野菜の魅力の再発見をきっかけに、デザイナーからお菓子の世界へ進出

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花崎さんは、本職はグラフィックデザイナーでいらっしゃるとか。

花崎そうなんです。今から10年くらい前、野菜の懐石料理をお出しするお店のグラフィックデザインを担当させていただいたときに、そのお店の「野菜寿司」というメニューに衝撃を受けまして。見てもおいしい、食べてもおいしい、上品でユニークで、なんてすばらしいものなんだ!と感動したんです。それをきっかけに、それまで特に思い入れのなかった「野菜」というものに興味を持つようになりました。野菜は、色もカタチも実にバリエーション豊富だし、アイデア次第で味だけじゃなく視覚的に絶対面白いものをつくれるはずだ!って。

すごい! 運命の出会いですね。

花崎アイデアはすぐにまとまり、野菜を使った和スイーツブランドの企画を立てて進めていたのですが、2008年のリーマンショックの影響もあり、なかなか実現に移せませんでした。5年くらい寝かした結果、物件などいろんな御縁があり、2012年4月に晴れてオープンとなりました。

それにしても、とても思い切ったチャレンジですよね。

花崎まったくの素人ですからかなり大変ではありましたが、やりがいのある挑戦でした。私はもともと食べ歩くことは好きなので、あちこちのお店に行っては「ここは、もう少しこういう味のほうがいいんじゃないか」「これは、こういう組み合わせのほうがおいしいのに」なんて勝手なことを思っていたのですが、いまも根本にある考え方は同じです。

「麻布野菜菓子」の商品開発は、全部「あったらいいな」というシンプルな考えで好き勝手に遊んでいるようなところがあるんです。

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野菜の色と形をできるだけ生かして、ビジュアルの美しさも追求

「野菜最中」、「野菜のフィナンシェ」など、とてもユニークで美しいお菓子が並んでいますが、この発想はどのように生まれたのでしょうか。

花崎私がもともとデザイナーというのもあり、お菓子を考えるときは、「味はさることながら見た目も重要」なんです。たとえば、一番最初につくったお菓子はミニトマトやほおずき、茄子がごろりと入った「野菜のゼリー」ですが、こちらは、野菜の面白さを目に見える形で表現しつつ、そのままスイーツにした商品です。お値段も一瓶720円と高めですが、うちのブランドを象徴する商品として大切にしています。

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「野菜」が主役のお菓子ですが、素材選びについてのこだわりはありますか?

花崎野菜にはこだわりがない、と言うと語弊があるのですが、オーガニックや契約農家、産地などにこだわるのではなく、その時一番おいしい旬の産地のもの、みなさんが行かれるスーパーで手に入るような、当たり前に売っているものを使っています。スーパーに並ぶ茄子やかぼちゃなど、誰にでも手に入る野菜が、こんな風に姿を変えてすばらしい和スイーツになるなんて! という驚きを楽しんでもらえたらうれしいです。

「野菜の羊羹」や「野菜のフィナンシェ」も、本当に美しく色鮮やかですよね。上品でシンプルモダンなパッケージや包装が、またその商品の美しさを引き立てていて。

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野菜の羊羹
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シンプルで美しいパッケージデザイン

花崎お菓子のデザインはもちろんですが、そのパッケージからグラフィック全般、内装のイメージなども、すべて自分で手がけています。ひとつの世界観を自分だけのアイデアでつくり上げられるのはとても楽しいですね。しかも、外注する費用もかからないので一石二鳥です(笑)。

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「麻布野菜菓子」のブランドマークをかたどった照明は、知人のインテリアデザイナーのアドバイスを元に花崎さんがデザインしたもの

上に野菜のスライスを載せるという新発想! 試行錯誤を重ねた「野菜最中」

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人気商品「野菜最中」について教えてください。見た目のインパクトがすごいですね!

