「Artichoke chocolate(アーティチョークチョコレート)」は、いまやお洒落の街となった清澄白河の一角にある、これまたお洒落なデザインのチョコレート専門店。チョコレートはすべて、カカオ豆からつくるビーントゥバーとなっています。

商品はタブレット、トリュフ、ドライフルーツのチョコレートがけ、色とりどりのボンボンショコラから、骨つきチキンやアスパラガスを模したものなど、さまざまです。季節によってはイートイン限定のデザートメニューも出しています。ボンボンショコラもカカオティーもとてもおいしくて、わたしのお気に入りのお店です。

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店内では自由にタブレットの試食ができます

今回は、店長でありショコラティエの宮下雄樹さんに、チョコレート専門店を開くまでの経緯とこだわり、これからやっていきたいことについて、お話を伺いました。

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店内の様子を覗くことができる、ガラス張りの入り口。ギャラリーと間違えて入ってくるひともいるのだとか

ショコラティエをめざすきっかけになったのは、はじめて食べた製菓用チョコレートのおいしさ

まず、宮下さんがショコラティエになろうと思ったきっかけについて聞かせてください。もともとは、パティシエだったとお聞きしています。

宮下はい、製菓学校を出ていまして、卒業してから今のお店を出すまでに5年間ほどパティシエとして働いていました。

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骨つきチキンチョコ

専門学校に行かれたということは、学生のときからお菓子屋料理に関心があったのでしょうか?

宮下そうですね。はじめはお菓子屋さんになろうと思って入った専門学校でしたが、そこでチョコレートに魅了されました。はじめて製菓用のチョコレートを食べたとき、今まで僕が食べてきた市販のチョコレートとの違いに強い衝撃を受けたんです。なんておいしいんだろう、と感激したのを覚えています。

そこでチョコレートの魅力に、はまっていったのですね。

宮下はじめて食べたボンボンショコラも、僕にとってはすごく衝撃的なものでした。いわゆるフランスのボンボンショコラみたいなもの、フランボワーズのガナッシュだとか。はじめて食べたとき「なんだこれ、すごいぞ」と。直感に訴えかけてくるものを感じました。

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季節限定のチョコレートを使ったパフェ(1200円)。おなじ清澄白河内のコーヒー専門店やチーズ専門店とコラボするなど、工夫が凝らしてあります。

それから、お菓子をつくるのであればチョコレートを専門にしたい、と考えるようになったのでしょうか。

宮下チョコレートという素材に強い魅力を感じて惹かれたので、専門をチョコレートに絞ろう、と考えるようになりました。お菓子の幅広い楽しさ、いろいろなものを組み合わせる楽しさがあるのもわかっていましたが、ひとつのものを極めることにもまた違った楽しみがあるはずだ、と。学生のときにはショコラティエになることを決めていましたが、卒業後の就職先は、街のケーキ屋さんでした。

はじめからチョコレート専門店に就職しなかったのは、どうしてですか?

宮下当時の製菓学校の先生方から「パティシエや料理人に枠を広げて、いろんなものを勉強して吸収してから、それをチョコレートに生かすこともできるよ」とアドバイスをいただきました。それで、僕自身も、はじめは幅広く吸収したうえで、最終的に積み上げた経験をチョコレートに落とし込んでいこう、と考えるようになったのです。ですので、ケーキ屋さんに就職して、そこで5年ほど経験を積みました。

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いちどはチョコレートづくりを辞めようと考えた

独立や、チョコレート専門店を開くことは学生時代から考えていたようですが、現在のお店「アーティチョークチョコレート」のイメージはいつ頃からありましたか?

