日本のチョコレートを変えた、ショコラティエの”先駆者”

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土屋シェフといえば、伝統あるお菓子大国フランスまでもが認める、日本のトップショコラティエ。フランスで6年間修行したあと、日本のチョコレート文化を発展させるため、自身のお店をオープン。これまでに数々の賞を受賞してきた、ショコラティエの草分け的存在です。

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そんなシェフが1999年にオープンした「テオブロマ」は、世界中から厳選して仕入れたカカオ豆を原料にしたクーベルチュール(製菓用のチョコレートのもと)はもちろん、さまざまなチョコレートやケーキ、ジャム、焼き菓子など、幅広くあつかうお店。併設されたカフェでは、ショコラショーなどのドリンクを楽しむこともできます。

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店内狭しと並べられた絵画や彫刻のコレクションは、すべて、土屋シェフが自身で蒐集したもの。
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店内に展示しきれないコレクションが、まだまだ自宅に眠っているのだといいます。

僕らは“おやつ”をつくっているわけじゃなくて

「サンフォアキン・ドス」の見た目は、いたってシンプル。チョコレートガナッシュと生地が、飾り気なく重なる、ミニマルな印象のケーキです。それでも、口に入れた瞬間に広がるチョコレートの濃厚な甘みには、思わず声がもれてしまいそうに。さらりと溶けて、なくなってしまったあとには、舌の上に、スムースなコクと、そして、ほのかな柑橘系の後味だけが残ります。

「テオブロマ」を語る上では欠かせない「サンフォアキン・ドス」の魅力について、土屋シェフに聞いてみました。

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土屋もともとは「サンフォアキン」という商品だったんです。アップデートを繰り返しながら生まれたのが、この「サンフォアキン・ドス(スペイン語で“2”をあらわす)」。

京都弁のギャグではなかったんですね(笑)。スムースな口どけと酸味が印象的ですが、やはり、こだわっているポイントなのでしょうか?

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土屋そうですね。こだわっているポイントはふたつあって、まず、生地に、粉を一切使っていないこと。卵とチョコレートだけでできているから、ムースのように口どけがいい。香りをかいだとき、口のなかに含んだとき、食べ終わって鼻から抜けるとき、それぞれの段階で、風味の違いを楽しめるようにしてあります。もうひとつは、独特のあっさり感。これには、酸味が大きく関わっています。

チョコレートと酸味。パッと結びつかない関係のように思います。

土屋大抵のチョコレートは、濃厚であるほど、食べた後で喉が渇いてしまいます。それに、『苦いか、甘いか』という基準に頼るものも、多い。そもそも、いいカカオ豆は、発酵と焙煎によって軽やかな酸味を引き出すことができるものなんです。

酸味が加わることで、より複雑な味わいが生まれるということですね。

土屋子どもには、ちょっとわからない味かもしれません。裏を返せば、これまで、それだけ“子どもっぽいもの”を食べていたと言えるような気もする。僕らは、なにも万人受けする“おやつ”をつくっているわけではなくて、一種の嗜好品というか、わざわざ選んで買うスイーツをつくっているんです。大切なひとに贈るチョコレートとか、ワインと合わせるためのケーキとか。

酸味という新たな基準を追求するという意味でも、嗜好品として楽しむという意味においても、コーヒーの楽しみ方に近いものがありますね。

土屋でも、嗜好品しかつくらないってわけではなくて、もっと気軽に楽しんでもらいたいという思いでつくったのが「キャビア」ですね。

自分を突き通しても、大抵、うまくいかないんです

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コロっとした小粒のチョコレートをぎっしり詰めこんだ「キャビア」は、老若男女のへだてなく楽しめます。赤色の缶に入ったプレーンな「ビターチョコレート」に関しては、牛乳に溶かして飲めば、濃厚なホットチョコレートとして楽しめるのも特徴。(牛乳200ccに、キャビア40gが、黄金比だそう!)

