交番からカフェへ。町に寄り添う「Coffee KOBAN」
フードイラストレーター
まるやまひとみ
2023年、エイプリルフール。“ウソ”みたいな場所にお店はオープンした。「交番だったところがコーヒー屋になるらしい」知人から得た情報は瞬く間に広まり、地元で話題となっていた。オープン初日は近所の人たちが列を成し、喜びに高鳴る声と、ちょっぴり慣れない動作に戸惑う店主の姿が初々しくも輝いて見える。
目次
「警察官はいません」
東急東横線・反町駅から徒歩で10分ほど。バス通りの急坂に栗田谷交差点はある。住宅街の中に佇む街の交番「栗田谷交番」は、2018年に閉鎖後、倉庫として利用されていた。
交番の造りをそのまま活かした外観
20代の頃からコーヒーに興味を持ち、自宅でドリップするなどコーヒーを愛していた店主は、会社員を経てこの場所でコーヒー屋をはじめることになる。その大きな転機はコロナが流行した2020年。若い頃に知人から言われたある一言が、店主の心の中に光り続けていた。
不況の時に新しいことを始めるといい
警察官が住み込みで勤務していたため、のれんの向こうには元々お手洗いやキッチンが備え付けられていた。
会社員として働いていたが、テレワークになったのをきっかけに横浜へと引っ越した。いつかコーヒー屋を開きたいと胸に秘めていた店主はふとある言葉を思い出す。「不況の時に新しいことを始めるといい」まさに今だ!コロナ禍で世の中が後ろ向きになりつつある頃、店主は前を向いていた。お金を貯め、珈琲の専門学校で一から基礎を学ぶ傍らで店舗探しも進行。地元を中心に物件を探す中で、偶然倉庫となっている交番に出会う。競売にかけられていることがわかるとすぐさま所有者へと手紙を書き、承諾を得ると、そこから一気に道が開けていった。居住スペースを一新し、キッチンも新調。奥に焙煎機を導入し、エスプレッソマシンなどの機材は慣れるまで試飲や試作をくりかえし、オープンを目指す日々。気づけば3月。オープンはキリのいい日にしたい。せっかくならウソみたいな日に…と4月1日を選んだ。
自分が好きな味をお客さんにも好きになってもらいたい
自家焙煎のコーヒー豆。産地の異なる数種類を用意し、好みで選ぶことができる。
自家焙煎のコーヒーは全てスペシャリティコーヒー。焙煎度は浅煎りから中煎りのものが多い。ある時出会った浅煎りのエスプレッソを飲んだことがきっかけで、浅煎りの魅力にハマったのだそう。浅煎り=酸っぱい、という印象を払拭し、クリアですっきりとした甘みを感じてほしい。豆の特徴を引き出しつつも、自身の好みの味を大切にしており、物腰柔らかな店主の人柄が表れた落ち着きのある味わいが特徴的。
自作のイラストで作ってもらったというコイントレー。店主の似顔絵だ。
安心感を与えるほどよい静けさ
明るい2階席。以前は畳部屋だった。
階段を上がると、大きな窓から注ぐ光がテーブルの色味と交わって店内を柔らかに包み込む。栗田谷交差点を望むカウンター席に、ゆったりとしたテーブル席。元が交番であることなど忘れてしまうほど、穏やかで落ち着きのある空間だ。メニューは1階で注文し、店主が2階まで運んできてくれる。どの席も温かみで溢れ、どこに座ろうか迷ってしまう。
交差点の開けた景色を眺めながら、思わずぼーっとする待ち時間。
体を労わるヘルシーなスイーツと(イラストあり)
illustration by まるやまひとみ
今回いただいたのは
●パプアニューギニア トロピカルマウンテン ¥500(税込)
●低糖質チーズケーキ ¥680(税込)
*デザートはドリンクとセットで¥30引き
お店の定番「パプアニューギニア トロピカルマウンテン」は、柔らかな甘みとフルーティーな酸味を感じられる中煎り。口当たりがよく、ジューシーさの奥から広がる個性的な香味が印象深い。澄んだような味わいがほっと一息つかせてくれる。コーヒーのクリアな印象を演出するダブルウォールグラスも相性抜群。
