老舗の和菓子店から一躍転身! 和菓子ユニット「wagashi asobi」ができるまで

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「wagashi asobi」というユニットは、どのようにして生まれたのでしょうか。

稲葉もともと私は老舗の和菓子屋で20年間和菓子職人をやっていたのですが、休日を利用して、お茶会やアーティストとのコラボレーション、老人ホームのボランティアなど、和菓子を使った自由な活動を楽しんでいたんです。もちろん本職がありますから、和菓子のお代はいただきません。プロのつくる和菓子を無料で食べられるというので、けっこうな評判になってきたんですね。

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浅野さん(左)、稲葉さん(右)

お聞きするだけでも楽しそうでわくわくしますね。

稲葉活動と本業は分けて考えていたので、長らく肩書がなかったのですが、個人名だけというのも社会的になかなか居心地が悪いものがありまして。「和菓子遊びをしている稲葉」と紹介されることが多かったので、それならそれをそのまま活動名にしてしまおうと、「wagashi asobiの稲葉です」と名乗りはじめて、「wagashi asobi」というユニット名ができました。その後、浅野にも声をかけて、ユニットに入ってもらったんです。

とてもユニークで、けれども自然な発想のネーミングですね。独立されたきっかけはなんだったのでしょうか。

浅野「wagashi asobi」の規模がどんどん大きくなっていき、年間100くらいのイベントをやるようになり、雑誌の連載もするようになったんです。これ以上は、会社に籍をおいたまま好き勝手やるわけにはいかないのではないかと、退職を決心するに至りました。

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浅野さん(左)、稲葉さん(右)

年間100回……つまり、3日に1度のペースというのは、すごいですね。しかも無償の活動で。

稲葉浅野とふたりでそれぞれが自由に活動する形で、2011年に「wagashi asobi」として独立しました。独立した瞬間、百貨店の催事に声をかけていただき、ありがたいことに目の回るような忙しさで、当時は余韻に浸る余裕もなかったのですね。

販売商品は、ふたつだけ。目指すは、地元の手土産屋さん!

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店内。奥が「ドライフルーツの羊羹」、手前が「ハーブのらくがん」。

改めて、「wagashi asobi」のコンセプトについて教えていただけますか。

稲葉それぞれが活動するスタンスなので、商品も、それぞれの自信作をひとつずつ出そうということになりました。「ドライフルーツの羊羹」は浅野の自信作で、私の自信作は「ハーブのらくがん」です。

ここ、上池台は私の出身地なのですが、地元の銘菓と言えるものが今までなかったんです。自分たちの和菓子が地元のおいしい手土産として認知されれば、こんなに嬉しいことはないのではと考えました。

商品を2種類だけに絞っているのはなぜですか?

稲葉新商品の開発に時間や予算を割くよりは、自信をもっておすすめできるこの2つをどんどんブラッシュアップしていきたいと考えたからです。あとは、一度食べたらもう終わりではなく、2回目、3回目と買いに来ていただけるような魅力ある和菓子づくりを大切にしたいんです。

どれもとてもシンプルですが、そのスタンスを貫くのはなかなか難しいことのように思えます。

浅野「wagashi asobi」は小規模ですし、予算も、やれることも限られています。自分たちのできる「せいぜい」を見極めて、欲張らず、やりたいことを優先順位ごとにやっていこう、という考え方なんです。

まずは、自分たちの自信作をしっかりと極めて発信し続けること。大量生産はせず、手間をかけて丁寧につくった和菓子を、お客さまの顔を見ながら販売すること。そして、地元のみなさまに愛されるお店であること。そこを活動の柱にしています。

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稲葉さん

「パンに合う和菓子」という新発想。「ドライフルーツの羊羹」が奏でるハーモニー

ここからは、浅野さんの自信作「ドライフルーツの羊羹」について伺いたいと思います。ドライフルーツと羊羹の組み合わせがとてもユニークですね。

浅野元々は、アーティストの友人に「パンに合う和菓子をつくって」とオーダーされたのが最初です。パンと和菓子というのは、意外に思えるかもしれませんが、パンに合う和の食材はたくさんあるんですよ。

「あん」は、もちろんあんパンがありますから相性抜群です。あとは、黒糖、クルミ、果物など、奇をてらうのではなく、ナチュラルに合うと思うものだけを選んでいきました。イメージは、ドライフルーツを羊羹で繋いだパテやテリーヌのような感じです。

さあどうぞ、めしあがってください! 厚さ1cmほどに切って、一度に口にいれていただくと、一体感が味わっていただけると思います。

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それでは、おすすめの方法で、いただきます……。うん、おいしいです! しっとりとしたあんのなめらかさと、ぷちぷちっとした食感も楽しい。風味豊かなドライフルーツが相性抜群ですね。黒糖のコクやラム酒の香りもあいまって、口の中がすごく幸せなことになっています……。

浅野ありがとうございます。ぜひまた、パンに載せたスタイルでも食べてみてください。パンとバターももちろん合いますが、クラッカーにクリームチーズやマスカルポーネを厚めに載せて、その上に羊羹を載せて食べるのも、本当においしいですよ。

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浅野さん

聞いているだけでよだれが出そうです……。ワインにも合いそうですね。素材はどのようなものを使っていますか?

