沖縄県中部に位置する北谷町(ちゃたんちょう)は、西海岸にエメラルドブルーに輝く海が広がるリゾートエリア。そのなかでも美浜地区は、大型の商業施設や異国情緒溢れるアメリカンビレッジがあり、多くの地元県民や観光客が訪れる場所。今日もたくさんの観光客の笑顔がきらめきます。

そんな賑やかな観光地のなかとは思えないような、静かな時間の流れる海辺の建物の2階に、「TIMELESS CHOCOLATE(タイムレス・チョコレート)」はあります。

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チョコレートの原料であるカカオ豆から一貫して、カカオ豆の個性を引き出したチョコレートをつくる。いまやビーントゥバーカルチャ—は、東京を中心として全国に広まりました。

そんななか、沖縄初、現在は沖縄唯一のビーントゥバー専門店であるのが、ここ「TIMELESS CHOCOLATE」です。

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オーナーの林正幸さん。沖縄に来て間もない頃、偶然出会った博識のおじいさんにお世話になったそう。「お前、ヒゲ生やせ。いつか自分のためになる。」と言って去ったというエピソードからトレードマークのヒゲを蓄えているのだとか。

どうして、チョコレートづくりに不向きともいえる気候の沖縄でビーントゥバー専門店を始めようと思ったのか。ビーントゥバーブームで多くのブランドが出来ていくなかで、どんなものをつくっていきたいのか。オーナーの林さんに伺いました。

食べていくうちに、味わいと食感が変化するチョコレート

チョコレートを食べてみると、口の中でカカオ豆がはじけたときのインパクトがありますね!

そうなんです。チョコレートの味わいは音楽と似ています。音の旋律が変わるように、口の中で変化していく味わいを楽しんでほしい。だから、あえて粗挽きにして、豆に当たったときパッとはじけるような面白さを演出しています。

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店内のショーケース。ケーキにティラミス、プリンにマカロン、クッキー。ビーントゥバーとしては珍しいほどの品揃えの豊富さです!

TIMELESS CHOCOLATEでは、「島ザラメ」と「多良間島産純黒糖」の二種類の砂糖を、使い分けていますね。

はい。カカオ豆や、表現したい味わいに合わせて使い分けています。今はビーントゥバーのお店がたくさんできたけれど、砂糖をここまで細分化して考えているのは、ぼくたちのところだけかもしれません。

ほんとうは、まだまだ砂糖のバリエーションも、組み合わせもあるのですが、あんまりマニアックなものを出して売れなくてもしょうがないので、いまは基本の4種類だけにしています。笑

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チョコレートブラウニー(右)と、カカオの果肉を使用したキャラメル(左)。キャラメルには沖縄特産のヤギヨーグルトを使用。サトウキビ以外にも、沖縄らしい素材を使用しています。

究極のサトウキビとチョコレートのコラボレーション

なんと、TIMELESS CHOCOLATEさんは、原料である砂糖にこだわり抜いた結果、サトウキビを育てて自分たちで黒糖にするという偉業までこなしていました。

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「沖縄県産”純”黒糖」 60グラム800円

こちらの「沖縄県産”純”黒糖」 は、原料としての砂糖を追い求め続けた林さんが、こだわり抜いてつくった黒糖。なんと、地元の農家さんから場所を借りてサトウキビをつくり、自ら手刈りし、蜜を絞っているのだといいます。刈り立てのサトウキビを絞っている林さんの姿が、こちら。

僕が週一で、南部にある指定農園までサトウキビを刈りに行っています。手刈りが重要なんです。機械で刈り取ると、どうしても本来は必要のない部分まで入ってしまい、結果として雑味が出てしまいます。

きれいに澄み切った味のサトウキビをつくりたかったから、自分たちで育てて、刈ることにしました。

今は、サトウキビ職人もずいぶんと少なくなっています。昔ながらの釜炊きの黒糖をつくれる職人さんは、島にも数えるほどしかいません。そのうちのひとりである渡久地さんにお願いして、僕たちの理想の黒糖をつくってもらいました。

それが純”生”黒糖です。

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「純”生”黒糖チョコレート」 3粒入り1280円

写真中央に写っているものが黒糖なんですが……ほんとうに黒糖?しんじられない食感と、すっきりした喉越しに驚きました。

独特の焚き方をしているから、食感も味も、普段食べている黒糖とは全く違う。まるであんこのような口溶けと、多彩に変化していく味わい。まさに「究極のサトウキビの結晶」です。

この黒糖にチョコレートをどう合わせるか考えたのですが、もう、ガチンコでぶつけあうしかないな、と思いまして、混じり気のない100パーセントの黒砂糖を、カカオ分100パーセントのチョコレートで包むかたちになりました。

