「ゴーフレット」と聞いて思い浮かべるお菓子は、どんなものでしょうか。

円形のパリパリとした生地に挟まれたなめらかな甘いクリーム……そんな、多くの人に馴染みのあるゴーフレットを想像してここを訪れたら、きっとびっくりするはずです。

柔らかな楕円形の生地に、しゃりっとした砂糖の意外な食感と、口いっぱいに広がるバターの風味に、食べ終わったあと残るバニラの余韻……。

いつまでも浸っていたくなるような幸せをくれるのは、蔵前駅から徒歩1分の場所にある「Pâtisserie FOBS(パティスリー フォブス)」です。

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今年の10月で3周年を迎えたFOBSには、開店すると同時にひっきりなしにお客さんが訪れます。

そんなFOBSの店長・安井義則さんに、ゴーフレットへのこだわりを伺いました。

フランスで出合って4年後、感動の味を再現した「ゴーフレット」

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そもそも「ゴーフレット」とは、フランス北部のリール地方で食べられている「ゴーフル」を元に作られたもの。
凹凸模様のついた鉄板で生地挟んで焼いたお菓子を意味します。

ちなみに、「ゴーフル」は英語だと「ワッフル」。
ゴーフルだけ聞くとピンとこない方も、リール地方に程近いベルギーで有名なお菓子「ワッフル」の仲間と聞けば、納得するのではないでしょうか。

だから、日本で「ゴーフル」や「ゴーフレット」として親しまれているお菓子は、フランスやベルギーのものとは少し違うものなんです。

店長の安井さんは昔、フランス修行中に本場のゴーフルの美味しさに魅せられたのだそう。
そこから誕生したFOBSの「ゴーフレット」について、まずは教えてもらいました。

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ーゴーフレットを作ろうと思ったきっかけはなんですか?

安井さん(以下略)「本場のフランスでゴーフルを食べたときに衝撃的においしくて、自分でお店をやるときにこれはメニューのひとつに加えようと決めたんだ」

ー安井さんがゴーフレットにそんなに惹かれた理由は、なんだったんでしょう?

「とにかく新食感だったんだよね。周りのパン生地と中のバタークリームのおいしさと。砂糖とバニラとバターのシンプルな材料でこんなにも奥行きのある美味しさが出せるんだなって感動して、フランスで食べた中で一番おいしかった」

ー安井さんにとって、フランスで食べたゴーフルは思い出の味なんですね。

「そうだね。ただ、レシピも知らなかったから、ウチのお菓子として出そうと決めたときに苦労したんだよね。4年くらい温めてきたからこそ、記憶の中ですごく美化されていたんだと思う。どんなに作っても『あのときのゴーフルはもっとおいしかったのに…』ってなっちゃって」

ー4年分もの思いが…でも、そのおかげで今の看板メニューとしてのゴーフレットが生まれたんですね。

「もともとは看板商品にするつもりではなかったんだけどね(笑)。でも、お店をはじめる以上、食べたら誰もが『ここにしかないお菓子だ』って感じてくれるようなものを作らないといけないなと思ってはいたから。そういう意味では、このゴーフレットは100%いけるなとは思った」

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ーたしかに、こういうゴーフレットはFOBSさんで初めて見ました。

「日本では珍しいけれど、フランスによく行くような方は検索してここまで買いに来てくれたりもするんだよね。ほかにもたまたま通りかかった方が『あれ!もしかして』って懐かしがってきてくれたこともあったな。フランスに住んでいたことがあったみたいで。

ゴーフレットっていろいろ種類があって、『ゴーフル』が語源なんだけど、そこからワッフルも生まれてるんだよ。ベルギーってワッフルが有名でしょう。リール地方はベルギーに近いから、ウチで出しているみたいな柔らかいゴーフレットが生まれたのかもしれないよね。同じようにパン生地だし、ゴーフルはワッフルを更に薄くプレスしたみたいなものだから」

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ーあのしっとりした生地はパン生地をプレスしていると聞いて納得しました。それから、じゃりっとしたクリームの食感が独特ですよね。

「中に入っているのはバタークリームで、主な材料は砂糖とバニラとバターだけ。独特な食感は3種類の砂糖を使っているからだね。」

ー砂糖を3種類も…?それにはどんな意味があるんでしょう?

「砂糖ってひとことで言っても、味の違いや粒の大きさによる食感の違いがあって。いろいろ試した結果3種類になった。あとは香りのちゃんと出るバニラと発酵バターを使って、食べたときに感動してもらえるように意識しているよ」

基本を大事に、フラットなおいしいものを

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ーお店を伺ったときに、クラシックな外観が素敵だなと思いました。

「ありがとう。フランスで修行していたこともあったから、フランスのお菓子屋さんの基本的な造りを意識して作ったんだよね」

ー深みのある青が印象に残ります。

「お菓子屋さんというと、どうしても女性のお客さんが多いイメージでしょう。青は元々好きな色でもあるんだけど、お店作りをするときに男性が入るやすいかなと思って選んだってのもあるね」

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ー蔵前という場所を選んだのは何か理由があるんでしょうか。

「元々ここで義理の母が陶芸教室をやっていたんだけど、窯を新しく変えるタイミングで『一階を使ったら?』と声をかけてもらって。ちょうどこのあたりでお店をやりたいなとあちこち探していたときだったから、使わせてもらうことにしたんだ」

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ー店名の由来はなんですか?

