今回取材するお店があるのは、日本橋エリアの「浜町」。聞き慣れない地名でした。
わたしが浜町駅に降りたのは、今回が初めて。地下鉄を出ると、まず目に入ったのは緑、それから公園を散歩をする人々。地下鉄の真上に位置する浜町公園を通り抜けて、お店へ向かいます。

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到着しました。
カカオ豆の焙煎から手がけたチョコレートで、ボンボンショコラをはじめとした多種多様なチョコレート菓子をつくる nel CRAFT CHOCOLATE TOKYOです。

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2019年2月オープンした同店は、HAMACHO HOTELという名のデザインホテルと同じ建物内にあります。

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店内のカウンターには、カカオの実の形を模したライト

浜町を盛り上げたい。ホテルのチョコレート専門店の想い

「こんにちは、はじめまして」
出迎えてくれたのは、村田友希シェフ。京都の洋菓子マウンテン等で勤務したのち、フランスなどでも修行を積んだ実力派のショコラティエです。

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まるでこちらの聞きたいことが分かっているかのように、すらすらと話しだす村田シェフ。このお店の入っている建物全体ができた理由を教えてくれました。

村田 nel CRAFT CHOCOLATE TOKYO(以下、nel)の入っているホテル自体が、浜町を盛り上げるためにつくられたものです。

日本橋や人形町とは違って、浜町の認知度はまだまだ低いものです。でも、実は江戸の風情と下町情緒を併せ持っていて、歴史ある名店も多い街で、最近ではこだわりのカフェやショップも増えるなど、様々な魅力が眠っています。nelをきっかけにして、みんなが浜町を目指してきてくれるのが理想だと考えています。

そう、はにかみながら話す村田シェフ。「スケールの大きな話」と言いながらも、その話ぶりからは、現実味を帯びたビションが伝わってきます。

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店内でオーダーを受けてから専用の機械でつくるショコラショーは、好きなチョコを選べます。

村田 まずは、お客さまにご来店してもらうことを第一に考えています。

ここに来てはじめて食べられるものを提供することで、「わざわざ行く価値のある場所」にしていきたいです。

ベトナムで感じた味をひとつのパフェで表現

より多くの人に、浜町に訪れてもらいたい。そのためにも、お店に足を運んでほしい。
そういった考えからイートインメニュー、特に”アシェットデセール”に力を入れているnelいちおしスイーツがチョコレートパフェです。

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アシェットデセールとは皿盛りのデザートのこと。普通、店内で提供され、オーダー後に仕上げられる。写真は初めてカカオ農園を訪れたインスピレーションから生まれたチョコパフェ。

村田 パフェをひとつのアシェットデセールと考えて、最後までおいしく食べてもらうための仕掛けを施しています。てっぺんのクリームを一番濃厚にすることで、上から食べ進めていくと、だんだんと味わいが軽やかになるようにつくっています。

さっぱりと食べられるチョコレートパフェは、地域の方からも「おいしい」と評判で、ご高齢の方でも1人で1台食べていかれるそうです。チョコレートパフェといえば濃厚なイメージですが、nelのさっぱりとした味わいのチョコレートパフェは、いったいどのようにして生まれたのでしょうか。

村田 このパフェは、現在の提携先のベトナム・チャプ村のカカオ農園を初めて訪れたときの体験から生まれました。生のカカオの果肉を初めて食べて、まるでライチのような味わいに驚きました。

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生のカカオの中には白い果肉が入っており、フルーツとしてそのまま食べられます。

村田 実際に農園に足を運んだからこそ、板チョコレートやボンボンショコラだけでなく、カカオの果肉を使ったアシェットデセールのインスピレーションをもらえました。

チョコレートが、生産者と食べる人の架け橋になった

村田 カカオ農園のほとんどは、ホーチミンより南の最も暖かい地域に集中していますが、nelの提携農園は、ベトナムでも涼しい気候の中部山岳地帯に位置するダクラク省にあります。夫婦2人で経営している小さな農園です。

はじめて農園を訪問したときに、サンプルのお豆を10キロほどいただいきました。日本に帰って、そのカカオ豆でチョコレートをつくってみたら……すごくおいしいかったんです。

世界でもうちだけでしか食べられないカカオの味です。

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ベトナムの農園を訪問した村田シェフと、農業研究者のクワさん。

村田 この写真でオーナーのタムさんが手に持っているのは、nelのボンボンショコラの箱です。お客さまが、ベトナムの景色をイメージした絵を描いてくださったんですよ。板チョコレートを食べて、すごくおいしくて感動したと言って。