はじまりは、コーヒーと砂糖への探究心

林さんは、もともとはコーヒーが好きで、勉強されていたとお聞きしています。

そうなんすよ、コーヒーが好きで世界中のカフェを見て回ったりしていましたが、衝撃を受けたのはサンフランシスコ滞在中のことでした。

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バックパッカーで世界を巡るなど、昔から旅好きだった林さん。初めての一人旅は小学生の時だったとか。

当時ぼくは仲間とよくツーリングをしていて、道中の集合場所代わりにしているカフェがあったんです。スペシャリティコーヒーのお店で、そこでコーヒーが豆によって全く違う香りや味わいがあることを知り、驚きました。

コーヒーの面白さに気がついて勉強していくと、今度はコーヒーに入れる「砂糖」の可能性に興味が湧きました。

砂糖?

砂糖も、すごく面白いんですよ!育てる土壌、気候、標高、いろんなものが味に影響してきます。

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TIMELESS CHOCOLATEでは、チョレコートに使用している砂糖を単体で試食することができます。

たとえばエスプレッソは、日本だとブラックでぐいっと飲むものだ、と思われている方も少なくないと思います。一方オーストラリアでは、コーヒーに入れる砂糖は豆の持つ味わいを引き出すためのもの、と考えられているんですよ。

砂糖を加えて豆の味を引き出す、というのはチョコレートと同じですね。

はい。実際、コーヒーで学んだ焙煎、抽出による味の違いやテイスティングの経験は活きていると感じます。ロースティングやブレンドによって、どういうふうに原料である豆の味を引き出すか、といった部分で、コーヒー豆とカカオ豆はとてもよく似ています。

コーヒーからチョコレートへ。キーワードは「原料」

沖縄には、もともとはコーヒーをやるつもりでやって来ました。砂糖について突き詰めるなら、生産地に住みたいなと考えるようになったのです。

生産地に住むという発想、すごいです。

そうなると沖縄か鹿児島しかありません。地元・横浜を離れて、やってきたわけです。でも、実際に沖縄に来てみたら、もう、いたんですよ。

コーヒーをやっている方が?

そう。たとえば、那覇市の「potohoto(ポトホト)」さんや、沖縄市の「豆ポレポレ」さんですね。彼らのことは、ものすごくリスペクトしています。ぼく自身、世界レベルのコーヒーを体感しているつもりいましたが、ここのお店のひとたちは、ぼくなんかよりずっと….…変態なんです(笑)。もちろん大真面目な褒め言葉ですよ。

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お店で扱う食器の多くは、沖縄の陶芸作家 今村能章(いまむらよしあき)さんの作品。

それから、コーヒー以外で”原料としてのサトウキビ”に向き合えるものづくりを考えた結果、ジャムや酵素ジュースなどもつくりはじめました。そうして、ほそぼそとサトウキビのことを探求していたとき、沖縄で新たな食のイベントが開催されることが決まりました。

どうせなら、親しみやすいものをつくろう。そこで思いついたのが、チョコレートでした。そのとき、はじめてビーントゥバーのチョコレートを販売しました。

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お店には常時ガーナ、キューバ、ベトナム、コロンビアの4種類の原産地違いのチョコレートが置かれています。

当時はビーントゥバーの文化が日本にまだ入ってきてもいない時期で、ノウハウも機械もありませんでした。ネットで英語圏の文献を含めてリサーチをして、手探りでつくりました。これが評判がよかった。

手探りではじめたビーントゥバーづくり

お店のオープンは2014年ですが、それよりもずっと前から、ビーントゥバーづくりをされていたわけですね。

そうです。2012年というと、日本でビーントゥバーづくりをしているひとはまだ数えるほどしかいませんでした。当時はハウツーがまったくわからず、とてもアナログな方法でチョコレートづくりをしていました。

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店内の照明は控えめに、テラス席のある窓から日差しの差し込む店内。

ホームセンターで風呂桶を買ってきて、そこにカカオ豆をバーーッと広げて。それから棒でゴリゴリ押して皮と中身が剥がしたら、ドライヤーで皮だけ飛ばす、なんてことをしていましたよ。笑

カカオ豆の皮と中身を分けるためだけに、ものすごい労力ですよね。メランジャー(※1)もなく、お家にあったミキサーを使用していました。とにかく、なんでも試しました。

(※1 カカオ豆をすりつぶして滑らかな状態にする業務用の機械。現在はほとんどのビーントゥバーブランドで導入されている)

ビーントゥバーのチョコレートでつくる、多種多様なスイーツ

お店に並ぶたくさんのビーントゥバースイーツ。来るたびにメニューの一部が変わっていて、とてもたのしいです。

うちのスタッフには、元バーテンダー、すし職人、アパレルやWEB、フランスでパティシエールをしていた経験者などがいます。本当に多彩です。彼らのおかげで、いいもの、あたらしいものをつくることができます。

僕がやっていることなんて一握りで。人に恵まれているからできていることばかりです。

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店内のショーケース。ケーキにティラミス、プリンにマカロン、クッキー。ビーントゥバーとしては珍しいほどの品揃えの豊富さです。

すごい。ちなみに、ケーキなどに使用しているチョコレートはどこのものですか?

