東京メトロ千代田線の代々木公園駅出口からすぐの路地に「365日」というお店があります。歩みを進めると目に入ってくる看板。扉の向こうには、オレンジの灯りに照らされたパンが、棚にはパン屋の範疇に留まらないアイテムがたくさん並んでいます。

たくさんのパンの中からお店の商品をいくつか選んでもらい、実際に食べてみました。

まずは『ソンプルサン』。

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100%という意味を持つこのパンは、“日本のパン”をイメージしてつくられました。普段パンを食べるとき、わざわざ何かを塗ったり挟んだりよりも、すでにジャムや具で味付けされているものを選んでしまうことが多いのでは。だからこそ、このソンプルサンは何もつけずにこのまま食べられるシンプルな味につくられました。食べる場所によって食感も変わるので、飽きずにパクパク食べてしまいます。

次に『クロッカンショコラ』。

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試作せずに店頭に出したという“365日のチョコレートパン”です。上に乗っているチョコレートの粒はザクザク、チョコレートクリームはとろとろ。パンはさっくりとした歯ざわりなのに口溶けがよい。手のひらサイズのクロッカンショコラはあっという間にふわりと胃の中に消えていきました。

そして『つぶあん』と『白こしあん』の『あんぱん』。

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ぱっと見た外見は一緒ですが、中身は違います。

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中はあんこと生地の間に空洞にあんこのいい香りが溜まっているので、そのままがぶっと食べるとその香りをたっぷり楽しめます。使用されている小豆は北海道のオーガニックもの。その小豆をお店で炊いて、包んでいます(「365日」の食材は、あんこのほかにハムやベーコンも自家製です)。

お店には70種類以上のパンがありますが、使われているパンの生地はひとつひとつ違うとのこと。生地と食材の食感を考えてつくられています。もちろん、つぶあんと白こしあんではあんぱんの生地が異なります。

「うちのパンは全部きれいだと思うんです。雑味がない。身体って食べたものでできているから、何を食べるかってすごい重要なんですよね」

そう話すのは、「365日」のオーナー杉窪章匡さんです。

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パンをいただきながらお店や商品にまつわるお話をたっぷりお聞きました……と言いたいところですが、本当はちょっと違います。気付いたら、日本の働き方や未来に向けてどう行動するか、など想定よりも大きなテーマで話をしていました。

杉窪さんがどんなことを考えて仕事をしてきたのか、どういう姿勢で向き合ってきたのか。そんなお話を伺いました。

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お給料のすべては勉強に使う。世界一のために決めたこと

はじめに、どうしてパン屋になろうと思ったのか教えてもらえますか?

杉窪僕、パン屋になったつもりはあまりないんです。基本的には線引きがないっていう状態。個人的に今は「それ専属」という時代ではないと思っています。例えば、サッカーでも一人の選手が複数のポジションをこなしていたり、テレビのディレクターさんが一人でカメラを持って取材してたりしますよね。要するに、一人で何役もできないといけないっていう思いがもともとあるんです。

その中で、自分が何かをつくって提供する立場になったときに添加物が入っているものをつくるのは抵抗がある。そう考えて、まずはパンを選びました。

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そうなんですね。そもそも飲食業に携わり出したのはいつからなんですか?

杉窪15歳のころですね。「世界一のお店にする」と行動し始めたのは20歳になってからです。そのころには、パティスリーで世界一を目指していました。でもパリのパティスリーを見るとお菓子もお惣菜もパンもある。それを日本でパティスリーをするなら、お菓子づくりも料理も全部できるようにならなきゃって思ったんです。

それで一人で何役も、ということなんですね。

杉窪そうです。ハタチのときから世界一になるためのトレーニングとして、稼いだお金はすべて食べ歩きと料理書につぎ込むことにしています。そう決めた当時は、朝7時から夜10時まで働いたあとに夜帰ってきてテレビのニュースを見てごはんを食べてお風呂に入って、それから1時間は本で勉強する生活をしていました。今では部屋の壁一面、全部本棚で料理書で埋まっています。

食べ歩きも欠かさず休みの日は少なくても3件くらい、多いときは20件以上。そういう生活をずっと送っていました。

ストイックできつそうだなと思ってしまいました。

杉窪だから暗示を2つかけていて。「俺天才」と「俺オタク」という。オタクだと勉強も練習も食べ歩きも、全部楽しいんですよ。苦じゃなくなるんです。もし食べに行ったお店がおいしくなくても、そこから勉強することもたくさんありますから。

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求められたことに応える、解決する。それが仕事

お店をしていて、これからやりたいことってありますか?

杉窪うーん……自分のやりたいことをやるっていう考えがそもそもないんです。うちの実家は輪島塗の職人家系なんですが、世間が思う職人と僕の思う職人がちょっと違うんですよ。例えば、椅子職人さんが椅子をつくるのは自分がつくりたいからでしょうか?