デザートメニューも、そうしたすっきりとした味わいに馴染むよう考えられている。中でもオープン当初からあるチーズケーキは、店主渾身の一品。実は会社員時代、90kgの体重だったというが、今のスマートな姿からは想像もつかない。健康診断で注意を受けたのを機に、知人からの勧めでダイエットを開始。その時に学んだことを活かし追求したのが、低糖質・低カロリーでも美味しいこのチーズケーキだ。口に含むとスッと引く甘さ。あっさりとしているが、しっかりとチーズケーキらしいまろやかさが残る。そして心地よい酸味には、レモンとは異なる際立ったシトラス感が舌に響く。店主に尋ねると、南の方で有名なある柑橘を使用しているとのこと。これも店主のこだわりの一つ。柑橘の爽やかさが浅めのコーヒーを引き立たせ、余韻をじっくりと味わえる。
遅く起きた朝に軽めのモーニング
オープン時から並ぶ焼き菓子とパンは、注文後に温めて提供してくれる。
朝食や軽食にちょうどいい、小ぶりサイズの焼き菓子たち。お気に入りを取り寄せているというクロワッサンとスコーン。マフィンは手作り。スコーンはプレーン・クルミ入り・レーズン入りなどがその日によって並び、マフィンは季節によって味わいを変える。この日はかぼちゃのマフィン。ダイス状のかぼちゃが顔を出し、ほっくり素朴な甘さ。知り合いのお店から仕入れたクッキーなども用意しているほか、月に1,2回はパン屋さんとコラボし、朝から盛りだくさんのパンやお菓子が並ぶ日も。
ちょっと甘いものが欲しい時に嬉しいコーヒーの相棒たち。
自宅でも浅煎りのコーヒーを楽しんでみよう
豆は100gから購入でき、焼き菓子も丁寧に包んでくれる。
●珈琲豆:ブラジル セラード地帯 ナチュラル(100g) ¥780(税込)
普段深煎りを飲む人も、この機会に浅煎りのコーヒーに挑戦してみてほしい。浅煎りのブラジルは軽やかな酸味で甘い後味。バターの効いた焼き菓子と合わせれば、口をさっぱりとさせてくれる。店内でドリッパーなど珈琲器具の販売もあるので、店主のように、ここから新しいことを始めてみるのもよさそうだ。
元交番ならではの秘話も盛りだくさん
警察からいただいたという非売品の人形。
昔から近所に住む人達にとっては、まだまだ交番の印象が強い。時々交番と間違えてお店に来る住民もいるのだとか。床の軋む音は懐かしさを与え、長年この町に住む人々を見守ってきた歴史が感じられるのもCoffee KOBANならではの特徴。ところどころに当時の面影を残しつつも、憩いの場としての新しい人の繋がりを生む場所になっている。
階段に隠れた収納。昭和の名残が見られるのも面白い。
ランチの手作りカレーやサンドイッチも見逃せない
欧風黒カレーは11〜14時の数量限定。
フードメニューに対しても抜かりなく、健康的でボリュームのある食事がいただける。歯応えのある雑穀ごはんに自家製のコク深いカレーがマッチした欧風黒カレー。もりもりの野菜。付け合わせも自家製というこだわりで、1日限定10食の提供だ。まろやかなスパイスに爽やかなコーヒーがよく馴染む。
ブラジルの浅煎りに、ねこうさカンパニーホワイトさんのフロランタンとPatisserieCafe Soraさんのケークオランジュ
形は違えど、親切な対応や人と地域に寄り添う姿はどこか交番と似ている。住人のニーズに合わせたメニューで栗田谷での暮らしを穏やかに見守る町のコーヒー屋さんとして、これからも暮らしにほっとする瞬間を届けてくれることだろう。
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。また、価格はすべて税込です。
SHOP INFORMATION
SHOP | Coffee KOBAN |
---|---|
WEB SITE | https://www.instagram.com/roast_and_grind_coffee |
ADDRESS | 神奈川県横浜市神奈川区栗田谷10-1 |
TEL | 050-3749-2603 |
OPEN | 9:00~16:00 |
CLOSE | 水曜日・隔週土曜日 |
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