沖縄でお菓子、というと、なにを思い浮かべるでしょうか。
ちんすこう、サーターアンダギー、それとも、紅芋タルト?

「北中城(きたなかぐすく)に、和菓子屋さんができたんだって」
「えっ、和菓子ですか?」

はじめて聞いたときは、驚いたのと同時に、嬉しかった。

独自の食文化が根付いている沖縄。洋菓子屋さんはあるものの、県内で和菓子屋さんは稀有な存在。それも、メイン商品が「豆大福」と「どらやき」の和菓子屋さんなんて。

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場所は本島中部の北中城村と聞いて、さっそく伺ってきました。

店名は「羊羊 YOYO AN FACTORY」。
オーナーを務める屋部(やぶ)さんと武山さんの二人が、同い年でひつじ年生まれ、ということで名付けたそうです。

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「普段はこんなに近くで座りません」と笑う屋部さん(右)と武山さん(左)

屋部さんは、同じ北中城村内で人気のベーカリーカフェ「プラウマンズランチベーカリー」のオーナーです。カフェが10年目に入ったのを期に、店舗をスタッフに任せて、武山さんと「羊羊 YOYO AN FACTORY(以下、羊羊)」を始めたそう。

武山さんは、株式会社机というデザイン事務所で、ウェブディレクションからグラフィックまで幅広い仕事をされています。

経歴の違うお二人が、どうして和菓子屋を始めることになったのでしょうか。

「なにか」をしたくて、和菓子屋に。

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屋部 武山君とは、付き合いの長い友人なんです。ふたりで一緒になにかやりたいね、って話をずっとしていて、はじめたのがこの羊羊です。

武山 長年デザイン業をやってきたのですが、お客さんの顔が見える仕事がずっとしてみたくて。はじめはゲストハウスをやるつもりでした。

屋部 武山君がゲストハウスを始めたら、そのスペースの一部を使って、なにかしようかな、と考えていました。物件を探していた武山君に、僕が「いいところが空いたよ」って言って教えたのが、この場所でした。

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どうしてゲストハウスから和菓子屋さんに変わったのでしょうか?

屋部 ゲストハウスは揃えるものが多くて、いろいろとお金がかかるってことに気がついて(笑)。他にやりたいことはあるかなってふたりで話し合いました。和菓子屋は2案目くらいで、わりとすぐに決まったよね?

武山 うんうん。
僕の実家が和菓子屋だったのもあって、道具はそのまま引き継いでいます。祖父母の代で店を畳んだので、使われていない和菓子づくりの道具が沢山あったんです。

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お店の棚には、落雁(らくがん)の木型が飾られている。

武山さんのルーツに和菓子があったんですね。お店に立っていて感じることはありますか。

武山 お客さんの喜んでいる顔が見られるのは、すごく嬉しいですよ。今までの仕事では得られなかったものです。この仕事を始めてから、祖父母のつくった和菓子を食べたことや、おまんじゅうを包むお手伝いをしたことを思い出すようになりました。大人になってから、すっかり忘れていたんですけどね。

おやつにも、手土産にも。羊羊の定番和菓子と、台湾ちまき。

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羊羊の和菓子は、総じて甘さは控えめ。二人がオープン当初からずっとつくり続けているのが、豆大福、どら焼きもそうです。

屋部 うちの和菓子は、甘さを控えながらも「和菓子を食べたい」と思って来てくださるお客様に満足してもらえるようにおつくりしています。もうひとつ食べたくなるような、丁度いい甘さを目指しています。

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餡子を炊くための銅鍋は、武山さんの実家から引き継いだもの。

屋部 例えば、豆大福は、外側のあずきの食感と、次の一口を急ぎたくなる塩味に、皮ごとすり潰してつくった「つぶしあん」が入っています。

どら焼きの餡子は、白砂糖を使わず、三温糖ときび砂糖を使用して、軽やかな甘さに。皮に黒糖が入っていることで、ふんわりと甘い香りが鼻をくすぐります。

そして、このふたつの商品をかけ合わせて生まれたのが、人気商品の「もちどら」です。

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「もちどら」はどういうふうにして生まれたのでしょうか。カシューナッツが入っているのが面白いです。

屋部 「どら焼きに、もち挟んでみようよ」というアイデアで始まって、ふたりで試作しました。最初は和菓子によく使われるクルミを入れてみたのですが、食感がいまいちだったので、カシューナッツにしてみたら、おいしかったんです。

カシューナッツですか。

屋部 そう、どら焼きと豆大福に並ぶ、羊羊の看板メニューが台湾ちまきです。カシューナッツは、ちまきにも使っています。「和菓子やさんに、ちまき?」とよく驚かれるのですが、これがまたおいしい。