浅野小豆は北海道産です。きめの細かいこしあんが、なめらかな食感をつくりだしています。黒糖は、沖縄県西表島の豊かな水と自然で育ったサトウキビを使ったもの。イチジクは、実が大きくやわらかなトルコ産を使っています。

味はもちろんですが、この美しい断面にもうっとりしてしまいますね。

浅野ありがとうございます! ドライフルーツの断面が、羊羹の切り口に抽象画のように現われたら素敵だなと思ってデザインしています。イチジクのつぶつぶ感やクルミのジオメトリックな断面、いちごの赤い色も、小宇宙のようでとても美しいですよね。

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評判はいかがですか?

浅野「ドライフルーツの羊羹」は、和菓子を無料でお出ししていた会社員時代からつくっていたのですが、当時「いくらでも出すから売ってほしい!」と言ってくださるお客さまがいらっしゃって。その言葉がとてもうれしく励みになりました。晴れて代表商品となった今では、何度もリピートしてくださる方も多く、メディアでも多く取り上げていただいています。

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NY時代の経験から生まれた新感覚の「ハーブのらくがん」

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もうひとつの商品である、稲葉さんの自信作の「ハーブのらくがん」について聞かせてください。

稲葉私がニューヨークでグリルドチキンを食べたときに、上にローズマリーが乗っていたんです。それがとても良い香りで、ローズマリーで和菓子をつくったらおいしいのでは? と思いついたことがきっかけです。いろんな素材で試作をしたのですが、らくがんと合わせたときがいちばんおいしかったんです。

たしかに、ハーブのさわやかな香りが口のなかに広がって、なんともいえないフレッシュなおいしさですね。らくがんの固定観念が吹き飛ぶような体験です。デザインもとてもかわいらしいですね。

稲葉ありがとうございます。この型は、実はチョコレート用の型なんです。独立する前、身近にあったプラスチックの型を使ったときの名残なのですが、この「見立ての発想」が自分たちらしくて気に入っていることもあり、今でもこのまま利用しています。

種類もいろいろあって、迷ってしまいます。

稲葉ローズマリーのらくがんが最初にできたもので、その後はアロマテラピーの先生からアドバイスをいただき、カモミールやハイビスカスもつくりました。あとは夏の梅干し、冬のゆずなど、季節のフレーバーもお出ししています。

和菓子の役割は「心を伝えること」。これからも、自由な発想で遊び続けたい

ほかにはどんなお仕事をされているのでしょうか。

稲葉一流ブランドなどから声をかけていただき、イベントなどに使う創作和菓子をおつくりすることも多いです。私たちを見つけてくださって、ありがたく思います。

一度きりのオーダー創作和菓子のお仕事は、どのような心持ちで臨んでいらっしゃるのでしょう。

浅野生みの苦しみも人一倍大きいですが、やりがいのあるお仕事です。催事やイベントのお声がかかると、毎回、「どういう人が集まるのか」「もてなす方の出身地」「季節」「会場の環境」などのインタビューをした上で、緻密にイメージをつくり上げていきます。大切にしているのは、やはり柔軟な発想と遊び心ですね。

おふたりのお話を聞いていると、どんどん頭がやわらかくなっていくような気がします。

稲葉私たちは、あん=和菓子だとは思っていないんです。「和菓子」という言葉も明治維新以降につけられた便宜的なものであって、日本のものだから和菓子だ、外国のものだから和菓子じゃない、というようなことでもない。『和菓子』のいちばん大切な役割は、「心を伝える」ということなんです。

梅が咲き出す前から、梅の形の和菓子を食べて梅に想いを馳せたり、子どもの日に無病息災を願ってちまきを食べたり、お詫びの品として和菓子を贈ったり、お客さまを羊羹でおもてなししたり。和菓子には、いつも何らかのメッセージがこめられているんです。

確かに、和菓子の美しい色や形も、和菓子をいただく季節も、贈ったり贈られたりする関係性にも、すべてに「心」が感じられますね。

稲葉だから、「あんだから和菓子だ」「クリームだから洋菓子だ」ということではなくて、たとえば、ピエール・エルメが「ピスタチオのエクレアを食べると初夏のシャンゼリゼ通りを思い出すんだ」と言ったとすれば、そのピスタチオのエクレアが『和菓子』だと思うんですよ。

抹茶を使えば和菓子風になるわけじゃなくて、大切なのは、そこに込められたメッセージなんですね。

稲葉情報も時代もどんどん変化している今、私たちも、和菓子を変えるのではなく、和菓子でいま何ができるかを考えていきたい。今の時代に生きる人が喜ぶものを、和菓子職人が一生懸命つくる。それが自分たちにとっての和菓子なのではないか思っています。

今日は素敵なお話をありがとうございました。これから「wagashi asobi」として目指したいことはありますか?

浅野こんなことを言うと小さな夢かと思われるかもしれませんが、いちばんは「現状維持」です。この人通りの少ない商店街で、地道に、心を込めて丁寧につくった和菓子をコンスタントに売り続けたい。地味ですが、とても難しいことだと感じています。

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過去に企業からのオーダーで創作したらくがんの型。ハイジュエリーブランド「ヴァンクリーフ&アーペル」や文房具ブランド「モンブラン」など、錚々たるブランドのものが並ぶ。

■ 商品リスト

「ドライフルーツの羊羹」2160円
「ハーブのらくがん」1種4粒入り360円

■ 教えてくれた人

稲葉基大さん
浅野理生さん
「一瞬一粒(ひとつひとつ)に想いを込めてつくる。」を理念を活動するユニット「wagashi asobi」のメンバー。大田区上池台のアトリエを拠点に、首都圏を中心に国内だけでなくNYの展覧会参加やParisで茶会を開催するなど、海外にも活動の和を広げている。

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wagashi asobiのメンバー。左から成田翼さん、浅野理生さん、境野敦士さん、稲葉基大さん