「お菓子作りに使う基本材料の頭文字から取ったもの。フランス語だね。」

・小麦粉(Farine)
・卵(œufs)
・バター(beurre)
・砂糖(sucre)

お店を始める何年も前から店名は考えていて、4文字を思いついてからは並び替えたりして一番しっくりきたからFOBS(フォブス)にした。お菓子屋さんって、女性的な響きの店名が多いけれど、これならそうじゃなくなるんじゃないかと思って」

ーお話を聞いていると「基本的」「中性的」であることを意識していらっしゃるのでしょうか?

「おいしいなと感じるものって性別を選ぶわけじゃないからね。俺はお菓子が作りたいというよりも、おいしいものを作りたいっていう思いのほうが強いかもしれない。それが自分にとってはお菓子だったという感じで」

瓦葺き職人から転身。「これなら飽きないな」と確信して入ったお菓子業界

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ー安井さんは、小さい頃から「おいしいもの」を作る人になりたかったんでしょうか?

「いや、元々は瓦葺き職人だったんだ。全然違う職種だったの。たまたま料理に興味をもって、職人をやりながらアルバイトでイタリアンのお店で働き始めたんだよね。それでもっと料理がやりたいなと思って瓦葺き職人をやめてフレンチのお店で働くことにして。そこでお菓子に出合ったんだ」

ー料理の世界から、特にお菓子を選んだのはどうしてですか?

「基本的な材料から始まって、仕組みが科学的なところがすごく面白いなと思ったんだよね。お菓子作りを始めて3ヶ月くらいで『これは飽きないな』って確信して、勉強を始めたの」

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ーお菓子作りの勉強というと…学校に入り直したりもされたんでしょうか?

「いや、自分で勉強して知識をつけた。そのころは28才だったんだけどその年で職業変えるっておかしいでしょう。だから、ひたすら修行してずっとお菓子のことを考えてた。『お菓子が作れればいい』で終わっちゃうんじゃなくて、どういうお菓子を作りたいかって明確に持ってやれたから良かったのかも。不器用だしね」

ーパティシエの方って、器用なイメージがありました…。

「俺自身はすごく不器用だよ。不器用でも頑張って練習して、センスを磨けばきれいなショートケーキが作れるのよ。お菓子作りって基本の流れは決まってるから、作ること自体は誰でもできるんだけど、バランスの取り方でおいしいまずいが決まると思ってる」

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ー安井さんにとって『おいしいの定義』はありますか?

「しっかりと味がわかるんだけど、最終的に口の中に変なものが残らないことかな。口溶けがよく、香りが最後にふわっと残ることも大切。舌の上はさっぱりとね」

ーさっぱり…?

「うん。いいお菓子は最後さっぱりする。生クリームの仕込みが悪いとくどくなってしまうんだけど、くどいのは俺はおいしいと思わない。結局お客さんが選ぶのはシンプルなショートケーキみたいなものだと思うから、変にごちゃごちゃしすぎないで基本を大切にして、しっかり作っていきたいなって」

これからも、手を抜かず、ひとつずつ着実に

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ーこれからこのお店をどんな風にしていきたいですか?

「半生菓子やクッキーを増やしてもっとお店を充実させたいなって思ってるよ。このお店、狭いでしょう。だからスペースは限られちゃうんだけど、もっと種類を豊富にしたいなと思ってる」

ーショーケースの上にもお菓子が並べてありますね。

「新作のマロンパイだね。こういう『焼きっぱなし』で置いておけるお菓子が大好きだからすごくやりたいなとは考えてるんだけどね」

ー最後に、安井さんが大切にしていることを教えて下さい。

「とにかく基本をしっかりってことかな。『作りたい』って気持ちは続けることが大変だから、手を抜かず、ひとつずつ着実にやっていくことが大切だと思ってる」

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FOBSのゴーフレットの賞味期限は作った翌日までと、とっても短命。
冷やしすぎるとバターが固まってしまうし、常温だと砂糖が溶けてしまってじゃりっとした食感はなくなってしまうので、大事にだいじに食べたいお菓子です。

たっぷり入ったバタークリームは濃厚な味わいで、ふわっと口の中で溶けてゆきます。
絶対に逃したくない「おいしい!」の瞬間、口元がゆるんでしまうのは私だけじゃないはず。

大切な誰かへのお土産に、自分へのご褒美に。
かつての安井さんがフランスで出合ったときのように、FOBSのゴーフレットを一口食べたら、心をすっかり奪われてしまうことでしょう。