宮下これはパティシエ時代の話になります。その頃の僕は、勤め先のケーキ屋さんでチョコレートをやらせてくれ!と頼み込んで、冬場のチョコレートづくりをすべて自分でやっていました。

わざわざ自分で頼み込んでつくっていたのですね。すごいです。

宮下チョコレートが好きだったので、つくりたかったんです。それから、くり返しくり返し、毎日のようにチョコレートをつくっていると、だんだんと自分の使っているチョコレートの味が自分に染み付いていきました。たとえば目隠しをして食べても、自分が使っているものであれば、どのメーカーのどのチョコレートかが、わかるようになるのです。

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目玉焼きチョコレートは、イースターの時期だけの限定品

宮下当時は、勉強のためにいろんなお店に足を運んでチョコを食べ歩きました。ところが、どのお店のボンボンショコラも、みな同じ味に思えてしまった。理由は明確でした。ボンボンショコラに使われる製菓用のチョコレートが、どこのお店も同じものだったからです。

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アイスカカオラテ 550円

宮下もちろん、果物のピューレが入っているなど、細かいレシピの違いはあります。ただ大きな意味で、同じチョコレートからつくられたボンボンショコラは同じものだな、と当時の僕は生意気にも思うようになりました。そのことに気がついたときに「はたして、これは僕が製菓学生のときに思い描いていた専門職の姿なのかな?」と、疑問がよぎりました。

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さまざまな味のボンボンショコラは、アーティチョークチョコレートのビーントゥバーチョコレートを使ってつくられる

宮下「ああ、これがショコラティエとしての限界点なのかな」と、当時は真剣に思いました。僕のチョコレートへの情熱も、そのときに一度さめてしまい、ショコラティエの夢を諦めたに近い状態になりました。

自分だけの味をつくるために、ビーントゥバーを学んだ

その後、どのようにして今のようなカカオ豆からチョコレートをつくる方法にたどりつきましたか?

宮下ビーントゥバーやクラフトチョコレート(少量生産)の先駆けのブランドが出てきたときに、完全にオリジナルでチョコレートがつくれることを知りました。これなら、自分でチョコレートをブレンドすることもできるだろうし、カカオ豆の選定も含めてできるはずだと。自分のチョコレートをつくれる可能性があるのだと知り、うれしくなりました。

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今回お話を聞かせていただいた、店長兼ショコラティエの宮下雄樹さん

それで、もう一度チョコレートをやろう、と。

宮下ええ。あらためて、ショコラティエになりたいと思うようになりました。その頃に、旅行でハワイに行き、カカオ豆からチョコレートづくりをしている「Manoa Chocolate(マノアチョコレート)」さんを訪問しました。つくり手の方は、ほんとうに親切にしてくださいました。僕が「自分のチョコレートをつくりたいんだ!」と伝えたら「キッチンに来い」と言って工房を見せてくださって。そのお陰で、ビーントゥバーの製法を知ることができました。

チョコレートづくりに必要な機材のことも教えてもらいました。帰国後すぐに、それらの機材を購入しました。それからは、仕事終わりに家でチョコレートづくりをする日々が続きましたね。

そうして1年間くらい家でチョコレートづくりをしていたら、物足りなくなってしまったんです。仕事をしながらできることには限りがありました。思い立った後は早かった。「よし、お店つくっちゃおう」と(笑)。

オープン当時は2種類のトリュフだけだった

ノリが軽いですね(笑)。となると、オープン当時は、商品の品揃えも少なかったのでしょうか。

宮下これはびっくりされると思うのですが、ほとんど何もなかったんです。出来次第やっていこう、のスタンスでお店を始めたので。開店当初は2種類のトリュフだけでした。

実は、トリュフしかなかったのにも理由がありまして……。オープンした当初は、まだ僕たちがおいしいと思えるタブレットがひとつもできていなかったのです。なので、もうトリュフだけにしよう、と。

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店内で手づくりされるトリュフ

タブレット自体をつくることはできても、味の面で納得がいかなかったのですね?

