【シナモンロールに導かれ/多摩川】スリランカに心を寄せて。「hari(ハリ)」


フードイラストレーター
まるやまひとみ
シナモンロールが好きだ。
吸い込まれそうな渦巻き、半分に割った時の縞模様。そのアーティスティックな姿に何度陶酔したことだろう。
溶けてしまいそうな甘さと芳香に満たされ、私の奥底に眠るシナモンロールの記憶を呼び起こす。
もっとシナモンロールのことが知りたい。シナモンロールに会いたい。
シナモンロールは私をあちらこちらに連れ出し、縁を繋いでくれる。
さあ、今日も今日とてシナモンロールを求め西へ東へ…
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2012年。向ヶ丘遊園駅から徒歩10分ほど歩いたところに「CEYLON(セイロン)」はあった。
当時では珍しい「シナモンロール専門店」に興味をそそられ、一度口にすればその麗しいパンのおいしさとシナモンの高貴な香りに魅了されてしまうと人気を呼んだ。
スリランカでの滞在歴とパティシエとして磨いた技術を活かし、スリランカの雄大な自然で育まれた「セイロンシナモン」の魅力を一人でも多くの人に知ってほしいと始めた小さな小さなお店。
2019年8月に区画整理のため多摩川へと移転し、店名も心機一転「hari(ハリ)」として再出発し、スリランカの魅力を届けている。
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。また、価格はすべて税込です。
目次
人生を切り拓いたセイロンシナモン

街角という立地ながら、うっかり1、2歩通り過ぎてしまう店構え
多摩川駅と雪が谷大塚駅を結ぶ中原街道沿い。
倉庫のような外観とカラカラと音を立てる古風な引き戸のアンバランスさが気取らず入店できとても良い。
私がシナモンに「セイロンシナモン」「カシアシナモン」と種類があることを知ったのはおそらく「CEYLON」からだろう。
お店に訪れたのは単純に「シナモンロールを食べたい」というのがきっかけだが、店主のスリランカに対する愛情深さに感銘を受けて店のファンになった。
移転してからも度々訪れているのは、店主に会いたいというのも理由のひとつだ。

以前より広くなったが、感じる温かみやシナモンロールの陳列は変わらない。
ショーケースにはプレーンをはじめとする数種類のフレーバーが並んでいる。
ラインナップはその日の天気や季節によって変わるため、どんな内容になるかは当日のお楽しみ。
セイロンシナモンを使った焼き菓子も。
メニューは気温や湿度の上がるこの時期に合わせて営業日ごとに決めている。

マグカップから大きく伸びるシナモンスティックが象徴的
「hari」はシンハラ語で「いいね!」などの意味で、スリランカでの日常会話に気軽に使われる言葉。
現地の人たちの気さくなふるまいや前向きな雰囲気を感じさせる店名だ。
パティシエとして働いていた店主は、青年海外協力隊として製菓技術を指導するため2年間スリランカに滞在した経験を持つ。
日本でもシナモンを使う機会はたびたびあったが、スリランカの農園で出会ったセイロンシナモンの圧倒的な香りの違いに感動。

この見た目だけで「hariのシナモンロール」とわかる独特のスタイル
自然から成る上質な食材、現地の人々との交流、幸福感、学び得たひとつひとつが帰国してからもずっと残っていたそう。
独立を考えた時、真っ先に頭に浮かんだのがスリランカでの体験。
スリランカの素晴らしさを日本にも広めたいと始めたのが「シナモンロール専門店」だった。
随所に垣間見える長年の積み重ね

スリランカのコーヒー、セイロンティー、シンハラ語が書かれた雑貨も
店主は中国茶専門店で働いた経歴もあり、お茶についての知識も深い。
スリランカは紅茶の生産地としても有名で、旧国名である「セイロン」から今も「セイロンティー」として親しまれている。
hariでは数種類の茶葉を取り扱っており、中には珍しいスティックティーも。
さらに、スリランカの気候はコーヒーの栽培にも適していてその歴史は紅茶よりも長いのだとか。
こちらでは「スリランカコーヒー」が豆・粉・ドリップバッグで購入できる。

飾りすぎず、さりげない装飾。イートインも可能
こうしたスリランカの魅力的な品々は自ら買い付けを行い、丁寧にパッケージング。
製造、接客、販売まで全てを一人でこなしている。
加えて店内用のメニューも用意され、訪れる人たちへの感謝も忘れない。

