着心地のよいシャツと、季節の果物を焼きこんだ香ばしいタルト。この2つを楽しめるお店が、東京・吉祥寺にある「coromo-cya-ya コロモチャヤ」です。JR吉祥寺駅から歩いて3分。大通りを一本外れたビルの2階に、洋服のセレクトショップとカフェが並んでいます。

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お店をオープンした中臣美香(なかとみ みか)さんは、アパレルメーカーのデザイナー出身。お話を伺うと、お菓子と洋服の意外なつながりが見えてきました。

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「衣」と「食」に通じる、ものづくりの心

元々シャツが好きだったという中臣さんは、地元長野の服飾専門学校を卒業した後、東京のシャツメーカーに就職。ブランドのアシスタントデザイナーとして働き始めます。しかし、念願だった洋服の仕事に、次第に違和感を感じるようになったそう。

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カフェの隣は、オリジナルブランドの洋服やファッション小物が並ぶセレクトショップ

中臣長野と東京という環境の変化に加え、アパレルの仕事はとても多忙でした。アシスタント業務から、次第にブランドのデザインを任されるようになって、課せられるものも大きくなり……。このまま続けていたら洋服を嫌いになってしまうのではと感じ始めました。

方向を切り換えるなら、若いうちの方がいい。そう考えた中臣さんは、シャツメーカーをすっぱりと辞め、以前から興味があった飲食の世界へ飛び込みます。

中臣悩みながら生活する中で、それでも食べないと生きていけないということを目の当たりにして。食べることは、人にエネルギーを与えます。たとえば、朝食にパンケーキを焼くだけでも、幸せな気持ちになれますよね。それはすごいことだと思ったんです。

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アパレルから離れる決意をして、カフェで働き始めた中臣さん。ところが意外にも、カフェの仕事をする中で見えてきたのは、洋服づくりとお菓子づくりの共通点でした。

中臣素材に対して最低限の力を加えて、いかにいい表現をするか。そして、それによって人に何を与えられるかを考える。洋服づくりの楽しさと、お菓子をつくる工程の楽しさが、私の中では全く一緒であることに気づいたんです。

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両方ある楽しさに、共感してくれる人がきっといる

やるのであれば、しっかり学びたい。その想いから、カフェを退職して「ル・コルドン・ブルー」へ入学。プロのお菓子づくりを学びます。同時に、個人オーダーを受けて洋服を作る仕事も再開。お店のイメージが固まっていきました。

中臣お菓子も洋服も好きだから、両方楽しめるお店があったらいいなって。自分だけじゃなく、その楽しさに共感してくださる方がきっといると思ったんです。

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洋服づくりとお菓子づくり。どちらか一つだけを選ばなくてもいい。そう気づいたとき、すごく楽しかったと話す中臣さん。どちらも、“素材の力を信じてつくること”を基本にしています。

中臣結局、自然の力に人は敵わないと思っています。だから、素材が持つエネルギーをできる限り引き出して、伝えたい。そのためには、力のある素材を選ぶことも大切です。使う素材によってお菓子の味は変わるし、洋服の着心地も変わる。そこは全く一緒なんです。

いつ来ても出合える定番タルトと、季節限定のタルト

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定番のりんごのタルト(700円・写真左)と、秋冬限定、いちじくの赤ワインコンポートとマスカルポーネのチーズタルト(800円・写真右)

昔ながらのクラシックな美味しさを目指したタルトは、黄金色の焼き目がつくまでしっかり焼き上げたもの。ナイフを入れたとき、生地がお皿の上でカツン、と割れるくらいの固さを目指しています。タルト生地には、しっかりした食感と粉本来の美味しさが味わえる、中力粉のみを使用。糖度とのバランスもいいのだそうです。

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お皿は、益子の陶芸家・石川若彦さんの作品で、お店のために特別につくってもらったもの。欠けても、金継ぎをして使い続けている

りんごのタルトは、オープン以来レシピを変えずにつくられている定番のお菓子。口に入れるとまず、りんごの存在感に驚きます。厚めにスライスされたりんごのシャキシャキ感と、生地のざくっとした口当たりが楽しい一皿。フレッシュな生クリームも、タルトの香ばしさを引き立てます。

