千駄木の路地裏に佇む、看板のない不思議なお店。ここは、和菓子プランナーのつくださちこさんが営む「和菓子薫風」です。いただけるのは、国産果実が入ったどら焼きなど、季節を感じる一風変わった和菓子と、つくださん自ら蔵に出向いて買い付けてきたものもあるというバリエーション豊かな日本酒の数々。御自身も一風変わった経歴の持ち主であるつくださんに、オリジナルの和菓子づくりに込めた想いについて伺いました。
バイオメーカーの技術職から心機一転、和菓子プランナーの道へ
つくださんは、どのような経緯で和菓子プランナーという肩書きを持たれるようになったのですか?
つくだ前職はバイオメーカーの技術職で、データの分析などを行っていたんです。
なんと、理系のお仕事だったのですね!
つくだ大好きな仕事だったのですが、業界の変化から「これからは自分の人生を自分でコントロールしてみよう」と心機一転、元々大好きだった和菓子の世界に飛び込んでみることにしました。
夜学で調理師免許を取り、和菓子の専門学校に通い、イタリアンレストランやフレンチレストランで働き、割烹料理屋で働きながらコースのデザートの企画を担当したり、企業の商品開発にコンサルタントとして関わったりもしました。
独立されてからのご活躍ぶりがすごいです……。あらゆる分野から、食を学ばれたのですね。
つくだ企業の商品開発では、いろんな味や香りの組み合わせを学びました。独立したころは「とにかくおいしいものをつくりたい」と思っていたのですが、商品開発に関わってからは、「ちゃんと原価に見あう範囲で考える」という考え方を学びました。
商品をつくりながら実感したのは「お菓子づくりは科学だ」ということ。
たとえば、とろみやふっくら感など、自分の欲しいテクスチャーがあれば、それに見合った素材をいろんな条件で組み合わせつつ、最後に答え合わせをしていく。ロジカルで実験的で、自分の性分に合っているんだと確信しました。
レモンのコンフィがふわりと香る、一風変わった季節のどら焼き
そうしてつくられたのが、こちらのどら焼きですね。ふっくらとしていてとてもおいしそうです。レモン入りのものをいただいてもよいですか?
つくだどうぞ、お召し上がりください! レモンコンフィ入りは一番人気です。
おいしい! 皮はしっとりふわふわで、あんは上品でほのかに甘く、口の中に甘酸っぱいレモンがふわりと香り、とてもさわやかな後味ですね。ほどよいボリューム感で、お腹も満たされます。
つくだありがとうございます。ふっくらと炊いた北海道産大納言小豆のあんに、瀬戸内岩城島のレモンの皮でつくったコンフィ(= ジャム)を組み合わせました。あんと柑橘類というのは意外な組み合わせに思えますが、甘さとさわやかさの絶妙なハーモニーがハッとするおいしさなんです。
無農薬の国産レモンというのは、とても贅沢ですね。
つくだコンサルタント時代からご縁のあったレモン農家さんのものなんです。国産無農薬でとてもおいしいのですが、表面にキズがついているものはそれだけで商品にならないのです。果汁は絞って使えますが、レモンの皮のほうは飼料にして家畜に食べさせていたそうです。今ではレモンのマーマレードも一般的なものになっているけれど、発売当時(2010年ごろ)は、今のようにレモンの皮に需要がなかったんですね。
それはもったいない話ですね……。
つくだそこで、「ぜひ使わせてください!」と相談をして安価で購入させていただいて。どら焼きのあんに、レモンの甘酸っぱさや苦さは絶対合うと思っていたので、皮を使ってコンフィにしました。酸味のあるものはくちのなかをさっぱりとさせてくれるので、どら焼きにぴったりなんですよ。
誰も見たことがないような新作より、「定番+α」の新鮮さを大切にしたい
つくだもともと、この「レモンのどら焼き」は、友人から何か新しい和風デザートを考えてほしいと頼まれたのがきっかけでした。私には「人は新しすぎるものには手を出さない」「知っているもの+αの新鮮さがちょうどいい」という自説があるので、誰もが知っているどら焼きに、新しい何かをプラスしたものをつくろうと思いたちました。
たしかに! どら焼きの場合、つくださんのおっしゃる「+α」が、レモンになるんですね。こちら、評判はいかがでしたか?
つくだおかげさまで評判が良く、甘いものが苦手な方にも「これはさっぱりとしていておいしい」と言っていただけました。最初は手売りでカフェなどに置かせていただいていたのですが、需要が増えたのでネット販売をすることになり、2012年、実店舗「和菓子薫風」を構えるに至りました。
なので「レモンのどら焼き」は、自分のお店を立ち上げるきっかけになった思い入れの深いお菓子なんです。今では種類も増えて、きんかん、ルバーブ、さくらんぼのフレーバーもあります。
おすすめのいただき方はありますか?
