八王子みなみ野には、ちょっと変わったお店があります。その名も「レ・ドゥー・シャ」。

ショートケーキやモンブランといった華々しいケーキたちの姿はありません。こんがりと焼かれたバターの香るフィナンシェ、うつくしい艶のカヌレが並んでいます。眺めているうち、しっとりと、素朴なうつくしさを持った焼き菓子たちの佇まいに、引き込まれてしまいます。
今回お話を伺ったのは、レ・ドゥー・シャでお菓子づくりを担当されているシェフ・パティシエールのSonoさん。
「学校は、普通の四年制大学に通っていました。卒業してからは普通に就職をして。そのときの自分は、今パティシエをしているなんて、夢にも思っていなかったんです」
パティシエの一般的なルートを通らず、社会人になってからお菓子づくりを本格的に始めた彼女に、これまでの話とお菓子づくりのこだわりを伺いました。

大学時代の思い出が、お菓子を学ぶきっかけに
パティシエの一般的なルートといえば、高校を出て製菓学校に入り、卒業後、パティスリーなどに就職するというもの。ところがSonoさんは違いました。
Sono食にこだわるようになったきっかけは、新卒で入ったとある食品会社でした。会社では高品質の食品を扱っていました。上司も、まわりの人たちも、食にこだわるひとたちばかり。食に対して、意識ががらっと変わりましたね。
食に対して興味が深まっていく一方で、自分の仕事について悩むこともあったのだそうです。
Sono会社で扱っている商品は、自分がつくったものではありません。何か、自分がつくり出したもので、人に喜んでもらえるような仕事ができないだろうか、とふと考えるようになりました。実は、パティシエールになる前にも、いろいろ挑戦をしていました。ジュエリーデザイナーを目指したりだとか、通訳の学校に通ったりも……自分探しをしていたんですね。
自分のつくったもので、人に喜んでもらいたい。喜ばせたい──。そんな気持ちで新しい仕事を探していたとき、ひょんなことから、大学時代の思い出がよみがえってきたそう。

Sono大学のサークルの合宿のことでした。メンバーがなかなかまとまってくれないので、手づくりのお菓子をつくって持っていってみたら、みんながとっても喜んでくれたんです。それですべてが解決するわけじゃないけど、場がなごんで雰囲気がよくなった。今思えば、それがきっかけかもしれません。
もともとお菓子づくりが好きだったSonoさん。会社員を続けながら、週末の時間をつかい、製菓学校に通い始めました。
製菓学校に入学をしたのはSonoさんが27歳の頃。スタートは一般的なパティシエよりも遅くはありましたが順調に初級、中級とお菓子づくりを学んでいきました。
素朴で、ほっこりとするような焼き菓子たち
フィナンシェにカヌレ、サブレ、パウンドケーキ、季節の果物のタルト。レ・ドゥー・シャに並ぶ焼き菓子は、どれも素朴で、ほっこりとするようなお菓子たち。生菓子ではなく焼き菓子を選んだのは「焼き菓子が好き」というSonoさんの想いでした。
Sono自分のつくったもので人に喜んでもらいたいという想いがあったので、自分が好きな焼き菓子のお店をやろうと思いました。夫はコーヒー、わたしはお菓子づくりをそれぞれ担当して夫婦2人でカフェをやるつもりだったので、焼き菓子一本に絞ることにしました。

