オクシモロン。
撞着語法(どうちゃくごほう)とも言われる、修辞技法のひとつ。反対の意味の語を組み合わせることにより、奥行きのある印象を生み出す語法のこと。
聞き慣れない言葉だけど、声に出すと親しみある日本語のような。そんな『オクシモロン』の名を持つお店は、鎌倉を拠点にしたカレーと甘いものと雑貨のお店です。
カレーと甘いもの。
一見相反する食べ物ですがオクシモロンではカレーも甘いものも人気で、そのどちらもを求めて神奈川と東京、大阪に4店舗あるオクシモロンにはひっきりなしにお客さまが訪れます。
定番のお菓子はカスタードプリン、レモンケーキ、そしてチーズケーキ。季節に合わせたデザートも並びます。わたしたちが訪れたオクシモロン オナリ店は、特にお菓子をゆっくり食べに訪れる人が多いのだそう。
カレーのお店でありながらお菓子も魅力的なオクシモロンをもっと知りたくて、お話を伺ったのはオクシモロンのシェフでディレクターの村上愛子さんです。村上さんは、お店の、そしてわたしたちの周りにも”オクシモロン”は隠れているのだと話してくれました。
カレーと甘いもの。異なる食べ物のお店ができるまで
まず”オクシモロン”という言葉、すごく素敵だと思いました。どのようにお店の名前は決まったのですか?
村上さん(以下、村上)お店の名前を決めるときに、友人が提案してくれたんです。お店で提供するカレーとお菓子もそうだけど、「寛容なこだわりを持って」とか「真剣な遊び心」とか、矛盾するような表現を使いながら含みを持つ言葉のイメージがお店のキーワードなのかなって感じたんです。そのときに「”オクシモロン”しかない!」と決めました。
始めからカレーとお菓子を提供することが決まっていたんですね。
村上 決めていました。わたしはもともと二子玉川でカレー屋を営んでいたんです。そのときに、今の会社であるカフーツの営むお店「リゼッタ」や「リネンバード」とご近所さんで、ケータリングやカフェの立ち上げなどのお手伝いをしていました。
あるとき「鎌倉にお店を出せたら素敵だね」なんておしゃべりしていたら、カフーツの社長さんが本当に物件を見つけてきちゃったんです。それが鎌倉の小町通りにある最初のオクシモロン コマチ店。ちょっと奥まった場所にあって、2階で、お店の場所や雰囲気に魅力を感じて、やってみようかなと思ったんです。それが2008年、オクシモロンのはじまりでした。
ひょんなことから、ですね。
村上 そうなんです。それに、コマチ店の物件はわたしの想像よりも広い物件だったからカレーだけじゃなくて、もっとお茶の時間をゆっくり過ごしてもらいたくて、お菓子もお茶も提供するお店にしたんです。
コマチはカレーがメインのお店として始めたのですが、お菓子を食べてくださる方も段々に増えていって、お菓子の数も充実させようと2015年にここ、オナリ店をオープンしました。コマチよりもゆったりした雰囲気のオナリ店では地元の方も多く来てくれますし、男性が一人で食べに来られることもありますよ。
シンプルで飾らないお菓子を、ていねいにつくる
お菓子の定番メニュー3種類は、いつから提供しているのですか?
村上 お店を始めたときからです。古き良き喫茶店の雰囲気が好きで、おいしいコーヒーがあって、カレーがあって、プリンや昔ながらのデザートもある、そんな良さを残した現代版の喫茶店のイメージがありました。それで、スタンダードでシンプルなプリン、レモンケーキ、チーズケーキを提供することにしたんです。
プリンも弾力のある喫茶店をイメージする固めプリンだと感じました。
村上 オクシモロンがオープンした2008年ごろ、世間ではとろとろのプリンの人気が高まっていたんです。だからこそ、固めのプリンを提供することにしようと思ったところはありました。シンプルで昔から愛されているお菓子がいいなと思ったんです。
プリンもレモンケーキもチーズケーキも、お菓子のレシピは2人のパティシエが考えたもので開店当初から大きく変えていません。
材料への強いこだわりはあるんですか?
村上 ……正直、特にないんです。特別な卵を使うとか、牛乳はどこ産にこだわる、とかは特になくて。手に入る良い素材を使う、それだけです。
でも、お菓子をつくるときに温度や時間にこだわったり、バニラビーンズはさやから取り出したものを使うとか、わたしたちは当たり前だと思っているけれど、お菓子をつくるひとつひとつの工程を丁寧に取り組むことは大切にしています。
真剣にお菓子と向き合う姿勢を感じます。
村上 お菓子は特に、ほんのちょっとの違いで全然違う出来上がりになってしまうから。例えば、プリンは食感を狙って焼くことがすごく難しいんです。少し火を入れすぎても、火入れが足りなくても、思っていたものとは全然違う食感になってしまう。本当においしいプリンをつくるのって、本当に難しい。
身近で家庭でもつくれるプリンが、実はすごく難しい。奥深いですね。
村上 これもひとつのオクシモロンです。かんたんだけど、難しい。オクシモロンのような矛盾する2つが同時に存在することは、わたしたちの周りにとても多いんだと感じます。
気づけばそばに、オクシモロン
お店の中にもたくさんある”オクシモロン”は、意図してつくったのか、気づいたらそうなっていたのか、どちらなんですか?
村上 両方かな。いや……うーん、「そうなっていた」のほうが多いかも。
例えばお店のテーマカラーを深いグリーンに決めたのは、いわゆるカフェのかわいいとかほっこりだけではない、力強さのあるお店にしたかった思いがあったからです。
”オクシモロン”の意味を意識してテーマカラーを決めたわけではなかったから、わたしたちの気持ちの中に相反することをしたい欲求があるんだと思います。結果的に「これもオクシモロンだな」と思うようなことが多いですね。
***
カレーと甘いもの。
やさしくて難しいプリン。
飾らないおいしさ。
中性的なカフェ。
素敵なお菓子をきっかけに見つけたのは、矛盾や反対のものを愛する楽しさでした。矛盾は一見正しくないかもしれません。でも矛盾や反対が共存することも、ひとつの真理だとお店からの帰り道に思いました。
強がりな正しさが負担になったとき、シンプルで飾り気のないお菓子を食べるとちょっと気持ちが和らぐかもしれません。例えば、昔ながらの固めのプリンやぎゅっと詰まったケーキなんてどうでしょう。
SHOP INFOMATION
NAME | 【閉店】オクシモロン オナリ |
---|---|
URL | https://www.oxymoron.jp/ |
※他、臨時休業する場合があります