違うかな、と思います。

杉窪僕は、誰かにオーダーされたからつくるんだと思うんです。オーダーに対して職人さんの経験やセンスで、頼まれたものよりちょっといいものに仕上げてお渡しする。それが職人さんが当たり前としてやっている形なんですよね。だからお客さんが望んでいるものをつくる。それだけです。

求められるものを、つくる。

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杉窪僕がちょっと違うと思うのが、日本の「好きなことを仕事にする」傾向です。突き詰めていくと「賃金と労働」は単に交換するもののはずなのに、どうしてそこに「好きかどうか」を加えちゃうんだろうって。飲食業界にブラック労働が多いのは「好き」に頼っているからだと思うんです。「お菓子が好きなら長時間働け」みたいに。

まさに、“好き”の搾取ですね。

杉窪そう。それって問題ですよね。僕、基本的には問題を見つけたらスルーをしない性格なので、解決しない限りは進めない。進みたくないんですよね。保育園のときからこういう性格。

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杉窪僕は仕事とは問題解決だと考えています。問題というものは解決すれば良くなるけれど、放置していたら良くならないですよね。だから問題を放置している人は仕事しているかというとそうじゃない。見て見ぬふりをしてパソコン入力しているなら、ただパンをつくっているだけなら、それは仕事じゃなくて作業ですよね。

これは、どんなに小さいことから経営まで言えること。経営は問題解決で、売上が上がるのは問題解決をしていっているからです。

未来への投資を回収できるかは自分次第

話を聞いていると、経営者としての視点も鋭いと思いました。そういうビジネス面の感覚はどこで身につけたのでしょう。

杉窪24歳からシェフとして責任を負うポジションを担ってきたので、身についているんじゃないかな。

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本で学ぶことはなかったんでしょうか。

杉窪ないですね。人の受け売りだと響かないでしょう。だから自分で研究するんです。流行ってるものがあるとすれば、論文を書くくらいにそれを分析する。

ヒト・モノ・カネがあるところはいろいろ発展しているんですよね。プロスポーツだったりエンターテイメント然り。それを見て、この人たちは何をやっているんだろう、どうして流行るんだろう、って学ぶんです。それで自分たちの業界に落とし込むとどうなるんだろうと考える。

 普段から「どうしてだろう」と考えることが多いんですね。

杉窪このお店も無一文から始めているわけです。無一文ってことは、ヒト・モノ・カネがない状態ですよね。もし同じことをするなら、ヒト・モノ・カネをかけたほうが早くできるじゃないですか。でもそれだけだと、ずっと大手に勝てない。

だから僕は唯一平等に与えられている“時間”で勝負するわけです。時間だけはみんな平等に与えられている。そう言うと、人は徹夜をしたり睡眠時間を削ったりする。けど、そうじゃなくて僕は未来予測をして準備に時間をかけるんです。だからさっき話したハタチのときの話で「ニュースを見ていた」って言ったでしょ。これは未来に対する投資なんです。

未来に対する投資。

杉窪そう。ニュースを見て、世の中の勉強をしてきたんです。世の中の動きや今後どうなっていくか、そういうことを学び続けている。

よく「そんなことやったら損する」と言う人がいるけれど、それが投資なのか無駄遣いなのかは自分に還元する力があるかどうかの差だと思うんです。人にはどんなに無駄遣いに見えても、遠くにあるリターンをちゃんと自分に引き寄せる力があるか。すぐそこの小さな利益を求めてばかりじゃ、そこで終わっちゃうんです。慌てる乞食は貰いが少ない、なんです。

世界が平和になるように、自分のやるべきことをやる

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その問題解決をしていった先で、お店がどうなっていたらいいなどありますか。

杉窪僕の最終目的は「世界平和」です。子どもに見せて自慢ができるような仕事をみんなが持っていれば、世界平和になると思うんです。

もちろん、僕が全部のことに携わって世界平和をしていく必要はない。各々がそれをやっていけば達成することなので、僕は自分のやるべきことをちゃんとやるって感覚ですね。

後の世代に何か残したいもの、はありますか。

杉窪“人”ですね。そういう世界平和に続く良い人材を輩出する。その人たちが地元に行って同じようなことをしてくれたら、世界平和がぐっと早まりますよね。そうして僕が年を取っても素晴らしい人材が増えていったら、僕は安泰です。

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「なんでも聞いてください。なんでも全力で答えますから」

その言葉通り、杉窪さんは真摯に、時に例え話を混ぜながら、わかりやすく話をしてくれました。

それに誘発されるかのように、わたしはなかったことにしていた違和感をいくつか思い出し、質問を投げかけていたのです。途中取材であることを何度か忘れていました。

それは杉窪さんに「どうして」を問う力があって、それに向き合う姿勢がとても真剣だからなのだと、わたしは思います。こういう大人が近くにいたら、救われる人はたくさんいるんだろうな。そんなことを思いながら、お店を後にしました。

※商品はすべて税抜き

SHOP INFOMATION

NAME 365日
URL https://www.facebook.com/365joursTokyo/
ADDRESS 東京都渋谷区富ヶ谷1-6-12
TEL 03-6804-7357
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