「あれ?ここにお店なんてあったっけ……?」

いつもよく通る道、いつもの日常、いつものわたし。変わらない毎日で違ったのは、そこに新しいお店ができていたこと。

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わたしが「TAJIMAJI(タジマジ)」を知ったのは、そんな日常の延長線上でした。

渋谷、恵比寿、代官山。どの駅からも少し距離のある住宅街に新しくできたクレープと花のお店。おしゃれなのにオープンな雰囲気は朗らかで、クレープは甘すぎなくて優しい。

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店長の大竹さん

「クレープ」と「花」……?

どうしてその組み合わせなんだろう。お店を通り過ぎてからも詳しくお話を聞いてみたい!と思い、取材を申し込みました。

この日お話を伺ったのは、TAJIMAJIのオーナー・掛川さんです。掛川さんはTAJIMAJIの上の階のビストロ「Ata」のオーナーでもあり、フレンチの料理人でもあります。

「クレープ」は、もっとおいしくなる

まずは、数あるお菓子からどうしてクレープを選んだのか教えてもらえますか?

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オーナーの掛川さん

掛川クレープは、もっとおいしくできるお菓子だと思ったんです。子どものころから好きで食べていたのに、大人になってから食べると物足りなく感じてしまって。そんなとき、「もっといいもの使ったらいいのに」「僕らだったらもっと夢のあるものつくれるぞ」と思ったんです。じゃあ、職人が本気でおいしいクレープをつくってみたらどうなるかなと思ったことがはじまりです。

「もっとおいしくできる」……料理人ならではの視点ですね。

掛川先ほどクレープを焼いていた店長の大竹も、レストランデセール(コース料理のデザート)をつくる、実力あるパティシエです。実はお店の奥にここ(お客さんが見える範囲)の倍の大きさの工房があって、生地はもちろんクリームや中に入っているマカロンやフロランタンなどの焼き菓子、アイスなど、ほぼすべてを手づくりしています。

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左:プリムラピスタチオ / 右:アドニスキャラメル。クレープに乗るすみれのクリスタリゼやマカロン、キャラメルティーヌやフロランタンもすべてお店で手作り

クレープを食べたときに、生地がモチモチしている印象がありました。生地にはどういうこだわりがあるんですか?

掛川かなり絶妙なバランスでつくっています。食感としてモチモチしてるだけではダメで、サクッと前歯が入っていく歯切れの良さもほしい。米粉をもう少し加えたり小麦粉ちょっと増やしたりと、分量を細かく変えて何度も試作しました。

ほかにも焼くときに立ち上がるラム酒の香り、バターの焦がし方……こだわってないところがないですね。

(少し圧倒されて)すごく、細かく考えられているんですね……!

掛川とってもマニアックな話ですよね。

いえ、プロの本気を感じました!

掛川でも生地が主役になっちゃうと、それはそれでちょっと違うなと思います。飽きのこない軽さというか、あくまでも中のフィリングと生クリームのバランスを考えてつくっています。

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例えば、人気商品の「アドニスキャラメル」の素晴らしいところは、上に乗っているヌガティーヌ(キャラメルをナッツを加えたり、アレンジしたもの)の薄さや軽さ。食べたときにちょっとでも固いなと思ったらだめなんです。サクッと入る感じの歯ざわりを探しました。

「プリムラピスタチオ」に入っているマカロンも、カリッサクッと歯の入るタイミングがクレープとよく合うんですよね。

食感やタイミングも計算されているんですね。

掛川クレープは食べる方向が決まっていて、基本上から下へ食べていきますよね。パフェもそうですが、実はそういう食べ物って珍しいんです。食べる順番や最後に食べるものが決まってるからこその面白さも感じます。

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クレープとお花の距離がどんどん近づいていった

どうしてクレープと「お花」だったんでしょうか。

掛川クレープのお店をやりたいなと思ったときに、何かとクレープを掛け合わせたお店がいいなと考えました。これは僕のやり方なんですが、どんなお店をつくろうかと考えるときには、ストーリーや世界観を描くんです。主人公を立ててキャラクターをつくります。

お店づくりとストーリー。どんなお話なんでしょう。

掛川世界中の庭をつくって旅をする庭師を主人公にしました。彼を中心にストーリーを考えているうちに、でき上がったクレープと花束の形が似ているな、クレープ屋に花屋が併設されていたらおもしろいな……そんなふうに考えました。

