極めて個人的な感覚なのですが、バナナを食べるとちょっとだけ気持ちが上を向く気がします。そんなイメージもあったのでバナナ専門のスイーツ店「バナナファクトリー」を知ったときもポジティブな印象しかありませんでした。

バナナファクトリーがあるのは東京スカイツリーのすぐ近く、向島です。大学で同級生だった二人が2017年11月にお店をはじめました。

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主に販売やお店まわりを担当する市村さん。

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そしてシェフとして主にお菓子づくりを担当する佐久間さん。

どんなお店なんだろう、どうして二人でバナナのお店なんだろう。そんなバナナファクトリーのストーリーが知りたくてお店にお邪魔しました。

人が喜ぶ環境をつくりたい。その一つの解がお店だった。

どうしてお二人でスイーツのお店を始めることになったのですか?

市村お店をやらないかと持ちかけたのは僕です。小さいころからスイーツ店をやりたいと思っていたわけではないんですが……大学卒業後ひとりで世界中を旅していたとき、現地のおいしいものを食べることがすごく楽しくて食に興味を持ち始めました。それでフランスに行ったときにスイーツにハマっちゃったんです。

甘いものは癒やされますよね。

市村 そう、だから単純にいいなあって思ったんです。食に関する仕事をやるなら、帰国後はまずは勉強しようと父が営む食品サンプルをつくる会社に入りました。

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それまでも佐久間さんと連絡取り合ったりしていたんですか?

市村いえ、全然! ある日シェフ(佐久間さん)が専門学校でスイーツ学んでるって聞いて連絡取るようになって。「今日営業であのお菓子屋さん行ってきたよ!」とか、そういう会話が増えていきました。

佐久間さんは専門学校のあと、就職されたんですか。

佐久間そうですね。学校で2年勉強して、その後ブライダルやレストランも手がける企業に就職しました。もともと自分でケーキ屋をやりたいなと考えていたし、声をかけてもらってタイミングが重なりましたね。

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お店を始めると決めたタイミングでバナナ専門にしようと思っていましたか。

市村そのときはまだバナナとは決めてませんでした。僕がやりたいことは『人に喜んでもらえる環境や場所をつくりたい』なんです。お店はその一つの表現だと思っています。そのなかでもちょっと珍しい、「お!」と振り向いてしまうようなお店ができたらと考えていました。

バナナを知ることからのスタート

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お店の形を決めていく中で、どうバナナに至ったのでしょう。

市村僕、もともとバナナが好きなんです。健康的で食べる場面にもポジティブなイメージもある。スポーツの試合前とか。それに小さい子どもも食べられる。なのにバナナのスイーツを扱うお店って少ないなあって昔から思っていたんです。それでバナナに特化したお店ってどうだろう、ってふと思ったんです。それでシェフに提案して。

それですぐ決まったんですか。

市村割と軽い気持ちで決まったよね。

佐久間そう。でも「バナナ専門店いいね!」って言ったけど、後から「大変だな」って思いました。そもそもパティシエがお菓子でバナナを扱うことが少ないんですよ。なぜかというと、色が変わっちゃうから扱いが難しくて。

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市村本当にバナナのことを全然知らないところからスタートでした。産地もコスタリカやチリとたくさんありますけど、ノウハウがあって安定的に生産できるのはフィリピンとエクアドルなんです。最初はわからなかったんですけど食べ比べていくとそれぞれ全然違うんですね。たとえ濃厚でリッチな味でも、ケーキとのバランスを考えると濃厚だからいいというわけでもなくて。

佐久間今はフィリピンの高地栽培のバナナを使っています。産地を決めているのは、お店で提供する商品の品質を均一にするためです。インドのバナナもおいしいらしいんですよね。でも全部インド国内で消費されちゃうから日本に運ばれて来ないんです。

バナナ、こんなに身近なのに意外と何も知らないものなんですね。

コンセプトはシンプルでわかりやすいこと。

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お菓子をつくる上で、何か軸にしていることはありますか?

佐久間全体を通して「わかりやすさ」をコンセプトにしています。それと甘すぎないように。バナナ自体に甘みもありますし。

市村僕自身、複雑なケーキよりシンプルでわかりやすいものを選ぶことが多いんです。それにお客さんは意外と老若男女問わずいらっしゃる。だからシンプルでわかりやすいものをお出しするようにしています。

