見えない何かに追われていると、ひとり焦ることが最近増えました。それに比例して、「いや、まずは落ち着こう」とコーヒーを淹れて甘いものを食べてリセットすることも増えています。

そんなときに出会ったのが、今回取材をしたドーナツのお店「haritts」です。お店の外装は決して大きいとは言えない木造の一軒家。玄関をくぐると、小さなショーケースにたくさんのドーナツが並んでいます。

どれにしようと悩んでいると、朗らかな笑顔で店員さんが「いま、“きなこ”ができたてなんですよ。迷われているならぜひ」と勧めてくれました。

まだ温かいドーナツを頬張ると、やさしさに包まれた気がして不意に笑みがこぼれます。ふわふわのドーナツを食べて笑いが溢れる。なんて幸せなんだろう。

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左:プレーン。右:おからきなこ。プレーンはシンプル、おからきなこは大豆の香りがしてほんのり甘い。どちらもとっても優しい味です。

取材をしたのは、穏やかな晴れた冬のはじまり。harittsの店長である豊田さんは2004年にお姉さんと二人でharittsを始められました。豊田さんにお店のこと、ドーナツのこと、これからのことを伺いました。

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仲良しの姉と始めたドーナツ屋

豊田さんとお姉さん、二人でお店を始めたんですね。どうしてお店を始めてみようと思ったんですか?

豊田もともと姉と仲が良かったんです。お互い就職して違う仕事をしながらも「二人でお店をやりたいね」って言っていました。姉はパン屋で、わたしはコーヒー屋で働いているときに、コーヒーに合うパン生地の何かでお店をはじめてみるのはどうかって話して「早くやろうよ!」と。それが2004年で、車の移動販売からお店をスタートしました。

お店ではなく、どうして車だったんでしょう?

豊田単純にお金がなかったんです。知り合いの飲食店に厨房を借りてドーナツをつくって、車にエスプレッソマシーンを入れて出かけていました。そこに飾っている絵の車です。

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車の絵

移動販売というと、都内のいろんなところに行っていたんですか?

豊田いろいろは行けるんですけども、なんせ移動してしまうので、せっかくお客さんが覚えてくれても、もう一度買ってもらえることなく次の場所へ移ってしまうんですよね。結局、最後の1年くらいはたまたま借りられた永田町の駐車場でドーナツを売っていました。

永田町ではリピーターのお客さんもいらしたんですか?

豊田そうですね。毎日同じエリアに行くので、お話ししてくれたり仲良くなる人もいました。お店に比べてもお客さんとの距離が近いんですよね。

助けてもらうこともたくさんありました。氷が切れてしまったときにアイスコーヒーがつくれないってなったら「ホットでいいよ」って、真夏なのに言ってもらえて。

お客さんも定着して、いい関係も築けて、それでも店舗を持とうと思ったのはどうしてなんですか?

豊田車での販売は正直、大変だったんです。夏は暑いし冬は寒い。しかも、駐車場も販売する場所と家の近くに2つ借りなくちゃいけないんですよね。2つの賃料を合わせたら店舗の家賃が払えるんじゃないか? と気付いて、店舗を探しました。

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探している中で、代々木上原にしたのはどうしてですか?

豊田知り合いがこの辺に住んでいたのがきっかけです。店舗を探していた2006年ごろの上原はもっとお店が少ないし、駅もまだ改装前で街の雰囲気も程よく静かでいいなって。それで探したら、この家に出会いました。

なかなか「これ!」という物件って本当にないんです。でもここを見たときひと目で気に入ったんですよ。木造の家好きだったし、小道だけど駅からも近い。すぐに姉に「来て!」って見てもらって、二人ともすごく気に入ったんです。

お互いの旦那さんには「ここ? 静かだし小道だし、家じゃん」って言われましたけどね。

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オフィス街の永田町と、住宅地の代々木上原では忙しさも変わってきそうですね。

豊田オフィス街だと混む時間が読めるんですよ。最初は姉と二人で続けるつもりだったので忙しくても大変だし、上原くらい静かなほうがちょうどいいかなって。だからオフィス街か住宅地のどっちがいいっていうのは特にないんですけど、お客さんの層が全然違うなとは思いましたね。

姉妹から家族、代々木から台湾へ

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今、お姉さんはお店には関わっていないんですか?

