日本を代表するショコラティエ・三枝俊介氏が手がける「ショコラティエ パレ ド オール」は、カカオ豆からチョコレートになるまでの全工程を一貫して行う「Bean to Bar」スタイルのチョコレートブランド。ブランド名を冠した代表作「パレ ド オール」で一躍有名になった後も、斬新なアイデアが生かされた新作チョコレートを次々と発表し、話題を呼んでいます。「残りの人生をすべてチョコレートに捧げる決意」のもと、日々チョコレートと真剣に向き合う三枝シェフ。その決意に至るまでと、進化し続けるクリエイティビティの秘密まで、たっぷりとお話を伺いました。
巨匠・ベルナション氏のエスプリを受け継いだ三枝シェフの代表作「パレ ド オール」
「ショコラティエ パレ ド オール」の代表作である、「パレ ド オール」について教えてください。円形のチョコレートの上に金箔がデコレーションされていて、とても美しいですね。
三枝ありがとうございます。「パレ ド オール」は、フランス語で「金の円盤」という意味です。フランスでは広く親しまれているチョコレートで、フランス・リヨンのショコラティエの巨匠、故・モーリス・ベルナション氏のスペシャリテでもありました。
ベルナション氏への心からの敬意と、ショコラティエとして生きて行くという自分の決意を込めて、店名にも、スペシャリテにも、この名前を付けました。「パレ ド オール」は、私のチョコレートへの思いを込めた自信作です。
「獺祭」「はちみつ」「コエンザイム」まで、ユニークなチョコレートが目白押し
日本酒好きも魅了する「獺祭ショコラ」
ショーケースを拝見していると、気になるフレーバーのチョコレートがたくさんありますね。「獺祭ショコラ」の「獺祭」は、あの山口県の名酒「獺祭」ですか?
三枝こちらは「磨き二割三分」の獺祭を使用しています。獺祭はたいへんな人気で、現在なかなか手に入りづらい状況です。しかしながら獺祭の製造元である旭酒造の桜井社長が「獺祭ショコラ」をたいそう気に入ってくださり、現在は直接獺祭を送ってくださるようになりました。
日本酒は他のお酒に比べると香りが弱いため、華やかな香りと芳醇な味をしっかり楽しんでいただけるよう、限界までぜいたくに獺祭を入れています。
はちみつがやさしく香る「マールショコラ」
砂糖の代わりにはちみつをつかった「マールショコラ」は、とてもまろやかで優しい味わいですね。砂糖が入っていないのにこんなに甘くておいしいチョコレートをいただいたのは初めてです。
三枝100%カカオにはちみつだけで甘みを付けたガナッシュは、シンプルながら個性的な味わいです。カカオのポリフェノールやミネラルに加え、ニュージーランド産のマヌカハニーや、イタリア、スペイン、フランスのはちみつのおいしさが詰まっていて、健康志向の女性からも好評です。
東京限定の「東京マールショコラ」は、皇居周辺の「そめいよしの」と「きんかん」のはちみつのみを使用。養蜂家の藤原誠太さんとの出会いから生まれた貴重なマールショコラです。
ヘルシーな成分がたっぷり詰まった「からだにおいしすぎるショコラ」
名前もユニークな「からだにおいしすぎるショコラ」は、何層にも感じられる複雑な味わいと、まろやかな口どけがクセになりそうです。カカオのコクはしっかり感じられるのに、すっきりとした後味で重たくならないのが不思議ですね。
三枝こちらは砂糖の代わりにメープルシロップとはちみつ、生クリームの代わりに豆乳、バターの代わりに良質のごま油を使うなど、からだにやさしい食材のみを使っています。
専門家の先生からいろんなお話を聞いて、美容と健康によいとされるアナツバメの巣の成分や、からだの中で働くナノ型乳酸菌も配合。徹底的にこだわったので、「おいしい」ではなく「おいしすぎる」という名前にしました。
職人の技術と斬新なアイデアの両立でチョコレート界を牽引
次々と新しい味を発明されていますが、インスピレーションの源はどんなところにあるのですか?
三枝「砂糖の代わりにはちみつを使ってみよう」「ガナッシュのクリームは生クリーム以外でもよいのでは?」と、今までになかった組み合わせを常に考えています。材料の生産者の方々との出会いや、いろんな分野の専門家の方々との偶然の出会いから生まれることも多いですね。
そして囲碁や将棋を進めるように、たくさんのアイデアを常に同時進行で考えています。頭の中には自分の手がけたクーベルチュール(ショコラティエがオリジナルチョコレートをつくる際に原料として使う基本のチョコレートのこと)のライブラリーができているので、アイデアさえ固まれば組み合わせは一瞬です。毎日チョコレートに触れているので、基礎体力のようなものができているのかもしれません。
30年近く続けたパティシエから、「Bean to Bar」のショコラティエとして再スタート
お店の名前の由来にもなった、ショコラティエ・ベルナション氏との出会いについて教えてください。
三枝まさに、私の人生を変えた出会いでした。私の当時の肩書きは、ショコラティエではなくパティシエでした。ベルナション氏が「Bean to Bar」スタイルのお店をされていることは知っていましたが、1996年当時の私は、既成のクーベルチュールを使っても十分おいしいものができるのに、わざわざ時間と手間をかけてそこまでこだわる必要はないのでは……と思っていたんです。
でも、一歩お店に足を踏み入れた瞬間、店内に漂うチョコレートの香り高さに衝撃を受けました。その後、知れば知るほどに、彼のつくるチョコレートのすばらしさやその哲学にすっかり魅了されました。
その体験は、その後のチョコレートづくりにどう影響しましたか?
