編集部が、東京で販売しているBean to Barのお店について調べているうちに出てきた、リトアニアのBean to Barチョコレートブランド「Chocolate Naive」。リトアニア製品を扱う、外苑前にある「LT shop」で販売していることがわかり、連絡して、今回訪問してきました。
今回お話いただいた松田沙織さんは、Chocolate Naiveの日本代理人であり、リトアニア製品を輸入販売する「LT shop」のオーナー。ちょうど、出張で現地に行っていることもあり、スカイプでの会話となりました。聞き手は、編集部の平野です。
Bean to Barなのに、らしくない「Chocolate Naive」
まずは、リトアニアについてすこし説明します。リトアニアは、バルト海東岸に南北に並ぶバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)の中で最も南に位置し、面積は北海道の8割ほどの小さな国。人口は、約300万人。東京都の約4分の1、と言ったらイメージがつくかもしれません。国土の3分の1が森で覆われており、ベリーやきのこ、はちみつなど、品質の良い食材が豊富な土地なのだそうです。
まずは、Chocolate Naiveについて聞いてみました。
松田Chocolate Naiveは、当時20代だったドマンタス・ウジュパリスによって、2011年にスタートしたブランドです。「Bean to bar」とカテゴライズしてはじめた人たちの中では、結構早い世代かなと思います。
松田自分で手を動かしてできるビジネスをしたいと考えて、当時コーヒーはある程度一段落していたので、他のジャンルからBean to Barに可能性を感じたんだそうです。有り金ぜんぶはたいて、1トンのカカオ豆を仕入れたんです。それで、0から何の知識もない中でチョコレートづくりをはじめたんです。
0から!
松田そうです。EU内で、製法に目を向けて作りはじめたブランドがこれまであまりなく、最初はそれだけで新鮮で。面白いことをはじめた若者が出てきたぞ、っていう感じで注目されて(笑)。
松田その後、自分たちのアイデンティティとして、「リトアニアの人々に日々親しまれている食材」をフレーバーに使うことを決めたのが、3年前のこと。そうして、Bean to Barチョコレートの中でも、フレーバーを積極的につける珍しいブランドになりました。
一番人気な商品はどれですか?
松田ハニーですね。名前から想像して、甘いチョコレートなのかな、と思うじゃないですか。でも、Chocolate Naiveのハニーは、甘さはそこまでなく、むしろ蜂蜜の香りがしっかりするんです。
松田製法も、実はすごくて。蜂蜜って水分を持っているので、チョコレートの油分と完全に融合させるのは、これまで無理とされてきたんです。でも、その砦を何とか打ち破る方法を見つけて。それがきっかけで、2014年にInternational Chocolate Awardで賞を獲り、世界に進出するようになりました。
訪れたときに店舗に出ていた、キャラメル、ハニー、ポルチーニ、ベリー、ホップ、マヤ・レッドの6種類。
どうしてリトアニアから世界レベルのチョコレートを生み出せたのか
お話を伺う前は、日本でリトアニアの商品を買ったことがなかったため、そもそもどこにある国なんだろう? とさえ思っていました。EU諸国でも、Chocolate Naiveが話題になったときは、「リトアニアってどこ?」と言われてしまうくらいだったのだそう。
どうして、リトアニア発のBean to Barチョコレートが、世界中で人気になったのでしょうか。
松田理由は、大きく分けて三つあるかなと思います。
松田一つめは、ヨーロッパに位置していたから。EU内の他の国々に日本でいうと、東京大阪間くらいの感覚で移動できるわけです。国外で仕事をするという感覚が少し日本にいるときよりも身近なことかもしれません。リトアニアは人口が約300万人弱。そのうちこういう新しいものを購入する層は多くても約10%とかそのくらい。国内需要だけではやっていけないので、ロンドンやパリ、ベルリンなどでも戦える世界レベルの商品をつくらないといけないことが、はじめから分かっていたんですよね。そういう事情もあって、ワールドワイドにやることが、そもそも前提にあったようです。