実は、ケーキやその他のスイーツに使用しているチョコレートは、販売しているタブレットのチョコレートとはまた別につくっています。

製菓用につくっていて、販売しているタブレットよりも滑らかなものになっています。カカオ分は66%以上で、ガーナとキューバをブレンドし、お砂糖も島ザラメと純黒糖をオリジナルでブレンドしています。

想像以上に手間がかかっていて、驚きました。

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コロン、と可愛らしいマカロン。上から順に、キューバ&キャラメル、ベトナム&ラズベリー、ガーナ&マンゴー。産地によって異なるチョコレートの味わいと、相性のよい素材を組み合わせている。1個200円。
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3層と手の込んだチョコレートケーキ 580円。こちらはレギュラー商品なので、通年食べられます。テイクアウトも可能。

お店はカルチャーの入り混じる社交場でありたい

開店から一年以上経って、いかがですか?

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店内のようす。外国人のお客さんも多く、メニューは日英両方で表記されています。

ここのお店の前にも飲食店経営をしていたことがありましたが、次にお店をやるときには、カルチャーの入り混じった社交場をつくりたい。来てくれたひとびとが刺激を受けて帰られる場所にしたい。そういった思いがありました。

確かに、イベントや店内販売をとおして、いろんな作家さんとコラボしていますね。

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店内で販売されている、キャンドル作家さんとのコラボ商品。

サンフランシスコにいたときに通っていたコーヒー屋さんのお話になるのですが、お店の方が「せっかく店をやってるんだから、毎回刺激を受けて帰ってもらわなくちゃ」って僕に言ったことがありました。それが超クールだなって。

そのサンフランシスコのコーヒー屋さんではアーティストの絵の展示なども行なっていて、ギャラリーとしても機能していました。TIMELESS CHOCOLATEでも、地元のアーティストさんの作品を展示したり、コラボしたりしていますよ。

嘘をつかないものづくりをする

インタビュー中、林さんは「原料の本質」「本物を伝えたい」というワードを繰り返しました。そこにある想いとは、いったいどんなものなのでしょうか。見えない想いを確かめたくて、最後に「”本当の味”とはなんだとおもいますか?」という質問を投げかけてみました。

難しい質問ですね、という言葉に続いて、真剣なまなざしで「変化し続けるもの」だと林さんは語ります。

ひたすらに原料に向きあうことが必要で、そこに嘘はあってはならない、と。そうすれば、流行は気にかけなくてもいい。

質のいいものをつくるためには、変化する原料の質や特性に合わせていく必要があります。よって、焙煎や配合を変えることもある。だからTIMELESS CHOCOLATEでは大手企業のように、年中同じ味はつくれない。でも、それでいいのだと。

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店内に配置された機械には、ROCK AND ROLLの文字。

林さんからお話を伺いながら、わたしは、あるひとのことを思い出していました。以前にCAKE.TOKYOの取材でインタビューした、りんご飴専門店「ポムダムールトーキョー」の店長、池田さんです。この二人の想いや考え方に、共通点を感じていました。

なぜならば、池田さんもインタビューのなかで、まったく同じことばを発したからです。「(りんご飴は)絶対に売れる確信がありました。嘘さえつかなければ」と。

嘘をつかない。

チョコレートはカカオ豆と砂糖で、りんご飴はりんごと砂糖で出来ています。どちらも原料はとてもシンプルです。

原料の味をごまかさないこと。それから、お客さまに嘘をつかないこと。商品が少ないからこそ、プライドをもって、ものづくりをする。そうすれば、わかってもらえる。必ず。

想いが、ひしひしと伝わってくるインタビューでした。流行りものだって、いいかもしれない。わかりやすいものは、親しみやすい。でも。そうじゃない、いいものだってある。

シンプルで丁寧で、沖縄の地でしかできないものづくり。TIMELESS CHOCOLATEさんには、これからも頑張ってほしいと思います。

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【教えてくれたひと】

林 正幸(はやし まさゆき)さん
TIMELESS CHOCOLATEのオーナー。

若干イカつそうな風貌とは裏腹に、とてもおだやかでフレンドリーな方。バックパッカー、カメラマン、飲食店経営、などを異色の経歴をもつ。