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中臣りんごは、バターでソテーしたものを焼きこんでいます。通年お出ししているので、季節に左右されず、りんごの水分調節をしっかりできるように。時期によって品種は変わりますが、その違いも楽しんでいただけるよう、できるだけ品種のご案内もしていますよ。

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秋冬限定のいちじくのタルトは、ドライいちじくを、シナモンとスターアニスでコンポートし、マスカルポーネチーズと合わせています。複数の要素を組み合わせながらも、あくまで主役はいちじく。

スパイスがほのかに効いたドライいちじくの、ぎゅっと凝縮された風味、ぷちぷちとした種の食感が口の中に広がります。軽やかなマスカルポーネが全体をふんわりとまとめ、絶妙なハーモニーを感じられるタルトです。

中臣タルトって、家庭でつくるには少しハードルが高いものですよね。日常からかけ離れているわけではないけれど、少し特別なものというか。そういう、“家では体験できない特別な時間を提供すること”が、私たちの仕事だと思っています。

生活に馴染むお店を目指して

お店がオープンしたのは2013年。当時、衣と食を一緒に提供するライフスタイルショップは、それほど多くありませんでした。吉祥寺という場所を選んだのは、そんなお店に共感してくれる人がいそうな街だから。そしてもう一つ、理由がありました。

中臣人が歩く街がいいと思っていました。ビルからビルへの移動ではなくて、路面が発達している街。周りのお店やそこに暮らすお客さまとつながりが持てて、地域の生活に馴染むようなお店をやりたいというイメージがあったんです。

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お店には、近くにある井の頭公園の散歩帰りや、買い物帰りの人が多く訪れるそうです。その姿は、まさに中臣さんが思い描いていたもの。静かで落ち着いた空間でありながら、お子様メニューがあり、お子様用の椅子が用意されているのも、生活に馴染むお店を目指しているからこその工夫です。

中臣 「お子様メニューがある」とよく驚かれるのですが……。カフェって、本来はもっとカジュアルで、いろんな人が共存できる空間だと思うんです。おひとりでゆっくりしたい方ももちろんいらっしゃいますが、それはお子様連れの方も同じだと思うので。

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そして、あえてビルの2階を選んだのには、中臣さんならではのこだわりがありました。

中臣通りすがりの不特定多数の方ではなく、目的を持ってわざわざ階段を上って来てくださるお客様に対して、しっかり向き合って接客をしたかったんです。そういう方たちに力を注ぐことで、少しでもいい時間を提供できたらと思っています。

日常にひっそりと咲く、ドクダミの美しさのように

中臣さんが手がける洋服のブランド名は「Houttunia cordata (ホーチュニア・コダータ)」。「ドクダミ」の学名から付けられた名だそうです。

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中臣ある日ふと、ドクダミの花の美しさに気づいたんです。どこにでもある花だけど、よく見てみたらこんなに美しかったんだって。私がつくる洋服も、華美なものではないし、奇抜なものでもないけれど、実際に触れて、着てみたらこんなにいいものだったのか、と感じてもらえればいいなと思いました。

洋服のブランドに込めたその想いは、お菓子づくりにも少なからず通じるところがあると言います。

中臣たとえばお店のタルトも、きらびやかなものではないですが、食べてみれば、生地がしっかりサクッとしていて、タルト本来の美味しさを感じられるもの、共感してもらえるものを目指しています。

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コロモチャヤのタルトは、きちんと手を合わせて、背筋を伸ばして食べたくなる、そんなお菓子たちです。それはきっと、一見ありふれているけれど、丁寧にひと手間加えられていることが伝わってくるから。

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中臣今後、都会ではなく自然がもっとある中で、“季節”を大事にして何か表現してみたいですね。宿泊施設をやりたいという想いもあるし、洋服のアフターケアにももっと力を入れていきたいです。

これからやりたいことがたくさんあると、いきいきとした表情で語ってくださった中臣さん。きっとそのどれにも、コロモチャヤというお店が持つ、“手をかけたからこそ生まれる心地よさ” が息づいていくのだろうと思います。

SHOP INFOMATION

NAME coromo-cya-ya コロモチャヤ
URL http://houttuynia-cordata.com/
ADDRESS 東京都武蔵野市吉祥寺南町1-8-11 弥生ビル2F
TEL 0422-26-5889
OPEN 11:00~19:00
CLOSE 火曜日

※他、臨時休業する場合があります