お店には、コーヒーマイスターの資格を持つ夫の孝(たかし)さんが自家焙煎する、スペシャルティコーヒーの豆が並びます。

フランス産の原材料へのこだわり
Sonoさんは、はじめてフランス産の発酵バターをつかってお菓子づくりをしたとき、そのあまりのおいしさに衝撃を受けたといいます。

Sono今までにつくったことがないようなものができたんです。同じようにつくっているのに、どうして?と驚きました。それから、小麦粉もフランス産のものを使ってみることにしました。フランスは日本と小麦の挽き方が異なっていて、外側の皮の近くまで使います。なので、色も真っ白ではなく、やや茶色い。小麦の味がわかります。
フランス産の発酵バターと小麦にこだわる理由は、Sonoさん自身が「おいしい」と思ったから。それ以外の原材料もバターと小麦にあわせて「おいしい」を基準に、フランス産のものを厳選して使っています。
2年間の葛藤の末、パリへの留学を決心
順調に製菓学校の中級を通っている途中、Sonoさんに転機が訪れました。現在ともにお店を切り盛りされている孝さんとの結婚を決めたのです。
Sonoさんも、夫の孝さんの転勤とともに移住。東京を離れたために製菓学校への通学も一時中断となりましたが、一方で「洋菓子研究家」としてお菓子づくりの活動をはじめます。仕事としてお菓子づくりをしていく中で、お菓子づくりの技術に限界を感じはじめました。
Sono悩んだ末に行き着いた選択肢はふたつ。いずれ戻るであろう東京の製菓学校に通うか、フランスに行って学ぶかでした。東京まで新幹線で通うぐらいなら、いっそのこと、もうフランスに行ってしまおうか──。2年ほど、ずいぶんと長いあいだ悩みました。ある日、「考えるのに疲れた、きりがない。悩むの、やめたっ!!」って(笑)
行きたい学校は決まっていたので、申し込みをして、お金も振り込んで、行くしかない状況をつくりました。自分を追い込もうと思ったんです。

フランスでお菓子づくりを学ぶことを決心したSonoさんは、パリの製菓学校で数ヶ月間のあいだ、集中して講義を受けました。クラシックなものからモダンなお菓子まで。焼き菓子だけでなく、生菓子、コンフィチュール、アイスクリームといったフランス菓子全般を学び、日本に帰国。満を持して、孝さんと八王子みなみ野にお店をオープンしました。

世界でいちばんおいしい、お母さんの味を目指して
Sonoうちのお菓子を買ってくださったお客さまには、もちろんおいしいと思ってほしいです。それだけでなく、「こんなおいしいお菓子は初めて食べた」と思ってもらえるとすごくうれしい。
素材からこだわった焼き菓子を食べてみてほしい。焼きたてのフィナンシェを頬張る幸せや、よく焼き込んだタルトを味わう楽しみを感じてほしいですね。

看板焼き菓子のフィナンシェやカヌレのほか、最近はタルトの種類を増やしているそう。レギュラーの「フランス産レアチーズのタルト」や、ナッツのたっぷりのったチョコレート生地の「タルト・ショコラ・ノワ」もおすすめ。季節のフルーツをあしらったタルトも魅力的です。

八王子みなみ野。ふらりと寄るにはちょっと遠いけれど、ぜひとも足を運んでみてください。はじめて食べる焼き菓子のおいしさに驚くかもしれませんし、あるいは、どこか懐かしい味にほっとするかもしれません。こだわりのコーヒーとともに、穏やかな時間を過ごすのにもぴったりの空間です。
Sonoさんがインタビューの最後に、「プロなのにこんなことを言うのはおかしいかもしれないんですが……」と、ぽつりとこぼしました。

Sonoわたし、世界中のひとがいちばん好きなのは、お母さんがつくったお菓子じゃないかって思うんです。わたしがつくりたいのは、温かみのある、身体に染み込んでいくような味。気構えないで食べられる家庭のお菓子を、プロの素材と、プロの技術でつくりたい。そう思ってお菓子づくりをしています。
実はSonoさん自身には「家庭のお菓子」の思い出はなく、家庭の味を意識するようになったのは、フランス人の友人ができてから。「昔ママンとつくったあの味がすきなんだ」と語る友人たちの姿が、うらやましかったのだそう。
友人らの語る「家庭の味」と、Sonoさんの「憧れ」を詰め込んだのが、レ・ドゥー・シャの焼き菓子なのかもしれません。

SHOP INFOMATION
NAME | フランス焼き菓子・自家焙煎珈琲 カフェ レ・ドゥー・シャ |
---|---|
URL | https://www.les-deux-chats.net |
ADDRESS | 東京都八王子市七国2-1-9 |
TEL | 042-683-0244 | OPEN | 【11月〜2月】10:30〜18:00(CAFE11:00~,17:30L.O.) 【3月〜10月】10:30〜19:00(CAFE11:00~,18:00L.O.) |
CLOSE | 火曜日・水曜日(祝日は原則営業) |
※他、臨時休業する場合があります