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村田 私自身、いままで菓子屋として働いてきて、ありがたいことに「このあいだ食べたお菓子、おいしかったです」と言っていただいたことはありました。けれども、絵のように形として頂いたのは15年パティスリーに勤めてきて初めてのことで、感動しました。

これはなんとしてでも農園の方にお渡ししなければと、現地法人にお願いして、届けてもらったんです。

そしたらタムさん、やっぱりすごく喜んでくださって。

お店をやっている意味を実感できた瞬間でした。食ってすごい大事なんだ、人と人を繋げるくらい力があるもんだなぁって。生産者に声を届けることは、僕たちの使命だと思っています。

1粒のボンボンショコラの中に、シェフのすべてを込めて

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チョコレートの原料となるカカオ豆から仕入れてチョコ作りをしているnelですが、「これぞ」という看板商品は何だろう……。

お店の味の基盤をつくっている板チョコレート、オーダーを受けてから専用マシーンでつくるショコラショー。先ほどご紹介したパフェ以外にも目移りするものばかりですが、一番のメインは、村田シェフがこれまでの経験を活かしてつくるボンボンショコラです。

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自慢のカカオ豆を使った「ブンチャプベトナム」のボンボンショコラは、鼻に近づけると、ふわふわと心地よくカカオの香りが漂ってきます。
口に含むと、だんだんとクリーミーな甘さが出てきました。強めに焦がしたキャラメルに、クルミのようなナッツ感。それから、カカオの複雑な酸味。一粒のなかに、たくさんのフレーバーが隠れています。それは他のどこにもない、nel の味でした。

村田 おおげさに思われるかもしれませんが、この小さな一粒のなかに、僕のやりたいことが全部詰まっているんです。たとえば、ボンボンショコラの外側と内側でチョコレートのカカオ分を変えていますし、ミルクチョコレートも自家製のものを2種類用意して、それらを一粒のなかで使い分けたりもしています。

ボンボンショコラは「ブンチャプ ベトナム」以外にも、「紫蘇」や「山椒」といった魅力的な和素材を使ったラインナップです。

村田 紫蘇や山椒の香りが、カカオのフレーバーを追い越さないように意識してつくっています。自分のなかでは、メインはあくまでもカカオの香りです。

「山椒」のボンボンショコラを食べてみると、予想していた辛味はなく、カカオの風味に山椒がやさしく寄り添っているかのような印象を受けました。

村田 山椒は、京都の錦市場で見つけた、乾燥の実山椒を一晩かけて生クリームに浸けています。香りをじっくりと生クリームに移してから、翌日チョコレートに混ぜ合わせることで、辛味はなく、爽やかな風味だけが残せます。

お話を伺って、想像以上の工夫の数々に驚きました。
これだけのこだわりがありながら、店頭やカタログでは、簡単な説明のみだけをしているといいます。

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村田 説明して初めて分かってもらえるような細かい工夫の部分は、お客さまに伝わらなくてもいいと思っていますから。地域の方に親しんでもらえるお店がつくりたいので、誰にでもわかりやすく、おいしいチョコレートを心がけています。

「なんかおいしいよね、nelのチョコレート」って言ってもらえたら、それで十分なんです。

シェフの言葉を意外だと感じたのも一瞬でした。
すべての工程は食べる人の「おいしかった」のためにある。おいしい、といってもらえたら、村田シェフのこだわりは伝わったともいえるのでしょう。

編集後記

nel のボンボンショコラをはじめて手にしたとき、まずその見た目に惹かれました。
「ブンチャプ ベトナム」と「山椒」、このふたつのボンボンショコラを並べると、高さが違かったからです。ああ、この作り手さんは、コーティングの厚みまで考え抜かれているのだなぁ、と。インタビューの日がいっそう楽しみになりました。

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当日の私は、歯の治療のため、やわらかいものしか食べられない難儀な状態だったのですが、そんななか気を遣ってシェフが出してくださったチョコレートプリンの、なんとおいしかったこと! このプリンのこだわりは、お店に行って確かめてみてください。

■ 教えてくれた人

村田友希さん
nel CRAFT CHOCOLATE TOKYOのシェフショコラティエ。
京都の洋菓子マウンテンにて、水野直己シェフに師事。フランス、ルクセンブルグでの修行経験もあり。

SHOP INFOMATION

NAME nel CRAFT CHOCOLATE TOKYO
URL http://nel-tokyo.jp
ADDRESS 東京都中央区日本橋浜町3-20-2 HAMACHO HOTEL TOKYO
TEL 03-5643-7123
OPEN 10:00〜18:00 (LO. 17:00)
CLOSE 不定休

※他、臨時休業する場合があります