伝統あるものは、なぜこんなにもおいしいのか。

素朴な疑問に立ち返り、ゆっくり深呼吸し、自分の原点を思い出したくなる。今日はそんなスイーツとの出会いをお届けします。

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白金の閑静な住宅街に、朝7時から焼きたてスイーツを楽しめるお店があります。白金高輪駅から徒歩3分、「メゾン・ダーニ」からバターの香りが漂います。

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「焼きたて」に勝る美味しさはない

「焼き菓子は粗熱が少しとれたくらいが一番おいしいと思うんです。ただその状態を味わえるのはパティシエだけなんですよね。」と戸谷尚弘(とだになおひろ)シェフ。

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パティシエが唯一味わえる“最高の食感”をお客様にも届けたい。そんな想いから朝7時にオープンし、1時間に1度は焼き立てが店頭に並びます。いつ来店しても、焼きたての美味しさを味わってほしい、という思いがバターの香りにのってじんわりと感じられます。

「現地フランスと日本では気候も違い、現地の味わいにするには細かい調整が必要です。
さらに、オーブンの温度、焼き上げ時間も随時調整します。」そう言いながらシェフは、取材中もほぼつきっきりでオーブンの焼き上がりを何度も確認されていました。

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メゾン・ダーニの看板商品「ガトーバスク」
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中には、フランス産の黒サクランボのコンフィチュールがたっぷり詰まっていて、黒サクランボの甘酸っぱさが際立ちます。

「ガトーバスク」はスペイン産の良質なアーモンドと、フランス産のブラウンシュガーを練りこんだクッキー生地の独特な食感が特徴です。

独特の食感を生み出すポイントは、生地に砂糖を練り込む量とタイミング。クッキー生地を寝かせた後に、分量しておいたブラウンシュガーを練りこみ焼き上げます。ひと手間を惜しまず、繊細なおいしさを追求するシェフのこだわりを聞いて、食べ終わることが名残惜しく感じてしまいます。

きっかけは、バスクで出会った「感動に震えた味」

「フランスとスペインのいいところ取りができるのがバスク地方なんです」と戸谷シェフ。バスク地方は、ピレネー山脈を挟んでフランスとスペインにまたがる地域一帯の総称です。古くから、独自の言語や食文化が栄え、世界中の食通をうならせる街としても知られています。

戸谷シェフはフランスで2年間修行をし、時間があれば勉強のために各地のスイーツを食べ歩く旅に出かけたそう。そこで出会ったのがフランス・ビアリッツにある、バスク菓子専門店「ミルモン」の「ガトーバスク」です。

北バスクにあたるフランス・ビアリッツにある、バスク菓子専門店

本場で人生初めてのガトーバスクに出会い、「震えるほどおいしい」と感動したそう。日常に戻ってからも「あの味、あの感動を」と修行への思いを強め、バックパック1つで「ミルモン」の門をたたかれたそうです。

本場の味に惚れ込み、修業を積んだ戸谷シェフが、日本でも本場のガトーバスクを食べてもらいたいと、2015年6月にオープンしたのが「メゾン・ダーニ」です。

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「季節」を味わう贅沢さ

オープン当初は1種類のガトーバスクを販売していましたが、いつ訪れても新鮮な気持ちで楽しんでもらいたい、もっとお客様に喜んでもらいたいという思いから、今では季節限定のガトーバスクを楽しむことができます。

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カスタードが入った「ガトーバスクアラクレーム」
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生地にチョコレートを練りこんだ「ガトーバスクオウショコラ」

また、秋にはかぼちゃ、冬にはりんごのコンフィチュールをつくり季節限定のガトーバスクを展開しています。すべての素材に徹底的にこだわり、シェフ自ら産地に訪れ厳選した素材を選び抜く。なんと提携されている長野県の小林農園には「メゾン・ダーニのりんごの木」まであるそうです!

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「これからつくり上げていく」という思いをバスクリネンに込めて

戸谷シェフのバスク愛は商品だけでなく、店内の空間にも溢れています。天井にはバスクリネンをモチーフにしたカラーリングが空間を彩ります。

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手提げ袋にもバスクストライプがあしらわれています。

デザインはパリ在住の日本人のデザイナー米川氏が手がけられています。色彩豊かな店装の中、打ちっぱなしの壁はざらざらとした素材感をあえて残しています。

素材の良さを活かすことを大切にする戸谷シェフの思いが、空間で表現されています。

「優しい色、どこにもない色。フランス本場で学んできたことをこれから日本で伝えていく。これからスタートしていく」そんな意味合いが込められています。

店内にはイートインスペースもあり、焼きたてのスイーツと淹れたてのコーヒーを楽しむこともできます。バスクの伝統を感じながら、最高の朝のひと時を過ごしてみてはいかがでしょうか。

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バスクと日本の「架け橋」になる

伝統あるものがなぜこんなににもおいしいのか、それは伝統にはストーリーがあるから。クジラ漁に旅立つ家族の帰還を願う愛情から生まれた保存食が、郷土の人々に親しまれ進化しスイーツとなり、160年の歴史を経て戸谷シェフの手で日本へと渡ります。

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店内にはクジラの絵やオブジェが。バスク地方では17世紀頃からクジラ漁が盛んで、漁師たちが保存食として持って行っていたものがスイーツとして進化したのが「ガトーバスク」と言われています。

店名の“ダーニ”はシェフパティシエである戸谷シェフの修業時代の愛称から。「戸谷さん、ダニさん、ダニソン、ダーニ」愛称は愛する人に読んでもらうニックネームです。

「バスクを愛し、ガトーバスクを愛したシェフの思い」が、現地の人々の琴線に触れ文化をつなぎます。おいしいものに国境はありません。

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そんな戸谷シェフと一緒に働かれているパティシエのみなさんもシェフの想いを引き継いでいる。一緒に働かれる方は、どんな軸で選ばれているのでしょうか。個人的な質問をぶつけてみると「お菓子が好きであれば」と一言。

最後まで、シェフの言葉は素朴でまっすぐ、メゾン・ダーニで生まれるお菓子そのもののようでした。