はじめまして。寺脇あゆ子です。この春よりCAKE.TOKYOで記事を書かせていただくことになりました。
ふだんは、福岡を拠点に「食」や「旅」にまつわるコト・モノ・ヒトを取材しています。おいしいものがあると聞けば、日本全国、ときには海外までも飛んで行く日々。これまでに取材やプライベートで出会った、お気に入りのお店をご紹介していきます。
今回ご紹介させていただくのは、福岡を代表する洋菓子店「フランス菓子16区」。“ダックワーズ”の考案者として知られるオーナーシェフ、三嶋隆夫さんにお話を伺いました。
地下鉄薬院大通駅から歩くこと約4分。閑静な住宅街の一角に「フランス菓子16区」はあります。1階はショップ、2階に喫茶コーナーがあり、1階も2階もひっきりなしにお客さまが訪れています。
今ではフランスでも売られている “ダックワーズ”を考案
「ダックワーズはもともとホールケーキの底生地として使われており、バタークリームなどを塗ってサンドするなど、フランスでは生菓子として存在していました。それを僕は焼菓子にできないかと考え、試行錯誤を重ねてこのカタチが生まれたのです」と話すのは、この店のオーナーシェフ・三嶋隆夫さんです。
スタッフも周囲の人々も、三嶋さんのことを“ムッシュ”と呼びます。
ムッシュは、かのカトリーヌ・ドヌーブなどの著名人を顧客に持つ今はなきパリの名店「アクトゥール」で、日本人初のシェフを務めた経歴の持ち主。このお店がパリの16区にあったことからマダム三嶋が「16区」と名付けたそうです。
ダックワーズの原型ができたのは、「アクトゥール」時代。あるとき、オーナーから「面白いケーキはないか?」と聞かれたそうです。訊けば、カトリーヌ・ドヌーブの身内の方から、「これまでにないケーキを食べたい」という依頼を受けたとのこと。
「サイズも大きくて、生クリームでデコレーションをしたり、飴細工で飾ったりしたもので、今のカタチとは全然違いますが、このケーキをつくってみて、焼菓子にできないかと思うようになったのです」とムッシュ。帰国後、材料の配合や焼き方などをいろいろ試し、1981年10月のオープン時に現在のカタチのものができたそうです。
「オープンしてからも試行錯誤は続きました。とにかく生地が沈まないように薄く焼くことが大変で。簡単なようで、それができるまでに3年ほど費やしました。
その後は、材料による変化です。今でもいいものがあれば、どんどん材料を変えますし、それにより配合も少し変わります。材料は卵白、砂糖、アーモンド、小麦粉だけといたってシンプル。だからこそ、素材がとても大切なんです」
こうして誕生したダックワーズは、フランスでも評判に。「ダックワーズのつくり方を教えて欲しい」と、フランスから福岡までやってきた有名店のオーナーシェフもいるそうで、今ではフランスでも焼菓子としてのダックワーズが売られています。
自分が納得できる仕事をするために
オープンから36年。国内外に多くのファンを持つ「16区」ですが、百貨店などの催事に出店はするものの、支店を出すことは考えていないそうです。
「私は、自分で仕事を感じながら常に気持ちの入ったお菓子を提供したいと考えています。利益を重視するのであれば、支店を出した方がいいんでしょうけど、職人としての納得性が最優先なんですよね。味にしても仕事の手順にしても、自分が納得できる仕事がしたいので、必然的に1店舗でしかできないんです」
とムッシュは言います。
そしてもう1つ。ムッシュがこだわっていることがあります。それは「鮮度」です。素材の鮮度、お菓子の鮮度。その日に作った生ケーキはその日のうちに売り切り、焼菓子も毎日焼いて常に新しいものを提供しています。
4月1日より「ブルーベリーパイ」発売開始!
毎年4月に入ると、「16区」のファンが待ち望んでいる「ブルーベリーパイ」(1個400円・税別)の発売がスタートします。実はこの「ブルーベリーパイ」も、ここまでくるまでに大変な苦労があったそうです。
「ブルーベリーが収穫できる時期にフィリング(ジャム)を炊きますが、フィリングはおいしくできるものの、通常の焼き方では焼いている途中でフィリングが爆発してしまうんです。フィリングに火が入ると爆発してしまうことがわかり、火が入らないうちに外側だけを焼く方法を見出すために10年はかかりました」
こうして、中はしっとりジューシー、外はサクサクの食感が絶妙な「ブルーベリーパイ」が完成。今では多いときに1,000個、平均すると1日400個も売れる人気商品に。その日の売れ方を見ながら焼いているので、常に冷めたてを購入することができます。
ムッシュは4月29日に73歳の誕生日を迎えますが、学生時代に野球やラグビーで鍛えただけあって、とにかくお元気!
「これからも、今まで通りやっていくだけです。新しい素材を見つけて、新しい商品をつくって。ヨーロッパで生まれた歴史のあるこの仕事に従事できる幸せを感じながら、歴史や思いを後進に伝えていきたいですね」
2階の喫茶コーナーでは、月替わりの「今月のデセール」をいただくことができます。下記の写真は、「ブラン マンジェ コント グレイ エ ベルガモット(3月のデセール)」。アールグレイのブランマンジェにオレンジのオイルを入れ、アールグレイのソースを合わせたものです。
福岡を訪れたときには、ぜひ「16区」に立ち寄り、ムッシュの想いが詰まったケーキや焼菓子を堪能してみてください。ダックワーズやブルーベリーパイなどは、公式サイトから取り寄せも可能です。
SHOP INFOMATION
NAME | フランス菓子16区 |
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URL | http://www.16ku.jp |
ADDRESS | 福岡県福岡市中央区薬院4-20-10 |
TEL | 092-531-3011 | OPEN | ショップ 10:00~18:00/喫茶 10:00~17:00 |
CLOSE | 【ショップ】 月曜日(月曜日が祝日の場合は翌火曜日が休) 【喫茶】 月曜日・木曜日(木曜日が祝日の場合は営業) |
※他、臨時休業する場合があります