北欧のコーヒー文化のスタンダードを牽引する、「フグレン」の魅力

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民家の一階を改装してつくられた「フグレン トウキョウ」は、まるでそこだけ日本から切り離された空間であるかのように、さまざまな国から集まったひとで、常に賑わっています。

“フグレン”とは、ノルウェー語で“鳥”のこと。お店のロゴにもなっている“アジサシ”は、世界でもっとも飛行距離の長い渡り鳥です。遠く北欧から、おいしいコーヒーを携えて、日本に渡ってきたお店を、そのままあらわしているかのよう。

コーヒーの消費量が世界でもっとも多い北欧に暮らす人々は、毎日、コーヒーを何杯も飲むのだといいます。本店オスロの「フグレン」でも、朝コーヒーを飲みにきて、昼にもう一度きて、そして夜にはカクテルを楽しみにくるそう。「一日に何杯も飲むから、どっしりしたものよりも口当たりの軽いコーヒーが好まれるよう」なのだと、高橋さんは、コーヒーを手際よくドリップしてくれながら言いました。

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挽いた豆を30秒蒸らしてから、シルバーのドリッパーにお湯を細く注いでいく高橋さん。

「フグレン」について、教えてください。

高橋アメリカでサードウェーブ(コーヒーの生豆を量ではなく質で評価し取引しようとする動き)という文化が少しずつ花開きはじめた頃、首都オスロで急速にコーヒー文化が発展していったノルウェーは、北欧のなかでも特に注目を集めました。

そんなオスロで、1963年から創業をはじめた「フグレン」は、北欧のヴィンテージデザイン、カクテルバーのコンセプトも加わりながら、オスロのコーヒースタンダードを高めてきたのです。

どんな特徴がありますか?

高橋「フグレン」は、最高品質のコーヒーを焙煎する小規模ロースターという一面も持っています。季節ごとの、新鮮でおいしいコーヒーを世界中の農園から、透明性の最も高いルートで購入しています。

表現するのは、甘く、クリーンで、フレッシュな味わいのコーヒーです。スモーキーなロースト香を出さず、コーヒー豆が持つ自然な風味を引き出します。そんな、それぞれのコーヒーの素晴らしい個性を体験してもらえる焙煎方法が、ノルディックスタイルのライトローストです。

ライトローストとは、何ですか?

高橋”浅煎り”、つまりコーヒー豆が本来持つ果実味や花のような甘い香り、透明感のある後味を表現できる焙煎スタイルのことです。

今日淹れてくださったコーヒーも、香り高くすっきりとした後味が印象的でした。これはどんなコーヒーなのでしょうか?

高橋今日のコーヒーは、「ケニア ンダロイニ」です。チェリーやレッドベリーの、弾けるようなジューシーな酸味が特徴。時間が経って冷めてしまっても、嫌な酸味がたたず、やわらかくきれいな味わいであることも特徴です。

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ノルディックローストで、甘みと酸味のバランスがとれた立体的な味わいに

酸味の魅力について、教えてください。

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高橋たとえば、いちごやりんご、オレンジなどのフルーツを食べることを想像してください。ただ甘いだけでなく、そこにそのフルーツ独自の酸味や香りがあってはじめて、それぞれの風味が引き立つ。酸味のあるノルディックローストのコーヒーの魅力は、それと似ています。

いちばん大切なのは、生豆の質です。浅煎りの焙煎でおいしさを最大化することができるのは、品質のいい生豆だけです。「フグレン」が表現したいコーヒーの味は、そのコーヒーが本来持つ素晴らしい個性を感じ取れるコーヒーです。そのために、できる限り浅煎りにします。

高橋さん自身は、どんな味が好みですか?

高橋個人的にはフルーティーで、きれいな味わいが好みです。ひとくちに“酸味”と言っても、“ベリーを噛んだような弾ける酸味”や、“レモンを絞ったような爽快な酸味”というように、多様なバリエーションがあります。ベースには甘みがあって、そこに酸味が加わると、味に立体感が生まれる。つまり、いろんな味の複合でできあがっているコーヒーにとっての酸味の役割に、魅力を感じるんです。

生豆の質が良くなかったり、保存状態が悪かったりすると、とがっていたり不快な酸味を感じてしまうこともあります。ですが、フグレンで扱っているコーヒーからは、甘さによって支えられた、まるでフルーツのような酸味を感じることができます。ぜひ試してみてほしいです。

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最初から、そんな風に酸味に興味を持っていたんですか?