佐久間例えば、この『ばななっ子』はシンプルなバナナのショートケーキです。お菓子屋さんといえばショートケーキなので、強くこだわってつくりました。

ひとつぺろりと食べられてしまう、やさしい甘みのショートケーキ『ばななっ子』。
ひとつぺろりと食べられてしまう、やさしい甘みのショートケーキ『ばななっ子』。

佐久間一般的にはシロップを使ってスポンジをしっとりさせることが多いんですが、うちのスポンジはシロップを使っていません。最初スポンジに生クリームを染み込ませて、スポンジのキメまで生クリームを入れる。それからまた生クリームを塗って……とつくっています。土台をつくったら半日寝かせる。そうすることでクリームとバナナが馴染むんです。クリームとスポンジの比率もバナナとの割合を計算しながらつくっています。

バナナの甘味にさっぱりするクリームが印象的なシュークリーム。
バナナの甘味にさっぱりするクリームが印象的なシュークリーム。

佐久間シュークリームもオープン時からの人気商品です。中のクリームは生クリームよりも軽い口当たりにしたくて、隠し味にマスカルポーネを入れています。

お店一番人気のバナナパイ。中のバナナ、あんこ、クリームチーズが三位一体のおいしさ。
お店一番人気のバナナパイ。中のバナナ、あんこ、クリームチーズが三位一体のおいしさ。

バナナにあんことは意外でした。

市村あんこを入れた商品がほしいと、僕からシェフにお願いしたんです。この辺は下町で和菓子屋さんも多いので。

佐久間でも僕、もともとあんこが苦手なんです。特にあんこ感が強いつぶあんが。だけどお菓子で使うなら絶対食感があるつぶあんのほうがいい。それですっきりした甘さのあんこを探して、老舗の和菓子屋さんのあんこを使うことにしました。それでバナナと和と洋のものを合わせてみようと思いついて、クリームチーズを入れてみて完成したのがバナナパイです。

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市村正直バナナパイがこんなに人気になるとは思ってなかったよね。

佐久間そうだよね。

市村どんどん人気になって「バナナパイありますか?」って聞かれるようになって。

看板商品としてつくったんだとばかり思っていました。

市村それでいうと、お客さんがつくってくれた看板商品ですね。本当に感謝です。

オープン前から地域の人に支えられて今に至る

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地域の方々との交流も多いんですか。

市村もう物件選びのときからずっと地域のみなさんにはお世話になってますね。飲食店向けの物件が全然なくて断られてばかりだったんですけど、すぐ近くの中山不動産がすごく親身になって話を聞いてくれたんです。何度も大家さんを説得してくれて、中山さんがいなかったら店出せてないですもん。

親身に聞いてくれるのは下町らしいですね。

市村そうですね。物件が決まっていざ施工会社さんに頼もうと思ったら予想以上に見積もりが高くて。。だから自分たちで図面書いて木を買って、DIYしながらお店をつくっていたときも、近所のみなさんが「にいちゃん何できるの?」って声かけてくれたんです。「スイーツ店ができます」って言ったら気にかけてくれて、どんどん口コミでお店の話が広がっていきました。

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地元の人との距離が近いんですね。

佐久間下町なんで結構フランクと言うか親近感のあるお客さんが多いです。だから「おいしかったよ」とか純粋な「もっとこうしたらいいのに」という率直な声も聞けますね。

市村お客さんに怒られたこともあります。でも何も言ってもらえなくて離れていってしまうより、言ってもらえたほうがいい。もちろん反省して改善して、ちょっとずつみなさんに育ててもらっています。

誰かの喜びをもっと広めたい。お菓子を楽しんでほしい。

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これからやっていきたいことはありますか?

市村やっぱり僕、人に喜んでもらいたいんです。ケーキってみんな笑顔になるために買いに来てるじゃないですか。だから笑顔で帰ってほしいし、食べて笑顔になってほしい。そんなシーンを増やしていけたら。それと個人的に、シェフのつくるケーキが大好きなんです。だからイベントにも参加して、もっと多くの人にお店やケーキを知ってもらいたいなって思います。

佐久間これからも愛されるお店にしていきたい思いがあります。お菓子って、おもしろかったりおいしかったり、驚きがあったりするんです。だから「バナナとこれって合うんだ」っていう発見が伝わったらいいですね。あ、あと今度地域の児童館で子どもたちにお菓子を教えるイベントがあるんです。だからお菓子をつくってみたいなと思う子どもが増えたらいいなって思いますね。

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取材中、何度かお客さまが来店されました。お父さんと子ども、近所のお母さん、若い女性、帰り道の小学生……お客さまの年齢や性別に傾向はありません。ただ、どの顔もみんな笑っていて、やさしさをまとっていました。

子どもにも大人にも愛されるバナナを専門にするスイーツ店は、今日も笑顔が見たくてお菓子をつくるんだと思います。

帰り道のわたしは「元気になったなあ」なんて言葉で思うより先に、気持ちがあたたかくなっているのを感じました。

商品リスト
ばななっ子
400円
シュークリームバナナ
200円
シュークリームチョコバナナ
200円
バナナパイ
280円