携帯電話にカメラがついたのは、わたしが高校生になったころでした。時間割、バスの時刻表、バイトのシフト表……画像フォルダに残されたものは、どちらかと言うと記録用のものばかり。写真を撮るなら『写ルンです』を使っていたし、何を撮ればいいかわかっていなかったんだと思います。

時代は流れ、2017年。スマートフォンについたカメラを使うのも、スマホで撮った写真を共有するのも当たり前になりました。美しいものや驚いたものに出会った瞬間(ときにはそれをつくり出して)スマホのカメラを起動する。そして共有する。そんなことを日常で行うようになりました。

そんなある日、わたしのInstagramのタイムラインに七色のケーキが現れます。気になったわたしは、スマホに指を滑らせお店の場所やアカウントを探していました。

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このチーズケーキのつくり手は、東急東横線の学芸大学にあるカフェ「AWORKS」(@gakudai.aworks)の店主である船瀬洋一郎さんです。夏の終わり、ケーキとお店のストーリーを伺いました。

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SNSの流れに乗ったレインボーチーズケーキ

カラフルなチーズケーキは、どのように生まれたのでしょう。

船瀬レインボーチーズケーキは、2017年の春から始めました。お店が3周年だったのを機に雰囲気を変えようと、店の壁をすべて真っ白に塗ったんです。その分ケーキを派手にしたらおもしろいかなと思って、始めてみました。

このレインボーとかをやるまでは、素材の色だけでつくるのが自分のポリシーだったんです。ピスタチオのチーズケーキは素材の色を活かしているからいいんですけど。「着色はしない」って決めていたので、スタッフもケーキに色をつけることに最初は大反対でした。

意外です。もっと前のめりに狙っていたのかと思っていました。

船瀬結果として、お客さんがたくさん来てくれるようになったからスタッフとも「よかったね」ってなっているんですけどね。

レインボーをやってみたら、本当にもうみなさん「撮りたい、アップしたい」の気持ちが強いんだなって感じました。SNS、すごいですよね。たくさんお客さんも来てくださるので、今はその流れに乗るのもいいかなと思ってます。

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わたしもタイムラインでレインボーチーズケーキを初めて見て、気になったんです。どんな味がするのかなと思いました。

船瀬「7色だから味も7種類あるのか?」と思われがちですが、実はプレーンなチーズケーキなんです。昆布などの自然のものからできている着色料を使っています。もちろん、ベリーとか素材の色から着色することもできますけど、それだと色によって粘度が違ってくるのであんなふうにきれいに7色を流し込めないんです。

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沖縄で生まれて湘南に揉まれ、学芸大学に流れ着いた

ところで、船瀬さんはどうしてチーズケーキ屋さんを始めたんでしょう?

船瀬10年くらい前まで沖縄でカフェをやっていて、その時の実験的にいろいろな食材ををチーズケーキに練り込んでいたんです。それをお客さんにも出していたら好評で。それからチーズケーキを扱うようになりました。

沖縄!

船瀬もともとは神戸でアパレルをやろうと思っていたんです。実家が兵庫にあったので。そのときカフェをしている友達に相談したら「カフェしながらアパレルやってもいいな」って思ったんです。それでネットで海の見える店舗の物件を探していたら神戸じゃなくて沖縄がヒットしたので、そのまま沖縄に行ってしまいました。

すごい決断力ですね!ちなみに、そのお店はどのくらい続けていたんですか?

船瀬8年くらいかな。このお店を始めてからも少し続けていました。今はここに専念しています。沖縄でお店をやって、まあまあ調子が良かったので湘南の商業施設にも出店したんです。でも、その商業施設が閉店してしまうということで、どうしようかなと。そのときに「東京でやったほうがいい」とお世話になった人が言ってくれて。東京で場所を探して、学芸大学に着いたんです。

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東京の中でも、学芸大学を選んだ理由はなんですか?

船瀬最初はたまたま仲介業者さんが「学芸大学に一軒家があるよ」って紹介してくれたんですよね。それまでは自由が丘とか吉祥寺で探してて、コンクリート打ちっぱなしのスタイリッシュなお店もいいかなって思ってたんです。でもここに来たときに「ここでやりたいな」って直感でピンときた。

この物件の古くて暖かい感じも学芸大学の街の雰囲気も、僕にはこの空気感が合ってたんですよね。

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お向かいの写真屋さんがつくってくれたフォトフロップス

100種類のチーズケーキは思いつきから

チーズケーキはどの味もベースは同じものなんですか?

船瀬そうですね。クリームチーズなどを入れたベースをつくって、そこからそれぞれの味に合わせて少しずつ調整しています。

クリームチーズはかなりこだわって選びました。食べたときにぬるっとするものとか油っぽいと感じるもの……素材によって全然違うんです。その中でもあまり味がしない、油っぽくないものを使っています。ほかのクリームチーズでつくるとこの味は絶対出ない。産地やメーカー名は、内緒です。

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そのベースを元に100種類のケーキがあると伺ったのですが、どのように開発されているんですか?

船瀬それが、思いつきなんです。出かけたときとかに「あ、これチーズケーキに使えるな」と思ったらその夜につくってみて、スタッフに食べてもらって「おいしいね」ってなったら次の日にはお店に出すこともあります。

次の日!

船瀬チーズケーキって、なんでも合わせられると思うんです。食べてみて、違ったなって思うのもありましたけど。何とでも合うのがチーズケーキの魅力ですね。

でも、思いついたものを全部感覚でつくってるんです。だから正確な分量までレシピに全然記録していなくって。スタッフにも「レシピ化してくれ」って言われます。よくケーキって材料1グラムで味が変わるって言うじゃないですか。僕、自分の感覚を信じてつくってしまうタイプで。

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先のことはわからないけど、やりたいことはたくさんある

今後お店をどうしていきたいかなど、思いはありますか?

船瀬今、チーズの資格を取るために教室に通っているんです。まずはその資格を取りたい。そうしたら、レインボーみたいな奇抜なチーズケーキをつくっていても説得力が持てるかなって思って

資格を取ったら、今度は真っ白なチーズケーキをつくりたいんです。見た目はどれも同じで真っ白なんだけども、使うチーズが羊だったりヤギだったりと味や香りが違う、チーズの味をわかってもらえるようなチーズケーキ。真っ白な壁で、真っ白なチーズケーキっておもしろいかなって。

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カラフルとは正反対ですね。

船瀬カラフルと真っ白、両極端ですよね。本当に好きにやっているんです。それに、これからもいろいろやりたいことがあるから、何をどうするかよくわからないくらい。

それと、もっといろんな人に来てほしいですね。チーズに詳しいおっさんも。そのためにも、もう自分でチーズの肩書つくろうかなって思ってます。せっかくならチーズ界隈に爪痕残したいな、って。

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「もう本当に適当にやってきていて、なんとかここにいるっていうのが基本にあるんです」

そう船瀬さんは、何度もあどけなく笑っていました。お店の厨房に立つのは基本的に船瀬さん一人なので、ときには期待に応える数を提供できないこともあるそうです。

「たくさんレインボーを焼いて出すこともできるけど、それに追われて良いもの出せないと意味がないじゃないですか」

申し訳なさそうに、それでもきっぱりと話す姿には、何にも流されない船瀬さんの信念が見えました。

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「こんなに撮られるんだったら岩盤浴行っとけばよかったー!」とおどける船瀬さん。

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