宮下そうです。もちろん形としてつくることはできます。でも、お店を開けるときのルールとして、おいしくないものができたときには、それはもう潔く出さない、と決めていました。僕たちはあくまでも「おいしいチョコレートをつくる」ことをテーマにしてるので。

一度購入してみて気に入ったカカオ豆も、次に仕入れたときにはまったく変わってしまっていることがあります。農作物ですし、すべての豆を農家さん単位で購入するのは難しいので仕方がないのですが……そういうときは、つらいですね。ちなみに、どう頑張ってみても売り物にできないなと思ったチョコレートは、店内のオブジェの材料になったりします。

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チョコレートでつくられた鳥のオブジェたち

チョコレートから、生産者の人々の存在を感じてほしいという想い

宮下実は、ビーントゥバーという言葉を、アーティチョークチョコレートでは、これまで使ってきませんでした。そう紹介してもらうことには全く問題はないのですが、僕たち自身からは発信してこなかった。

チョコレートには、さまざまな価値があります。個性や新規性も、そのひとつ。でも、僕たちにとってのチョコレートの価値は、食べてもらって「あ、おいしい!」と言ってもらえること。だから、豆からつくっていることはアピールポイントではなかったのです。

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『ファーマートゥーバー』のサンプル。大きめの板チョコの下には、チョコレートの原材料となったカカオ豆がローストされたものが入っています。

宮下そんな僕たちアーティチョークチョコレートですが、正式にビーントゥバーをはじめることにしました。理由は『ファーマートゥバー』という商品をはじめることにしたからです。豆からチョコレートをつくることを「ビーントゥバー」と呼びますね。それに対して、ぼくたちが思っていることを商品で表現したのが『ファーマートゥバー』です。(発売は、2018年春頃予定)

ビーン(カカオ豆)ができる手前には、かならず農家がいる。バー(板チョコレート)ができる手前にはチョコレートメーカーがあって、職人がいます。そういった、人の部分に着目できる商品をつくりたいと、ずっと思っていました。

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宮下さんが実際にカカオの生産地に行って持ち帰った、生のカカオ。カカオは熱帯の果物で、その色はオレンジ、赤、黄色などさまざま。

宮下『ファーマートゥバー』では、実際に僕たちが働いている農家さんを訪問し、どういうふうにお仕事をしているのかや、作業工程についてもお聞きしたうえで豆を扱っています。

僕がすごく気に入っているトリニダード・トバゴのカカオ豆でつくった、『ファーマートゥバー』のチョコレートがありますよ。食べてみますか?

はい、いただきます。……わあっ、顔を近づけなくても、ものすごくいい香りがただよってきます。口に入れると、お花をイメージさせるような甘い香りを感じますね。まろやかで綺麗な味わいが、香りの印象に沿っています。栗のようにほっこりとしたフレーバーも感じましたが、最後にちゃんと苦味があるのがすばらしいです!

宮下そうなんです。いろんな味と香りがするのですが、ちゃんとチョコレートらしい味わいで終わるのが、このバーの良いところだと思っています。

とてもおいしくて、感動しました!生産者、つくり手に目を向けてもらおうという試みも興味深いです。

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くすっと笑えるようなユニークなチョコレートも販売。鑑賞用ですが、おいしく食べられます

宮下カカオの生産について、児童労働などのダークなイメージを強く持っている方もいらっしゃるかもしれません。もちろん、そういう地域もあると思います。でも、僕たちが実際にお会いする農家のひとたちは、みなさんとても豊かでいらっしゃいます。経済的には日本と比べて貧しいかもしれなけれども、とても人間味があって豊かな生活をしていると感じます。

そういった、人々の生活をチョコレートから少しでも感じてもらえるように、ファーマートゥバーがあります。生産者の方々の生活があってこそ、当たり前のようにカカオもここにあるわけですから。これからのアーティチョークチョコレートでは、たくさんの人々の手を渡って、ひとつのものができているということを、メッセージとしてみなさんにお伝えできればと思っています。

教えてくれた人
宮下雄樹さん
アーティチョークチョコレートのオーナー兼ショコラティエ。おっとりしていて気さくな性格。