今回お邪魔したのは、代々木上原の人気店「パティスリー ビヤンネートル」。前回、姉妹店のジェラートショップ「FLOTO」を取材させていただき、オーナーシェフ・馬場麻衣子さんのお菓子づくりへの深い愛情に感動したばかりということもあり、今回の取材も始まる前から胸のときめきが止まりません。

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「パティスリー ビヤンネートル」は、2010年、馬場さんが初めて開いたパティスリー。明るい光が降り注ぐ店内はやさしい雰囲気で居心地が良く、すっきりと整ったインテリアからはシンプルながらも卓越したセンスが感じられます。ショーケースへ目を移すと、オリジナリティあふれるスイーツが並びます。

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素材そのものの味を生かした、手づくりのケーキがずらり。
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日持ちのする焼き菓子はギフトとしても人気。

ケーキや焼き菓子のテイクアウトも人気ですが、実はいちばん有名なメニューは、毎月まったく新しい内容のパフェがいただける「シーズナルパフェ」。毎月必ず食べに来る方も多く、遠方から訪れるファンも後を絶たない人気メニューです。

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10月のシーズナルパフェは「和栗と赤すぐりのパフェ」。

やさしくナチュラルな笑顔が印象的な馬場さんですが、お菓子づくりの話になると、言葉の端々から強い情熱とこだわりを感じます。一体どのような道を通って、パティシエという天職ともいえる今に辿りついたのか、興味がわいてきます。

古代遺跡に恋した少女が、代々木上原にパティスリーを開くまで

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馬場さんにとってパティシエは、子どものころからの夢だったのでしょうか?

馬場お菓子づくりは小さなころから大好きで、いろんなケーキをつくっていました。でも、小学校のころには、お菓子よりも遺跡に夢中だったんです。あまりにも好きすぎて、大学ではスペイン語を学び、卒業後は留学してメキシコで働いていたほど。

遺跡ですか? これまた意外な……。それにしても、その好きな気持ちを大人になるまで貫いて、実際に現地でそのまま就職までしてしまうなんて……。そのまっすぐな姿勢に脱帽です。

馬場好きになると、夢中になっちゃうんです(笑)。遺跡を見るという夢もかなったし、向こうでのお仕事は楽しかったのですが、当時の仕事はルーティンワーク的な部分もあり、だんだんと、何かをゼロから生み出すクリエイティブな仕事をしたいと考えるようになりました。そこで初めて、昔から大好きだったお菓子づくりともう一度向かい合ってみようと思ったんです。帰国後は、京都のレストランで働き始めたのを皮切りに、上京後、いくつかのレストランで修業をしました。

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修業先は、パティスリーではなく、レストランだったのですか?

馬場はい、レストランのコース料理を締めくくるデザートを担当していました。レストランでいただくデザートには、たとえば冷たいアイスクリームに温かいソースをかけて提供したり、持ち運びには向かないくらいのギリギリの柔らかさのゼリーをお出しするなど、その場でしか味わえない特別なおいしさがあります。いま、お店で月替わりの「シーズナルパフェ」をお出ししているのも、テイクアウトでは味わえない、スペシャルな卓上デザートをお出ししたい、という気持ちからなんです。

その場でしか味わえない、グラスの中で何度も変化する月替わりのスペシャリテパフェ

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11月のシーズナルパフェは「赤いキウイとアールグレイショコラ」。

「パティスリー ビヤンネートル」のスペシャリテである「シーズナルパフェ」について、改めて教えていただけますか。

馬場お店のオープンから約1年がたち、少しだけ落ち着いてきたかなというタイミングで、2011年からシーズナルパフェを始めました。先ほどお話ししたように、イートインでしか表現することのできないお菓子を提供したいという気持ちが強かったのがその理由。毎月絶対に内容を変えようとか、同じメニューが重複しないように頑張ろうとかは、当初は特に考えていなかったんです。

さっそく、今月のパフェを用意していただいたのですが……まるで、絵画のような美しさですね。いつまでも見とれてしまいます。

馬場ありがとうございます。11月のパフェは、「赤いキウイとアールグレイショコラ」です。上から、チョコレート、クレームシャンティ、アールグレイのババロア、シュトロイゼル、キウイのソルベ、フィユタージュ(折りパイ)、チョコレートのジェラート、アールグレイのババロア、はちみつのゼリー、カシスと赤ワインのソース、という構成です。

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そんなにたくさんの要素で成り立っているのですか! 驚きです。せっかくなので、溶けないうちに、さっそくいただきます。こ、これは……、ちょっと未知のおいしさですね……。

キウイの上品な酸味が口じゅうにぱあっと広がったかと思うと、今度はビタースウィートなチョコレートのコクが舌の上ですーっととろけて、キウイのおいしさを何倍にも引き立ててくれますね。キウイとチョコレートの意外な組み合わせが、こんなにしあわせな結果を生むなんて! 幾重にも新しい味が重なっていき、食べ進めるごとに新しいおいしさを感じて、感動がどんどん増していく。「食べる」というより、「味を追いかける」という言葉がしっくりくるような……。こんなにしあわせな体験、なかなかできないと思います!

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馬場ありがとうございます、うれしいです。紅妃キウイは、熟すると中心部分がきれいな赤みを帯びてくるのが特徴です。うちで使っている愛媛県大三島の燦燦(さんさん)農園のものは、なかでも甘みと旨味がぎゅーっと凝縮されたスペシャルなキウイ。そのおいしさが最大限に引き立つように、11月らしく、上質なチョコレートを合わせて構成していきました。

お菓子づくりを続けるほどに見えてきた、素材選びの重要さと生産者の熱い思い

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今年でパフェを始めて7年目ですが、何か気づいたこと、変化したことはありますか?