豊田姉はいま、「haritts台湾店」を経営しているので台湾に住んでいます。でも毎日LINEしてて、おいしいランチ食べたとか、台湾でお店をすると大変なこともあるのでその話をしたり、他愛もないことを話してますね。喧嘩していた日々が懐かしいくらいです。

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どうして台湾に出店したんですか?

豊田日本人の知り合いが台湾で仕事をしていて、たまに遊びに行っていたんです。それで「いつかは台湾でできたらいいね」って姉と話していました。それから2年くらいは中国語を勉強していて、最初はわたしのほうが台湾行くことに乗り気だったんです。でも海外の生活って難しそうと思い始めたんですよね。

姉の旦那さんは英語が話せて国際的な感覚を持っているんです。それに台湾の人は英語でコミュニケーションできる。ということで、姉が行くことになりました。

旦那さんも協力して。

豊田タイミングとか、そういうのもあるんですけども、今は姉の旦那さんも、わたしの夫も一緒にお店をつくっています。

もしかしてキッチンに立っている男性って、豊田さんの旦那さんですか……?

豊田そうです。ドーナツつくったりコーヒー入れたり、一緒にやっています。

そうなんですね! 姉妹のお店が家族のお店に発展している感じがして、とっても素敵ですね。

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お店の看板屋メニューも旦那さんがつくったもの。

パン屋仕込みのふわふわドーナツ

ドーナツというと、さっくり系もあると思うんです。ふわふわの方を選んだ理由はあるんでしょうか。

豊田姉がパン屋で働いていたこともあって、わたしたちのイメージするドーナツがパン屋のあんドーナツやツイストだったんです。なので自然とふわふわのドーナツになりました。大きさの割に軽いので、3つくらいペロリと食べちゃう人もいますね。

3つ! ちなみに人気なのはどれでしょうか。

豊田定番なのはプレーンとクリームチーズでしょうか。

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上から時計回りに、クリームチーズ、おからきなこ、プレーン、シナモンカレンズ。少し持つだけで指の形がつくくらいに柔らかい。

プレーンとクリームチーズ、そっくりですね。

豊田並ぶと見分けがつかないですよね。クリームチーズは生地の中に包まれているんです。食べてみるとごろっと見つけることができますよ。

材料へのこだわりは、どんなところでしょうか。

豊田トランス脂肪酸フリーのショートニングを選んでいます。中の具もちゃんと良いものを使うようにしていますね。

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左:シナモンカレンズ。中のレーズンが程よい酸味で、朝ごはんに食べたいドーナツ。 / 右:クリームチーズ。ドーナツの穴の近くのなめらかチーズがふわふわ生地と相性抜群

今後は新しいお店を出す予定などあるんですか?

豊田お店を続けるって大変なんです。だから、続けられるだけ続けられたらいいなって思います。上原でお店を始めて10年経ったので、この地域の人に愛されたいという思いもあります。

東京で2号店は考えてないんですか?

豊田うーん、ないですね。国に1つでいいかな。だから日本はここだけ。他の国は……チャンスがあったら行きたいですね。でも大変なのも知っているので、チャンスが巡ってきたときに考えることにします。

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豊田さんと話をしていて、お姉さんと本当に仲が良いんだろうなと思うことが何度もありました。harittsの雰囲気が柔らかくて温かいのは、そんな家族の雰囲気が現れているからなのかもしれません。

そんなことを考えていたら、カメラマンの名和さんがドーナツをかじって振り向きました。

「ドーナツって丸いのもかわいいですけど、このかじった形もめちゃくちゃかわいいですよね!」

口の周りにお砂糖を付けてそう話す笑顔の名和さんを見たわたしは「ドーナツってとっても平和なお菓子だな」と温かい気持ちになりました。豊田さんと仲良しなお姉さんの間には、ドーナツを食べたときような平和な空気が根底に流れているんだろうと想像しています。

これから東京でひとり焦りや孤独を感じたときには、ドーナツを食べることにしよう。harittsのドーナツなら、きっと気持ちもふわふわになれると思うから。

教えてくれた人
豊田はるなさん
「不定期に出る「ごまはち」というミニドーナツもおすすめです。見つけたらぜひ食べてみてくださいね」
商品リスト
プレーン
150円
クリームチーズ
238円
おからきなこ
173円
シナモンカレンズ
173円