今回紹介するのは、手のひらサイズの缶に、ビター、ミルク、キャラメル、シリアル入りのものなどが入った、5種のアソート。一粒一粒は小さいのに、チョコレートの風味をしっかり感じることができ、違う味をちょこっとずつ食べられるので、家族や友達とシェアするのもよさそう。

チョコレート自体のかわいらしさはもちろんですが、まず目を惹かれるのは、そのパッケージ。シェフのこだわりが、反映されているのでしょうか。

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土屋これは、画家の樋上公実子さんにお願いしているんです。イラストの内容は、すべておまかせ。実はストーリーがあって、最初一匹だったチョウザメが、結婚して、子どもを産んで……。いまは何匹いるのか、僕にもわからない(笑)。

だれかに任せてしまうというのは、意外です。なんとなく、お菓子屋さんというと、「俺はこういうものをやりたいんだ!」を通すイメージがあります。

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土屋以前ね、お菓子を入れるための手のひらサイズの小さなトートバッグを売り込んできた人がいたんです。そのとき僕は、「こんな小さいの、なにも入んないじゃん」って突き返した。しばらくすると、「サンプルだけでも」って置いていかれたそのバッグを見た店の女の子たちが、「これ、かわい〜」って騒いでるんですよ。僕は、「え、これ、かわいいの……?」って(笑)。

わかるような気がします(笑)。

土屋試しに店に置いてみたら、それが爆発的に売れたんです。それからは、店で働くスタッフや家族の意見をきいて、みんなが反対したら絶対にやらないようにしています。

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どうしてもやりたいことでも、ですか?

土屋たまに突き通すこともあるんですが、そういうときには、大抵うまくいかない。そもそも、生まれつき揉めごとが嫌いなんですよ。自宅でも、ジム帰りの洗濯物は、家族からなにか言われる前に自分で予洗いして、洗濯機にかけて、干してから寝ます(笑)。

フランス菓子の正統を、盲目的に追いかけない

そもそも、土屋シェフのチョコレートづくりに大きく影響を与えたのは、やはりフランスへの憧れなのでしょうか?

土屋最初は、そうでした。ひと昔前までは、”お菓子やチョコレートといえばフランス”、というイメージが強かった。フランスで修行するということが一番のステータスで、フランスで見たことをだれもが真似て、それが売れる、という時代でした。でもね、いまは、追っかけない。

どういうことでしょう?

土屋盲目的にフランスを追いかける時代は、終わりました。いまは、基礎を吸収した上で、日本人が自分たちでクリエーションできる時代ですから。

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土屋土屋シェフの考えを大きく変えたきっかけは、フランスで毎年開催される「サロン・デュ・ショコラ」での、悔しい経験にありました。

はじめて参加した「サロン・デュ・ショコラ」に、フランス人が好きなフランボワーズやビターチョコレートを持っていった土屋シェフ。もちろん、「それが売れる」と思ってのことでした。

でも、蓋を開けてみると、まったく売れなかったのだといいます。そこで決まって言われる言葉は、「あなたのスペシャリテは何なの?」というものでした。

ただ、日本らしいものが求められていたかというと、それも、少し違うのだといいます。それは、そもそも“和洋折衷”というのが、フランス菓子の正統じゃないから。フランス菓子をしっかり勉強しているひとほど、安直にあんこを入れたり、抹茶を混ぜたりしません。正統をしっかり理解して、まず、その定規の上に立つこと。その上で、日本の素材をアレンジして、新しいものをつくっていく。それが、“土屋シェフにしかできないこと”だったのです。

そのことに思い至ってからは、国内外でさまざまな賞を受賞。一度は苦い経験をした「サロン・デュ・ショコラ」においても、2015年には、「ミュゼ・ドゥ・ショコラ テオブロマ スペシャリテ2016」で、「アワード」を獲得するなど、日本、フランスをはじめ、世界中で認められるまでになったのです。

100年先も、素晴らしいチョコレートの世界を発信し続けていくために

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「あんまり、たくさん売りたくない」

これから目指していることについてきいてみると、返ってきたのは、意外な答えでした。

大変になりすぎたくないし、お店も、混みすぎてほしくない。いまは、お店の規模も小さくしようとしているところらしいのです。「本店だって、実は閉めたいんですよね(笑)」と語る土屋シェフがいま目指すのは、”和菓子の世界”。

身の丈にあったことを永くつづけていくことで、100年先にも、素晴らしいチョコレートの世界を、日本から発信していきたいのだと言います。これからのテオブロマに目が離せません。

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■ 商品リスト

「サンフォアキン・ドス」615円
「ミニキャビア」3,132円

■ 教えてくれた人

土屋公二さん
フランスで、6年間にわたり、有名パティスリーやショコラトリー、三つ星レストランで修行を積む。その後、日本のトップショコラティエ&パティシエとして名をはせながら、1999年、「ミュゼ・ドゥ・ショコラ テオブロマ」をオープン。関西人のように話は面白いが、静岡県の出身。

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