三枝いつかベルナション氏のようなスタイルでチョコレートをつくってみたいとは思っていましたが、当時の日本ではまだ、流通面や時流的な問題で実現は難しく、すぐには無理でした。けれどその後日本でも徐々に環境が整ってきたことを感じ、2004年、30年近く続けてきたパティシエからショコラティエに転向。心機一転「ショコラティエ パレ ド オール」をスタートさせました。
パティシエをしている限り、チョコレートは数ある材料のうちのほんの10分の1。けれどショコラティエになれば、今までの10倍チョコレートのことを考えられるし、そのぶん10倍速でチョコレートへの理解が深まります。時間をすべてチョコレートに注げることで可能性を広げていきたいと思います。
最近では「Bean to Bar」という言葉が日本でもよく聞かれるようになってきましたが、その工程すべてをシェフ自らが手がけているブランドは今でも珍しいですね。
三枝時間の問題や、ブランドの規模の問題もあり、世界でも数えるほどしかいないと思います。自分でニカラグアの農園に直接足を運んだり、工房ですべての工程を見届けるには、私も今ぐらいの規模がベストだと思っています。
パレ ド オールではまず、一種の豆から一種のクーベルチュールをつくります。さらに、約50種ほどのクーベルチュール同士を組み合わせることで、他にはないオリジナルの味わいを生み出しています。クーベルチュールの質を納得がいくレベルに安定させるまでには、約2年の時間を費やしました。それまでに使ったチョコレートは20トン以上にもなります。
残りの人生をすべて賭けたいほどチョコレートには魅力と奥深さがある
その他、いま力をいれていることはありますか?
三枝チョコレートになる前のカカオ豆の味が体験できる「ガーナ スマイルカカオプレミアム カカオビーンズ」。こちらは、期間限定(2017年2月28日から)で関東を中心にファミリーマート、サークルKサンクスさんに置いていただいています。
こちらは一品につき20円がカカオ農家の児童労働を無くすための支援金として寄付される仕組みです。最高級のチョコレートやカカオ豆を通して、社会に貢献する仕組みができたらと思います。
本日お話を伺って、三枝シェフのチョコレートへの想いの強さに感動しました。改めて、そこまでチョコレートに惹かれる理由とは、一体何なのでしょうか。
三枝やはり、チョコレートには他の何物にも代え難い魅力と奥深さがあるからです。年間10トン以上のチョコレートを扱ってきたプロのショコラティエとして、これからも自分にしかできないことを探すこと、「チョコレートのプロによるチョコレートづくり」を確立し、その文化を後進に伝えることに、今は使命を感じています。残りの人生をすべてチョコレートに注ぐ覚悟で、日々チョコレートと真剣に向き合っています。
■ 教えてくれた人
三枝俊介さん
1956年生まれ。「ショコラティエ パレ ド オール」オーナーシェフ。スイーツ界の第一線でパティシエとして活躍後、フランス・リヨンの名店「ベルナシオン」のオーナー・故モーリスベルナシオン氏との出会いをきっかけにショコラティエに転身。2004年関西発の本格的ショコラ専門店「ショコラティエ パレド オールOSAKA」、2007年に東京丸の内に「ショコラティエ パレド オールTOKYO」をオープン。2014年、カカオ豆からチョコレートまでの全工程を手がけるBean to Bar工房を併設する「アルチザン パレ ド オール」を山梨県清里高原にオープン。2015年、東京青山に「アルチザン パレ ド オール青山店」をオープン。
獺祭ショコラ 6個入り 2484円
からだにおいしすぎるショコラQHプレミアム 3564円
マールショコラ 6個入り 2322円
東京マールショコラ(東京店限定)6個入り 2700円
ガーナスマイルカカオ プレミアムカカオビーンズ(ファミリーマート、サークルKサンクスでの取り扱い) 734円
カカオビーンズ 648円
SHOP INFOMATION
NAME | ショコラティエ パレ ド オールTOKYO |
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URL | http://www.palet-dor.com |
ADDRESS | 東京都千代田区丸の内1-5-1 新丸の内ビルディング1F |
TEL | 03-5293-8877 | OPEN | 11:00〜21:00(日祝〜20:00 |
CLOSE | 1/1(他、新丸の内ビルディングの休館日に準じる) |
※他、臨時休業する場合があります