高橋ここで働きはじめる前は、「フグレン トウキョウ」のお客さま側だったんです。はじめてここで飲んだコーヒーの感想は、「ナンダコレハ」でした(笑)。おいしいのかどうかわからないけれど、これまでのコーヒーとあきらかに違うということだけはわかった。一瞬でこのような酸味のあるコーヒーの虜になりました。実は、その時飲んだのも本日お出しした「ケニア」の「ニエリ」という地域で生産された「ンドゥンベリ」というコーヒーでした。

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コーヒー豆の持つポテンシャルをそのままに、カップまで落とし込む

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焙煎は、ノルウェーでおこなっているのですか?

高橋実は、3年前に日本での焙煎をスタートしたんです。それまではノルウェーのオスロのいくつかのロースターによって焙煎されたコーヒーを使用していました。しかし、日本で焙煎をはじめたことで、より高いレベルで生豆から抽出されたカップまでのコントロールが利くようになったんです。

また、焙煎されてから抽出に使用するまでの期間をエイジングというのですが、このエイジングの管理もより高い精度で行うことができるようになったことも、メリットです。

意識として変わったのは、“農作物としてのコーヒーのポテンシャル”に、よりフォーカスするようになったこと。農作物としてコーヒーが本来持っているポテンシャル以外のものは、どのように焙煎や抽出を行ったとしてもカップに表現することができません。生豆の品質に対して、なるべく引き算をしないようにすることが大切だと思っています。

質の高い豆、そして環境にあった焙煎。最後のステップである抽出方法に関しては、いかがでしょう?

高橋生豆のポテンシャルが高ければ、抽出に関しては、それをなるべく引き算しないようにカップに抽出したいと考えています。だから、お店では、シンプルで一貫したスタイルを採用しています。

「フグレン トウキョウ」では、“〇〇さんが淹れたから、おいしい”というのではなく、“だれが淹れても常に安定したもの”を提供しています。そのかわり、それぞれの豆に対して、“お店として出したいおいしさ”についてのディスカッションは欠かしません。

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お店として出したい味と、個人的に好きな味。その線引きが難しそうです。

高橋自分の“すき”と、お店としての“おいしい”には、明確な線引きをしています。自分の“すき・きらい”はもちろんありますが、バリスタとして立つ以上、お店として目指すテイストの方向性に対して、“良い・悪い”で判断を下すようにしています。そうすることでブレないおいしさが提供できるのです。

1杯の向こうに広がるストーリーを、味わう

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はるばる北欧からやってきたこの日本で、「フグレン」はオスロのコーヒースタンダードをどのように伝えていきたいと思っていますか?

高橋ノルウェーでは昔から、多くの人が毎日コーヒーを飲んでいたし、それは彼らにとって、いわば生活の一部。だから、ノルウェーで長い年月をかけて培われてきたコーヒーの文化を、日本にそのまま持ち込めるかというと、それは簡単なことではありません。僕らができるのは、高品質なコーヒーを、その背景やストーリーといった情報と一緒に伝えること。そうすることで、日本でもスペシャルティコーヒーを本質的に根付かせていけたらと考えています。

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この日いただいたコーヒーは、「ンダロイニ」というファクトリーの名前から命名されたもの。「ンダロイニ」は、ケニアの中でもすぐれた風味をもつコーヒーを多く生産することで有名な「ニエリ」という地域にあるファクトリーです。「ンダロイニ」には、周辺の約900の小規模農家から、それぞれの農園で採れたコーヒーチェリーが運ばれます。そういった遠く離れた異国の風景にまで想いを馳せながらコーヒーを飲んでもらえるよう、「フグレン」のバリスタは、お客さまとコーヒーを通してコミュニケーションをとることも忘れません。

“ただ、コーヒーを淹れる”ではなく、そのストーリーや背景まで、一杯のカップに落とし込むこと。それが、「フグレン トウキョウ」が日本に培おうとしている、新しいコーヒー文化なのです。

■ 商品リスト

「Kalita Wave」620円 「Today’s Coffee」360円 他

■ 教えてくれた人

高橋圭也さん
「フグレン トウキョウ」のバリスタ。お客としてはじめて飲んだ「ケニア」に衝撃を受け、「フグレン トウキョウ」で働きはじめた。コーヒーと一緒に何かを食べることは少ないものの、お店の「シナモンロール」とミルク系のドリンクとの相性が抜群にいいのだと、教えてくれました。

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