馬場最初は、そこまで素材の産地などにはこだわっていませんでした。当時の流行でもあった、ケーキをグラスの中で再構成するスタイル(ショートケーキのパフェ仕立てのような)にトライするなど、いろんなことを夢中で試していたのですが、ある日、花澤家族農園さんの無農薬のレモンに出会い、そのあまりのおいしさにびっくりしてしまって。「大切に育てられたフルーツってこんなにおいしいんだ!」「素材がよいと、こんなにも味が違うんだ!」という、シンプルだけどとても大切なことに気づかされたんです。

そのレモンは、今もスイーツや姉妹店「FLOTO」のジェラートで使われているものですよね。運命的な出会いだったんですね。

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馬場そうなんです、もう、本当に、信じられないくらいおいしくて。その後もいろんな農家の方と出会い、作り手の想いを知るうちに、野菜やフルーツに対する意識もどんどん変わり、調理するときの素材の扱い方も変わっていきました。

いま私が大切にしているのは、おいしくてフレッシュな旬の素材を選ぶこと。それから、そのおいしい素材の魅力を最大限に生かしたレシピを考えること。パフェ自体を楽しんでいただきたいというより、素材のおいしさを楽しんでいただくために、パフェというスタイルでできることに手を尽くす、という感覚なんです。

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そこまで言っていただけると、生産者の方もしあわせですね。

馬場生産者のみなさんには本当にお世話になっていて。私の難しい注文にも親身になって応えてくださるし、その熱意にいつも頭が下がります。遠くから、わざわざうちのパフェを食べにきてくださる方もいるんですよ。おいしいと喜んでいただけたらとてもうれしくて、もっと頑張ろう! って思います。

二度と同じ手は使わないという制約が、パティシエとしての新たな扉を開いてくれる

「その月を逃したら、二度と同じものは食べられない」と言われている「パティスリー ビヤンネートル」のパフェ。毎月新しいメニューをゼロから考える手間は相当なもの。毎回、何度も試作を重ねては少しずつ理想の味へと近づけていくのだそうです。そこまでの情熱は、一体いどこからくるのでしょうか。

月替わりのパフェで、今まで一度も同じものをつくったことがないというのは、すごいですね。

馬場厳密にいうと、過去には一度だけ復活メニューがあったんですよ。ある方から「どうしてもまたあれが食べたい」とリクエストをいただき、ほぼ同じものをおつくりしたんです。そのとき以外は、新しいものをつくり続けています。

ということは、今年の11月のパフェと、昨年の11月のパフェは別のものだということですよね。月替わりで毎年12通り、5年で60通り……と考えただけでめまいがしそうです。

馬場最初はそこまでストイックにするつもりはなかったのですが、お客さまが喜んでくださることもあって続けるうちに、これは自分の力を試すよい訓練になっているなと実感するようになって。つい甘えを出してしまうと、同じ味の組み合わせに逃げてしまう。新しい素材や味の組み合わせを発見していくことはパティシエとして成長につながりますし、大変ですが、それだけのやりがいを感じています。

自分なりの理想を追求しながら、身近な街のスイーツ店で在り続けたい

改めて、「パティスリー ビヤンネートル」のコンセプトを教えていただけますか?

馬場「ビヤンネートル」というのは、フランス語で「多幸感」「充実感」という意味。みなさんの生活の中に、スイーツのあるしあわせを感じていただくためのお店でありたいですね。

代々木上原という街を選んだのも、すぐ近くに商店街があって、学校帰りの小学生たちと八百屋のおばあさんが気軽に会話をしている、「生活の気配」を自然に感じる街だったから。今ではありがたいことに遠方からのお客さまも多いですが、変わらず地元の方々もよく足を運んでくださっていて、とてもうれしく思っています。

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こんなにすてきなお店が近所にある、代々木上原の方々がとってもうらやましいです。最後に、馬場さんがこれから新たに挑戦したいことがあれば教えてください。

馬場その場でしか味わえないものを楽しんでいただきたいという思いを、さらに極めていけたらいいなと思っています。たとえば、パフェに別添えで後がけのソースをお出しして、パフェを食べる直前にそのソースをかけてから食べていただくというのも素敵ですよね。また、月替わりのパフェのためのドリンクもご用意したいな、なんて構想しています。まだなかなか手が回らないのが現状ですが、その素材に合わせたとっておきの一杯を提供できたら、すごく楽しいはず! これからも、楽しみにしていてくださいね。

「身近な存在としてのスイーツ」を大切にしながら、グラスの中にあふれる想いをぶつけ、自分を表現し続ける馬場さん。毎月1度、この日はパフェの日! と決めて通えたら、どんなに生活がうるおうことでしょう……。私も来年の年間計画にさっそく盛り込むぞ! 新たに決意をして、多幸感に包まれながらお店を後にしたのでした。

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■ 商品リスト

「シーズナルパフェ(月替わり)」 1080円
ドリンクとセットで1420円
直接行ってもオーダーできますが、土日などは行列ができることが多いため、確実にいただく場合は電話予約がベターです。

■ 教えてくれた人

馬場麻衣子さん
パティシエ。「パティスリービヤンネートル」オーナーシェフ。2010年、東京・代々木上原に「パティスリービヤンネートル」を開業。2017年3月、東京・参宮橋に、ラボを兼ねたジェラートショップ「FLOTO」をオープン。お気に入りのケーキは「林檎のシブースト」。

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(写真一部店舗提供)