こんにちは。鹿児島在住の、和菓子女子、せせなおこ(@s_nao25)です。
鹿児島の特産品といえば、外せないのが「さつまいも」。さつま、と名前がつく通り鹿児島では多く目にする機会があり、今ではお菓子にもよく用いられます。
そんなさつまいもを、鹿児島の指宿(いぶすき)ではじめてお菓子に使用した鳥越屋を今回紹介します。
市内どこでも1m掘ればお湯が湧き出る、という鹿児島の中でも有名な温泉地、指宿(いぶすき)。
そんな指宿の中心街で大正8年から続く和菓子屋「鳥越屋(とりごえや)」。元気いっぱい、笑顔あふれる代表の鈴木芳乃さんにお話を伺いました。
ねっとりとしたいもあんはさつまいもの素材本来のおいしさを味わえます。代表銘菓「いも丸」について教えてください。
鈴木はい。もともとは「いぶすき路(じ)」という名前で昭和20年代の中盤から後半に祖父が考案しました。とても勉強熱心な祖父で、福岡のお菓子の先生を頼って通いながらお菓子の勉強をしていたそうで。
その熱心さに、先生も鹿児島へ足を運んでくれ、お礼にさつまいもを送ったところ、これはおいしいからぜひお菓子にしたほうがいい!と先生に言われたことがきっかけで、さつまいものお菓子をつくることになったそうです。
「いぶすき路」はどうやってつくられるのでしょうか?
鈴木まずはお芋の仕込みから始まります。旬の時期に約2トンのお芋(約2000個分)を仕入れます。そのお芋を全て手作業で洗い、ある程度の大きさに切ります。そのあと蒸して、冷凍します。
昔は薄切りにしてほしいもにして保管し、それを少しずつあんこにしながらいも丸をつくっていたそうなのですが、技術が発達し、冷凍して保管できるようになりました。
これで、お芋の仕込みは完成です。
鈴木あとは、形にしていきます。一晩寝かせた外側の生地にいもあんを包みます。シナモンをかけたあと、鉄板にのせて焼くという、シンプルなお菓子です。ねっとりとしたさつまいもあん。自然の甘さが口いっぱいに広がります。
地元の素材を使って地元の方々に喜んでもらいたい
鈴木 「いぶすき路」ができた当時、戦時中にさつまいもを食べざるを得なかったこともあり、地元の人にとってさつまいもは、家畜の餌、デンプン抽出、焼酎の材料…という扱いだったんです。さつまいもを使ったお菓子で喜ぶ人はいませんでした。
地元の人にとってはそんな認識だったんですが、県外の人にとって鹿児島で取れるさつまいもはおいしかったみたいで。県外の人が評価をしてくれることで自分たちの地域の良さに気づいたんです。
「いぶすき路」は、昭和34年に全国菓子大品評会で総理大臣賞を受賞。それをきっかけにメディアにも取りあげられ話題になりました。
それから、地元の方にも浸透していき、売上も少しずつ大きくなっていったそう。そして、2年前の店舗リニューアル時に名前を「いも丸」に変更。お土産にできるよう小ぶりなサイズも展開するようになりました。
鈴木地元ではさつまいもに対しての評価が低かったのですが、さつまいもがあったからこそ、鹿児島は食べ物に困らずに、飢餓にも苦しまなかった。だから、やはり地域にあるおいしい素材を使って地域の人に還元していきたいと思っています。
他の商品も、鹿児島の郷土菓子や地元で取れる食材を使ったものが多く並びます。例えば「そら豆どら焼き」。中のあんこは指宿の特産である、そら豆を使っています。
鈴木指宿にあるお菓子屋さん全体で、特産品である「そら豆」を使ったお菓子づくりに取り組んでいます。そら豆どらやきは一口サイズでお客さまにも驚かれるのですが、通常のどら焼きのサイズにしてしまうと、そら豆のあんこがくどくなってしまうんです。おいしいものでも、ちょうどいい量がある。一番おいしく食べられる、小ぶりなサイズにこだわりました。
指宿へ恩返しがしたい
私、改装前のお店に訪れたことがあります。以前に比べ、店内はとても明るく、新しくテラスやイベントスペースもできました。改装されたきっかけはなんだったのでしょう?
鈴木きっかけは建物が古くなったことです。ただ、リニューアルするとなると、店内の雰囲気を変えていくのか、そもそも、人口が少なくなってきているこの地域で和菓子屋としてこのお店を続けていくのか。お店としては岐路に立たされ、家族会議を開きました。
お店をたたむという選択もあるけれど、それはしたくない、という両親の思いがありました。2017年で98年目を迎え、なんとか100年を迎えたい、家族だけでほそぼそとやってきたけれど、これだけ長い間、この地域で続けてこれた、商売させてきてもらったという感謝の気持ちが出てきたんです。
指宿の地域や、観光客の皆さんへ少しずつでも還元できるように頑張りたいなと思ったんです。
せっかくリニューアルするんだったら、ガラッと雰囲気を変えて、人が集まる空間をつくりたい、と思いました。前は店舗のほうが広かったのですが、店舗分を小さくして、座ったり、食べたりできる場所がほしい。
最初はプライベート空間にしようと思っていた和室も、お客さんがきて、畳でお茶が飲める形にしました。芝居小屋みたい、ということで実際に芝居をしたこともあるんですよ。
鈴木イベントを見た人が「おもしろい、いろんなことできるんだね」と広まり、今ではライブをしたり、落語をしたり。ミュージシャンの方々にも音の響きがいいと喜んでいただきました。
ライブや演劇がここで行われることは予想外でしたが、”人が集まる場所”を目指していたので、結果的にそういう空間になったのでよかったなと思っています。
和菓子屋らしくないね、と言われるのがうれしい
最後に、100年を迎えるにあたって、これからどんな和菓子屋さんを目指していきますか?
鈴木和菓子屋ではないような和菓子屋さん、ですかね。
和菓子屋さんではない…?
鈴木はい。もちろん、根底に和菓子はあります。だけど、和菓子を買わなくても足を運びたくなるようなお店になったらいいなと思っていて。
カフェだったり、イベントだったり。和菓子屋という概念を超えて、「鳥越屋」が地域のコミュニティーの拠点のひとつになればいいなと思います。
そういうイベントを通じて和菓子の発信ができる、和菓子を通じて地域の人とのつながり、観光客とのつながりをつくっていける、そんな場所になればうれしいですね。
取材中にも地元の方々が訪れ、最近の出来事や鳥越屋との思い出話に花が咲いていました。
これからも指宿を盛り上げて、地元の方に愛されるそんな場所であってほしいな、と思います。鈴木さん、ありがとうございました!
SHOP INFOMATION
NAME | 鳥越屋 |
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URL | https://www.facebook.com/torigoeya100/ |
ADDRESS | 鹿児島県指宿市湯の浜4-11-9 |
TEL | 0993-22-3878 | OPEN | 10:00〜19:00 |
CLOSE | - |
※他、臨時休業する場合があります