つくだこのどら焼きは、中心部にコンフィが入っているので、端から食べると、皮、あんの甘さ、コンフィのさわやかさを味わって、またコンフィが消えてあんだけになり、皮だけになり、旅をしているように食べ終わる、そして最後に「もうひとつ食べたい……」と思っていただけるようなストーリーをイメージしています。なので、できれば先に割ってしまわずに、端からゆっくりと食べてみてください。
つくりたてもおいしいですが、1〜2日経ってしっとりさせてからいただくのもおすすめです。お茶はもちろん、コーヒーも合いますし、日本酒との相性も抜群ですよ。うちではお客さまの好みをお聞きして、その方に合う日本酒を選べますので、お気軽にご相談ください。
羊羹と日本酒のマリアージュ! 日本酒好きが集うお菓子屋さん
店内にずらりと並んだ日本酒がお見事ですね。
つくだ自ら蔵元を訪ねて仕入れたものも含め、全国から厳選した日本酒を常時30〜40種類は扱っています。ふだんから日本全国の蔵元をまわって、酒蔵を見学させていただいたり、酒造のお手伝いをさせていただいたりと、深いお付き合いを続けています。和菓子に四季があるように、日本酒の味にも四季があって、両方とも知れば知るほど非常に奥の深い食文化です。
薫風を立ち上げた2012年は洋菓子とワインの全盛期で、和菓子も日本酒も低迷気味でした。でも、どちらも日本の大切な食文化だし、代々伝え続けていくべきものだから、時代に合わせたスタイルでアピールしていけばきっと面白いことができるはずだと考えました。
ちなみに、「和菓子 日本酒」で検索するとうちのサイトが上位に出てくるのですが、お店自体は看板を出していませんし、あえて観光客の方が気軽に入りにくい雰囲気にしています。
スペースも狭いですし、最初から調べて何の店か知っている方に来ていただいたほうが楽しんでいただけると思い、こういうふうにしているんです。
お店でお菓子をいただくときは、日本酒のセレクトはお任せできるんでしょうか。
つくだもちろんです。このお菓子にはこの日本酒を、といちばんおすすめのものを、お客さまの個性に合わせて選んでさしあげています。甘いものも日本酒も両方好きな男性のおひとりさまもとても多いです。
コミュニケーションの場になればいいなという気持ちで、店内には8名がぐるりと座れる大テーブルがひとつだけ。甘い和菓子とおいしい日本酒の力で、初対面のお客さま同士、すぐに仲良くなっていますね。
他に、日本酒と相性のよい和菓子はありますか?
つくだこちらの「白羊羹」はいかがでしょうか。
これはまた、インパクトのある、美しいビジュアルですね!
つくだ3種のドライフルーツに、カルダモン、オレンジピール、コリアンダーシードを合わせています。もともとは、雑誌のレシピ連載で発表した羊羹なんです。読者の方が家でつくってもまったく同じ味に仕上がりやすいように、扱いやすく味の安定したドライフルーツをたっぷり入れました。スパイシーで辛口なので、フルーティーな日本酒によく合います。
和菓子とお酒のマリアージュ、とても奥深い世界ですね。
つくだ私自身もまだまだ学びきれていない分野なので、これからいろんな挑戦をしていきたいと思っています。最近は、月1回、和菓子5品と日本酒のコースもはじめました。季節ごとに異なる内容で、お客さまにいろんな楽しみ方を提案していければと思っています。
■ 商品リスト
「どら焼き 岩城島のレモンコンフィ入り」1個324円
「白羊羹」4320円
■ 教えてくれた人
つくださちこさん
和菓子プランナー・和菓子薫風オーナー。大手製薬メーカーにて8年間勤務した後、調理師を取得し、和菓子の世界へ。2005年に和菓子の専門学校を卒業。企業の外部アドバイザーとしてメニューのプロデュースに4年半関わる。2012年、和菓子と日本酒のお店「和菓子薫風」をオープン。
SHOP INFOMATION
NAME | 和菓子薫風 |
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URL | http://wagashikunpu.com/ |
ADDRESS | 東京都文京区千駄木2-24-5 |
TEL | 03-3824-3131 | OPEN | 水木金13:30〜20:00/土日13:30〜19:00 |
CLOSE | 月火定休/土日不定休 |
※他、臨時休業する場合があります