松田ヨーロッパって、実はあまりアメリカ文化の影響を受けないんですね。日本にいると、アメリカのことが最新だしカッコイイってなりますが(笑)。食文化の歴史も長く確立しているので、情報としてあまり入ってこないんです。そのおかげか、自分たちの尺度でブレずに独自性のあるブランドをつくれたんじゃないかと思います。
松田二つめは、リトアニアの食環境の質が高かったから。リトアニアの人たちって、普段食べているものが美味しいんですね。パンとか、ふつうのチーズとか。贅沢品ではないんですけど、真っ当なものを食べているというか、添加物に舌が犯されていないというか。だから、リトアニアの人たちがおいしいと思うレベルって、ピュアでクリアで質が高いんです。
松田ただ、食生活は結構シンプルですし、食事のバリエーションもそんなに多いわけじゃないんです。でも、このパンのレベルって、日本の人気店でも敵わないんじゃないかというレベル。昔から人々が育んできた食生活がそのまま残っているからこそ、本来あるべきクオリティーを保てている。素材そのものの魅力を生かすというBean to Barの在り方と相性がよかったのかもしれないですね。
松田三つめは、Bean to Barの枠に囚われず本当においしいチョコレートをつくろうとしてきたから。そもそも私たちも含め消費者は、「おいしいかどうか」で、もう一度食べるかどうかを決めるじゃないですか。たとえ目を惹くコンセプトでも、次の強みがないと、2回目3回目につながっていかない。
松田そういう意味では、Bean to Barであることよりも、まずは「世界で一番美味しいチョコレート」をつくることが重要であって、Bean to Barは、そのためのひとつの基本条件。チョコレートはハッピーで最高に美味しいものであってほしいと考えているからこそ、新しい味の組み合わせへの興味や挑戦は尽きなくて、Chocolate Naiveは積極的にフレーバーをつけているんです。
ダークチョコレートの苦手意識をなくしてくれたのがきっかけ
ここまで話してくださった、松田さん。日本でも珍しい、リトアニアの商品を取り扱っているということで、これまでの経緯を伺いました。
松田リトアニアを知ったきっかけは、出身の美大の教授で舞台美術家の方がいて、その先生の仕事を手伝っている中で、ルーマニアでリトアニアのお芝居を見たことです。そのお芝居が心に残っていて。お芝居って総合芸術なので、お芝居のクオリティの高い国は文化的レベルも高い国だと思って、お芝居以外にも面白そうなものがありそうだなと。それが、十数年前のこと。
松田そのあたりから、リトアニア製のリネンとかが日本に入りはじめて。リネンで有名なんだ、とか、テキスタイル関係の仕事をしていたので、興味を持ちはじめました。
そのころから実際にリトアニアに行っていたんですか?
松田いえ。行きはじめたのは、6年前の夏くらいです。そのときはプライベートで。その当時からグラフィック関係の仕事をしていたんですけど、1年考えて買い付けの仕事をはじめたんです。
まだそのころは、「LT shop」はなかったんですよね?
松田はい。当時は、お店は設けておらず(オープンは2年後の2013年)、リトアニア製品を現地で仕入れてきては、ポップアップショップを企画して販売している時期でした。その初めての出張のときに、いつも行くオーガニックのお店に、アルミホイルで包んであるおしゃれなチョコレートが並んでて。チョコレートっぽくない素敵なパッケージだなと思ったのがChocolate Naiveとの最初の出会いでした。
そこから、どんな経緯で取り扱うようになったんですか?
松田当時は、ダークチョコレートと塩チョコレート、シナモンオレンジなんかがあって。それまで私はダークチョコレートは苦いものだと思っていたので好きじゃなかったんですが、Chocolate Naiveのダークチョコレートは抵抗なく食べれたんです。
アレ? と。
松田はい。ダークチョコレートなのに食べれる! しかもおいしいぞ! と。フードプロダクトはまだ輸入していなかったので、これはいいかも!と思ったんです。
松田後になって知ったことですが、創設者のドマンタスいわく、良いチョコレートには苦みがないらしいんです。苦みが出るということは、カカオ豆なのか、発酵なのか焙煎なのか、どこかしらに問題があるんだそうです。%が上がれば味は凝縮して濃くなるけれど、苦みと比例するものではない、って言うんですね。
松田あと、リトアニアとお付き合いをしていく中で知ったことなんですが、彼らってすごく「親日家」なんです。
えっ、どうしてですか?