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掛川「TAJIMAJI」というお店の名前は、中世ヨーロッパのころにあったブーケ「Tussy Mussy(タジマジ)」に由来します。タジマジには“手紙”のような役割もあって、花言葉を組み合わせることで、贈った相手に思いを伝えていたんです。

クレープも紙に包んで届けますよね。そこで、主人公の庭師がクレープに思いを乗せて焼く……とストーリーを考えていたら、クレープと花の距離がどんどん近くなっていきました。

クレープの商品名がお花なのも、ストーリーに沿っているからなんですね。

掛川そうですね。例えば「ホワイトローズバッド」は、訳すと「白いバラのつぼみ」です。上にも乗っているメレンゲや生クリームと白い塩アイス、全部が白でできているクレープで、食べている間に温度感や食感がどんどん変わっていきます。

塩が出てきたりメレンゲのカリカリが出てきたり……。それが無垢な少女が大人になっていく姿に重なるなと思いました。それをヒントに花と花言葉を探していって、ホワイトローズバッド「恋をするには早すぎる」になりました。

なんてロマンチック……! クレープとイメージのお花、どちらを考える方が先ですか?

掛川まずはクレープが先ですね。ひとつずつ、シンプルなものがほしいね、クリーム系がほしいねって決めていきました。ほかにも、マカロンが入ったものや生地がメインのものをつくりたい、と。

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掛川あとは、どうやって食べてほしいか、シーンをイメージしました。他にも「イベリスフレーズ」は、“ショートケーキを食べる”がテーマで、小さい子どもが口いっぱいにショートケーキを頬張るところをイメージしています。食べたときに口の端っこが、生クリームで溢れる感じ。

メニューを開発して、それから名前やイメージを考えていくんですね。

掛川そうです。ただ商品開発をする、おいしいものをつくるだけでなく立体的に考えています。クレープを選ぶ、食べる。花も選ぶ。庭師の物語を読む。いろんな感覚、五感を全部使って、TAJIMAJIの世界観を味わってもらいたいんです。

花束を、シンプルに日常に取り入れられたら

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お店のイメージもメニューも、すぐ決まったんですか?

掛川お店のビジュアルはすぐに決まりましたね。花屋があってクレープ屋があって花束みたいなクレープがあって……。決まらなかったのは花の持ち方。どうやったら花を持ち歩かせられるかなって。

わたし、実は花束が苦手です。もらってもどうしたらいいかわからないし、おおげさな気がしてしまうんです。

掛川うれしいんだけど意外と困っちゃうんですよね。だから花束は日常から遠いのかな。もっとシンプルでもいいなって思うんです。生花を持ってると、かなり気分上がるんですよ。コンビニで立ち読みしていても気持ちが違う。

ちょっとした非日常を味わえますよね。

掛川そう。だから、花束をどう持ち歩いてもらうかを考えました。それこそ1日ずっと持ち歩いても大丈夫な花束を、と思っていて。お店の名前の由来にもなったタジマジは、ホルダーに入れて持ち歩くブーケだったのでそれを踏襲する形にしました。

持ち歩ける花束なんですね。

掛川両手が空くように、チェーンをつけました。

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わ! すごい! これなら腕にかけて持ち歩けますね!

掛川カバンにもかけられるし、服やコーディネートに合わせて花を選んでもいい。日常と花束がもっと近づければいいなと感じていてます。例えば女の子との待ち合わせで、毎回花束あげるような日本になっても僕はいいかなと思っています。

お菓子みたいに手軽にお花をプレゼントする世の中になったら、少し世界が明るく見えそうです。

掛川お店にクレープを持ち帰るバッグを用意していないことも「包んだものを手渡しで渡す」花束と通じるスタイルなんです。こういう直接渡すというアナログの感じがすごくいいなあ、って思ってます。

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職人のクレープには「おいしい」はもちろん、強いこだわりやストーリーが存在していて、それこそがお菓子やお店の世界観を立体的にしています。

いつもよく通る道、いつもの日常、いつものわたし。

そんな「いつも」を彩るクレープとお花があれば、見えている世界がパッと明るくなるんじゃないか。お話を聞いて、そんなことを考えました。

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教えてくれた人
掛川哲司さん
TAJIMAJIオーナー。「近所の人が通える、この場所に根を張った花屋でありクレープ屋でありたいです」
商品リスト
プリムラピスタチオ
900円
アドニスキャラメル
800円