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羊羊の台湾ちまきは、具材たっぷり。蒸されたカシューナッツは柔らかく、全体に馴染みながらも程よい食感を残しています。八角の香りがエキゾチック。

ちまきは軽食にうってつけですね。羊羊は持ち帰りがメインのお店ですが、お客様の反応はどうですか。

武山 お客様のなかには「手土産で喜んでいただけたから」とまた買いに来てくださったり、「手土産でいただいておいしかったので」と自分で来てくださる方がいらっしゃいます。

羊羊さんは住宅街の入り組んだ道の中にお店を構えているため、通りすがりのお客さんは滅多におらず、みなさん、SNSや知人からの評判でお店を見つけてくるのだそうです。

二つの視点が、羊羊の「おいしい」をつくる

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屋部さんは、プラウマンズランチベーカリーのオーナーとして長年務められてきましたが、羊羊を始めてから、何か変化はありましたか。

屋部 一番大きな変化は、一人から二人になったことです。ベーカリーのオーナーをしている時は全部一人で決めていたけど、ここでは二人で考えて、一緒に決めます。自分一人では絶対にやらなかったことの結果も見えてくるので、それが楽しいですね。

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なるほど。武山さんに半分任せていることで、自分では思いつかなかった結果にもたどり着けている、ということですね。

屋部 ええ。ただ、二人で決めていくことを楽しめるのは、この歳になったからだと感じます。たとえ揉めても、建設的に話し合える余裕が、今はあります。
仲のいい友人は他にいても、誰とでも仕事ができるわけではないと思うんです。彼は友人の頃から、尊敬できる人でした。武山君だから、一緒に仕事がしたいと思えた。とても貴重な存在です。

これまでの経験があったからこそ、武山さんとバランスを取ってお仕事ができている、と。

屋部 若いときだったら「相手に合わせてやってる」と、内心では高慢になっていたかもしれません。

武山君はすごく細かくて、仕事を一分一秒単位で管理しているのをみるとびっくりするけど、それは誰もしないような面倒なことを「やってくれている」と捉えています。そのほうが、僕にとっても、彼にとってもプラスになりますから。

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武山さんは、羊羊で働き始めてからもデザイン業を続けられていますよね。和菓子作りとウェブデザインは、まったく異なる業種に思えますが、経験はどのように生かされていますか?

武山 和菓子の製造面でいえば、なるべく無駄を削ぎ落とすようにしています。

ウェブの仕事は基本的に分業です。細かく時間や本数を算出して効率的にまわすのですが、和菓子の製造でも、同じように効率化できるんですよ。

屋部さんにとっては、今までやってきた飲食と違うやり方だと思いますが、僕のやり方に合わせてくれていて、すごく感謝しています。

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反対に、和菓子製造の考え方が、デザインに影響することもあるのでしょうか。

武山 あります。デザインの仕事だけをしていたときには、飲食店からサイトの相談を受けても「デジタル化して、効率よくしましょうか」って提案していたと思うんです。

実際にお店に立ってみると、飲食業のオペレーションではデジタル化=効率的ではなかったことに気がついたんです。

たとえば、キッチンに立っていて手が濡れている状態で、パソコンを開くのは難しいですよね。電話のほうがコミュニケーションツールとして適している場合もあるのだと、お店に立ってみてわかりました。

こうした「気づき」が節々にあって、それは今デザイン業に還元できていると思います。

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イートインで夏季限定のかき氷は「せっかくお店まで来てくれた方に出せるものを」と用意している。香ばしいきな粉に、ふわふわのかき氷と、専用につく作られた餡子が底に隠れている。

インタビューを通して、屋部さんと武山さんの関係が、羊羊の和菓子の味、お店そのものを形作っていると感じました。互いへのリスペクトや感謝があるからこそ、いいものづくりができる、いいお店づくりができる。そう思います。

本格的な和菓子づくりを始めて、まだ2年と経たないという羊羊さんの和菓子ですが、すっと馴染むような魅力があります。それは二人のオーナーの個性やアイデアが、足し算ではなく、掛け算になった結果なのかもしれません。

これからもちょっとずつ進化していくであろう羊羊さんの和菓子を、また何度でも、食べに行こうと思います。

SHOP INFOMATION

NAME 羊羊 YOYO AN FACTORY
URL https://yoyo.okinawa/
ADDRESS 〒901-2311 沖縄県中頭郡北中城村字喜舎場366
TEL 098-979-5661
OPEN 年中無休 10:00〜17:00
CLOSE なし

※他、臨時休業する場合があります