松田ひとつの架け橋は、杉原千畝さん。2015年12月に公開された映画「杉原千畝」の舞台が、実はリトアニアなんです。リトアニアはユダヤ人が多かった国なので、迫害される方も多かったのだそうです。でも杉原さんのおかげで、日本人が多くのユダヤ人を救ったということで日本人との関係をとても大事の思ってくれているようです。あと、もうひとつ考えられるのは…
他にも?
松田日本の技術の高さも理由のひとつかもしれません。ソ連時代にたまたま入ってきたソニーなどの日本製品を見て、どうして日本はこんなものがつくれるんだ?! と。他にもあるとは思いますが、日本人だと言うと、うれしそうにしてくれますよ。
いいものになるのなら、0から変えることも厭わない
このパッケージデザイン、シンプルなのに品があるデザインが素敵ですね。創業からずっとこのデザインですか?
松田いえ、今シーズンからフルリニューアルしたんです。まだ新しいブランドなのに(笑)。
松田リトアニアに共通していることなんですが、資本主義になってまだ25年で、固定概念がないのか、いいものになるのなら、0から変えることも厭わないんです。リニューアル後は、以前のものよりも、厚くコンパクトなデザインになりました。
【Before】
【After】
松田このパッケージになった大きな理由としては、輸送のときに割れないことです。以前のものは、おいしいけど薄かったのでよく割れてしまったんです。
おおお…。
松田このテーブル、実は輸送用のパレットでできているんですが、これに乗せて運ぶので、無駄なく積めるサイズを算出してこのサイズにしたんだそうです。なんで最初からそれをやらなかったのかと思うんですけどね(笑)。
他にも、こんな面白いフレーバーのチョコレートが!
(試食させてもらいながら)ポルチーニは味が面白いですね! 何も言わずに食べさせてみたい味です。
松田あとから、ちゃんときのこの味がしますよね。ポルチーニ含めてきのこは、リトアニアで獲れる食材の中で、5本の指に入るくらいみんな大好きなもの。でも、意外性No.1ですよね。
確かに!
松田意外すぎるかもしれませんが、分析的に、ポルチーニとヘーゼルナッツの香りの成分は共通しているらしく(ヘーゼルナッツはチョコレートと最高の組み合わせ)同じ化学物質を持っているなら合うに違いない!、ということでやってみたらおいしかった、ということらしいです。ワインやチーズにも合いますよ。ヨーロッパでは一番人気です。
他にはどんなものがありますか?
松田キャラメルも裏切られないおいしさです。これだけ唯一のミルクチョコレートなんですけど、実はこれ、キャラメルフレーバーをチョコレートに入れているのではなくて、チョコレート全体をカラメル化させているんです。キャラメル&チョコではなく、これ自体がキャラメルチョコ。なので、材料のところにはキャラメルとは書いていないんです。
なるほど。(食べながら)裏切られないおいしさですね!
松田いわゆる普通のダークチョコレートもちゃんと上手につくるんですよ。出来るだけ浅煎りでローストして、豆の持つフレッシュさを保つことを意識していて。商品名の「MAYAN RED(マヤ・レッド)」は、ホンジュラスというマヤ文明の舞台となった国でしかとれない品種のカカオ豆で。
豆自体に甘みがあり、乳製品っぽさも感じるほど濃厚な豆です。豆自体にインパクトの強い特徴があると、フレーバーとマッチしないので、こういう豆の場合は、スタンダードなダークチョコレートとしてつくっています。
松田ちなみに、かごの中にチョコレートと一緒に入っているほうじ茶は、石川県の丸八製茶場のもの。私の友人のご家族の会社だったこともあり、限定企画で販売させていただきました。日本茶とチョコレートってこれまであまりなかった組み合わせですが、意外にも好相性ということが分かったので、これからもペアリングをご提案していきたいと思っています。
確かにその組み合わせは頭になかったです!これまでたくさんお話いただきありがとうございました!Chocolate Naiveだけでなく、リトアニアにも興味が湧きました。
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