この日は8種類のシナモンロールがきっちりと整列
自身が魅せられセイロンシナモンという食材を突き詰め、スリランカの素晴らしさを伝えたい一心で時間をかけて作るシナモンロール。
生地はフレーバーによって変え、毎日温度や湿度などの微妙な違いを敏感に感じ取って生地に反映するこだわりよう。
もちろんセイロンシナモンは挽きたてだ。
石臼で挽くことでセイロンシナモン特有のやさしく上品な香りを引き出した、至高のシナモンロールをさっそくいただこう。
香り華やぐスリランカからの贈り物(イラストあり)

illustration by まるやまひとみ
今回いただいたシナモンロールは
●プレーン ¥650(税込)
●自家製焼芋のメープルスイートポテト ¥650(税込)
●夏のチョコミント ¥650(税込)
1個から購入できるが、2個入り・3個入りのボックスがあるので、ぜひ複数を選び、生地の違いを食べ比べてほしい。
シナモンロールは常温で3日の日持ちで冷凍も可能。
温める時は予熱したオーブンか電子レンジで。リベイクの方法は箱に書かれている。

さっと薄めに塗られたグレーズが渦潮のごとく
hariのシナモンロールといえば、このキューブ型が特徴的。
他にはないシナモンロールを作りたいと試作を重ねる中、水分をほどよく逃し、求める食感を生み出すこの形にたどり着いた。
薄く伸ばした生地にシナモンペーストを塗って巻き込み、特注の焼き型で焼き上げる。
ギフトボックスのように、ひとつひとつに「あなたのために特別なものを」と想いを詰めて。

幾重にもなる層からシナモンの波が押し寄せる
そしてなんと言っても私が好きなのはこの断面。
hariにしか描けない美しく繊細なゼブラ模様だ。
外側は食パンの耳のようにさっくりとし、中はサワサワとしたソフトな歯触り。
水を使わず豆乳で仕込んだ生地は、舌に乗った瞬間じんわりと溶けていく。
おびただしいほどのシナモンが入っているわけでないが、確実に鼻をくすぐってくる。
神経を研ぎ澄ませて追いかけ続けたくなる華美な香り。
グレーズの甘さがとろけ、シナモンの余韻を長くとどまらせる。

自家製焼芋のメープルスイートポテト
手でちぎって食べ進めるのもシナモンロールの醍醐味だ。
繊維に沿って剥がれていく快感でおいしさもひとしお。
「自家製焼芋のメープルスイートポテト」は、さつまいもをオーブンでじっくりと焼き、そのままカットしたものとスイートポテトに仕上げたものをシナモンと一緒に巻き込んでいる。
焼き芋のふくよかな風味が生地に移り、ふんわりとほどけていく。
にじみ出る甘さにほっこりしていると、「私もいるよ」と顔をのぞかせるシナモンがなんとも愛らしい。

夏のチョコミント
スリランカ産のカカオを贅沢に使ったチョコミント。
季節によってミントの配合などが異なるそう。
夏は清涼感のあるペパーミントを多めにし、ドライとフレッシュの両方を活用。
生地にも練り込まれており、噛むごとに涼風が吹き抜ける。
すがすがしくも旨味のある生地。
ぷるんと潤いがあり、ホワイトチョコの粒がしっとりミルキーなコクを連れてくる。
清らかなミントのあとにすかさずシナモンがスンと香り、実に爽快。
シナモンと相性抜群!スリランカのセイロンティー

中国茶のような丸い形に惹かれて
香りも形も個性豊かなセイロンティー。同じスリランカのシナモンを使ったシナモンロールや焼き菓子ともよく合う。
丸型はティーポットに入れてお湯を注ぐとゆっくり茶葉がほどけ、眺めていると気持ちが落ち着く。

茶葉が開きながらふんわりと
ほうじ茶にも似た深みがあり、素直で飲みやすい味。華々しく穏やかな甘みで口をさっぱりとさせてくれるので、シナモンロールとも見事にマッチ。
セイロンティーはお茶が少し残っているくらいのところにまたお湯を注ぐとくりかえし楽しめる。1日通してたっぷりと堪能できるのが魅力的。
アイスティーやミルクティーにしてもおいしく、質の高さを実感する。

おしゃれにナイフとフォークを添えても、やっぱり最後は手で食べてしまう。
かけがえのない時間、人を動かす力

アーティストの作品など、人の手が生み出す豊かさが店の空気にマッチする
始めはセイロンシナモンを知るきっかけとして短期的に販売するつもりだったというシナモンロール。気づけば焼き続けて13年になる。
現在はシナモンロールの販売にとどまらず、各地でイベントやワークショップを開催し、スリランカ料理の講師としても活躍。
定期的にスリランカにも渡り現地の農家を訪ねては生産者の声に耳を傾け、そこで学び得た文化や人々の暮らしを食とともに伝えている。
柔らかな人柄の店主だが、内に秘められた情熱は誰よりも熱い。
店主が紡いできた絆が私たちを見たことのない世界へと導く。
シナモンロールを食べ、スリランカの風景を想像してしまう不思議な感覚に、もうすっかり虜だ。
SHOP INFORMATION
SHOP | hari(ハリ) |
---|---|
https://www.instagram.com/hari_cinnamonroll | |
ADDRESS | 東京都大田区田園調布1-4-2 |
OPEN | Instagramにて要確認 |
CLOSE | 基本定休日:日・月・木・祝日(不定休) |
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