「おおきみ(完熟大粒いちご)」それから、奈良の「あすかルビー」と「古都華」。あと三重県と愛媛県の「紅ほっぺ」と 「おいCベリー」あとは「レッドパール」です。(*注1)

例えば、同じ「紅ほっぺ」でも生産される農家さんごとに味が違っていて、使うお菓子も違ってきます。これらは「一季成り」と言って、今のシーズンしかできないいちごです(*注2)。

maisondefrouge_02

今取り寄せているいちごは、西日本の農家さんが栽培されているいちごが中心ですか?

渡部そうですね。

ちなみに、東日本と西日本ではいちごの味に違いがあるのでしょうか?

渡部関東の人が好きないちごの味と関西の人が好きないちごの味は違うらしいんですね。

どういうことだろうと思って考えてみたのですが、関東では比較的やさしい感じのいちごの味が好まれる感じがします。 対して関西では、結構はっきりとしたいちごの味を好むところがあるように思います。

味がはっきりするというのは、つまりは甘みと酸味のどちらも強い味を好まれるということになると思います。

農家さんに足を運び、自分が納得できるいちごを提供する

取り寄せているいちごは、ほぼ無農薬栽培のものにこだわっているそうですね。

渡部無農薬や有機栽培に近いいちごだと、ほとんど洗わなくてもお客さまに出すことができます。いちごは本当に繊細な果物なので、水にさらした時点ですぐに表皮が傷んでしまうんです。

お店で使ういちごに関しては、私自身が必ず農家さんのところに直接足を運んで、どういう考えでつくっていらっしゃるかを確認してます。土壌もみて、これなら大丈夫と思う農家さんのいちごをお店で提供しています。

maisondefrouge_03

農家さんとの信頼関係が、完熟いちごを提供できることにつながっているのですね。

渡部そうですね。お店では農家さんに届けていただいたものをすぐに使っているので、どの農家さんも安心してギリギリまでいちごが熟してから収穫してくださいます。

お店では、特に味が濃いいちごを選んでいるので、食べたときのいちごの濃厚さを通じて、いちごの甘みと濃厚さはこれほど深い味を生み出すのだ、ということや、濃いいちごはこれほど味が違うのか、ということを感じてもらえるのではないかと思っています。

メゾンドフルージュの人気商品「ショートケーキ」と「ミルフィーユ」

さっそく、メゾン・ド・フルージュの人気商品をいただきました。

maisondefrouge_04

ショートケーキは、4層に収まったいちごの品種の違いがわかるほど、濃いいちごの甘みと濃厚さをはっきりと感じることができるケーキでした。さらに、とろけるようなスポンジは、クリームとの絶妙なバランスに驚きました。これこそが“いちごを引き立てるケーキ”なのだと思いました。

そして、鮮やかなビジュアルが大人気のミルフィーユをいただきました。

maisondefrouge_05

ミルフィーユに使われているいちごは本当に色とりどり。それぞれのいちご自ら個性を出しているかのように酸味、甘みは様々。なのにパイとクリームの中でミルフィーユとして味がまとまっていて、これまでに味わったことのない食感が楽しいケーキでした。

いちごを引き立てるためのお菓子づくり

ショートケーキは、いちごの水分が多いとスポンジやクリームに影響しないんですか?

渡部私たちが使っているいちごは、何日間もお水を与えられいないようないちごです。スパルタで育てられているので、いちごの味がギュッと凝縮するんですね。だからこそ、私たちが提供しているショートケーキは、いちごの香りと酸味と食感が一番引き立つお菓子にしあがっています。

maisondefrouge_06

ショートケーキを通年で提供される上で、工夫されていることはありますか?

渡部いちごの甘みと酸味とのバランスが取れるように、スポンジやクリームを季節によって調整しています。 いちごのためだけにお菓子をつくっているので、いかにいちごを引き立てるかを常に考えています。

お店で扱われているいちごのお菓子の中で、一番難しいお菓子はありますか?

渡部 「2品種の苺タルト」です。タルトは生食に近いいちごのおいしさが求められます。夏になるとどうしても酸味のあるいちごが多くなるんですが、夏の暑い時期には、人の体は酸っぱいものとか酸味とかさっぱりしたものを欲しがるので、それほど嫌な感じはしないと思います。

maisondefrouge_07

夏場のタルトを提供する上で工夫されていることはありますか?

渡部それぞれの夏いちごの特徴にあわせて、夏の蒸し暑さに合う甘みやすっきりとした味わいに仕上げていくための工夫を行っています。具体的には、タルト生地を変えたり、クリームの配合を変えたり、タルトの上に敷くジャムを夏らしいものに変えたりしています。

もっといちごを深く知るために

これからの抱負をぜひお願いします。

渡部今のお店では全国のいちごを入荷するのに手狭になってきました。実は、別の場所に、いちごが研究できるアトリエを造ったばかりなんです。

アトリエでは、全国のいちごをいろんな状態で加工したり、いちご自体の味のバランスが数字で示せるような実験を行っていきたいですね。

これからもっといちごを深く掘り下げて、いちごを理解したいと思っています。

ちなみに、お店の名前MAISON DE FROUGE(メゾン・ド・フルージュ)、このFROUGEという言葉は造語ですか?

渡部あ、よくわかりましたね! 「FROUGE(フルージュ)」は造語なんです。フランスの方が、FROUGEと聞けばfruit rouge(赤い果物)の略だなって想像がつくような造語らしいです。

maisondefrouge_08

赤い果物!お店にぴったりの名前ですね。今日はお話聞かせていただき、ありがとうございました。

dots

インタビューを終えてから、これまで、ケーキの脇役だと思っていたいちごに謝りたい…。そんな気持ちでいっぱいになりました。

いちごの研究のために全国の農業試験場にも足を運ぶことがあるという渡部さん。渡部さんのいちごへの飽くなき探求心は、これからも日本各地のいちごとの出会い、そして新しいいちごのお菓子との出会いを私たちに与えてくれそうです。

dots

お話を伺った人 : 渡部美佳さん

maisondefrouge_09

メゾン・ド・フルージュ苺のお店 代表/苺のお菓子研究家

2003年にいちごのお菓子専門店をオープン。 いちご農家へ直接足を運び、栽培契約したいちごを使ったお菓子を製作。四季の変化と共に、その時々に一番適したいちごの食べ方を提案している。

*注1 : インタビューで紹介されたいちごの品種について

さちのか :
野菜・茶業試験場久留米支場で育成され、2000年に品種登録されたいちご。「とよのか」と「アイベリー」の交配種。

おおきみ :
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構で育成され、2011年に品種登録されたいちご。「さつまおとめ」と「いちご中間母本農1号」の交配種。宮崎や熊本などで生産されている。

あすかルビー :
奈良県農業試験場で育成され、2000年に品種登録された「アスカウェイブ」と「女峰」の交配種。出願時の名称は「奈良7号」。

古都華(ことか) :
奈良県農業総合センターが育成し、2011年に品種登録されたいちご。

紅ほっぺ :
静岡県農業試験場で育成され、2002年に品種登録されたいちご。「章姫」と「さちのか」の交配種。

おいCベリー :
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構で育成され、2012年に品種登録されたいちご。「さちのか」を父親に持ち、ビタミンC含量が高いことで知られる。

レッドパール :
1993年に品種登録された「アイベリー」と「とよのか」の交配種。

参考)農林水産省 品種登録ホームページ内 品種登録データベース

*注2:

一季成り性いちごとは、冬から春にかけて実がなるいちごのこと。現在、日本では夏から秋にも実が成る四季成りいちごの栽培技術の研究開発も進んでいる。