花崎これもまずはデザイン発想の商品です。皮が白いのも、野菜の彩りを引き立てるため。私は最中があまり好きではなかったので、最初はラインナップに最中を加えるつもりはなかったんです。でもある日、最中の皮をつくる会社の方がいらっしゃって、話を聞くうちにこの野菜を載せたアイデアを思いつき、つくってみたんです。

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薩摩芋、黒胡麻、蓮根という素材の組み合わせも面白いですね。上にのっている野菜のスライスがとてもかわいいです。

花崎この野菜のスライスは、本当に苦労したところなんです。野菜のスライスはとても繊細なので、水分量や厚さを何度も変えて試し、試行錯誤の末、何とか完成にこぎ着けました。こちらは、召し上がる直前に皮とあんを合わせるタイプです。よろしければどうぞ。

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皮がさくさくと香ばしく、クリーミーな野菜あんがまろやかでほんとうにおいしいです。さつまいもあんは角切りの薩摩芋入りで、ホクホクとしていてほんのり甘く、黒胡麻は白あんとごまの相性が抜群です。蓮根あんは、刻んだ蓮根が入っているのですね。それに、上に乗っている野菜のスライス自体の香ばしい味もしっかり感じられることに驚きました! 飾りではなくて、きちんと味を構成する一部なんですね。

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花崎ありがとうございます。スライスの野菜はしっかりとした歯ごたえがあって、とってもおいしいですよね。自分でもすごく気に入っています。直前にはさむことで皮の新鮮なパリパリ感を楽しめますし、野菜あんもフレッシュなおいしさをキープできるんです。

分からないから、見えることがある。大切にしているのは素人目線の自由な発想

先ほど、ご自身はお菓子の素人だとおっしゃっていましたが、具体的にどのように勉強されていったのでしょうか?

花崎まったくの独学です。私は専門的なことはほとんどなにも知らなくて、プロには絶対にかなわないぶん、自分が大切にしているのは「素人目線の自由な発想」。

プロじゃないからこそ、おいしくするためにあんこにクリームやバターを隠し味で入れたりと、和菓子の世界では歓迎されないかもしれないアレンジも躊躇なくできてしまう。そういうわけで、うちのお菓子を「和菓子」と分類することには違和感がありまして……。だからあえて「野菜菓子」と呼んでいるんです。

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それは、常にお客さんと同じ目線を大切にするということですか。

人は経験を積むと、つくり手の立場になってしまい、つくり手の目線で考えるようになってしまいます。でも、わたしはいつまでも消費者目線で商品に向き合いたい。

うちの商品は量産型のギフトが中心なので、生産は工場にお願いしているのですが、さきほどの「野菜最中」のように、職人に「いや、それは無理ですよ」と突き返されるようなお願いばかりしてしまうんです。でも、「とにかく一度やってみてください!」と頼むと、「やってみたら、何とかできました」となることも多い(笑)。お菓子づくりは、いつも固定観念への挑戦です。

花崎さんは大きな転身をされましたが、いちばん変わったと思うのはどういうところですか?

花崎デザイナーというのは、クライアントに納品すればゴールなので、最終的に消費者がどのようなことを感じてくださっているのかということが分かりにくかったんです。ですが今のような客商売だと、店にいらっしゃるお客さんと直接お話ができるし、商品の感想もダイレクトに聞くことができる。そのことに大きな喜びを感じています。

今日はありがとうございました! 今後、「麻布野菜菓子」として新しく挑戦したいことはありますか?

花崎いまは席数も少ないのですが、実店舗にはカフェスペースがありまして、夏はアボカドやミニトマトのかき氷、冬はほうれん草やセロリのロールケーキ等のカフェメニューをお出ししていて、とても好評です。アイデアは私やスタッフで出し合うのですが、このアイデアのストックが商品化に追いつかないほどたまっていて(笑)。なので、機会があれば、野菜菓子のカフェメニューを充実させたカフェをぜひ手がけてみたいです。

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■ 商品リスト

「野菜最中」288円

■ 教えてくれた人

花崎年秀さん
グラフィックデザイナーとして活躍後、2012年、南麻布に「麻布野菜菓子」をオープン。2014年に麻布十番に移転。個人的なおすすめは、白あんをベースに野菜を練り込んでラム酒を効かせた食べきりサイズの「野菜羊羹」399円。

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