老舗和菓子店「空也」5代目が、新ブランド「空いろ」を立ち上げるまで

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ずらりと並んだ「空いろ」の商品は、つぶあんをサンドしたクッキーやかわいらしいどら焼き、ジャムみたいなあんこの瓶詰めなど、新鮮なものばかりですね! ビジュアルも本当におしゃれで愛らしく、見ていてわくわくします。

山口ありがとうございます。本店「空也」の持つあんこへのこだわりは大切にしながらも、現代的なアレンジや遊び心を大切にしています。

山口さんは、銀座の老舗和菓子店「空也」の5代目でいらっしゃいます。「空也」といえば、予約で売り切れる最中がたいへん人気ですが、1884年創業という歴史を持つ名店のご子息として育った山口さんが、新ブランド「空いろ」を立ち上げた思いについて聞かせてください。

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空いろ TOKYO Me+(トウキョウミタス)店

山口根本にあるのは、和菓子の原点であるあんこを、斬新な切り口で世界に広げていきたいという気持ちです。和の食のなかでも、寿司、そば、うどんなどに比べるとあんこは浸透度がまだまだ低く、あまり海外で定着していないというのが現状です。また、国内でも2000年ごろから続く洋菓子ブームの影響で、和菓子の人気が低迷しているのを感じます。2010年の和菓子イベントのアンケート結果では、今までに羊羹を一度も食べたことのないお客さまが40%もいたという結果が出ています。

その数字は衝撃的ですね。

山口和菓子屋としては、かなり危機感を覚える数字でした。海外を目指す前にまずは国内からなんとかしなければいけない、もっと和菓子に目を向けていただけるよう、なんらかのアプローチを起こさないといけない。そんな思いで立ち上げたブランドが「空いろ」なんです。

「空いろ」と「空也」は、どのような関係にありますか?

山口「空いろ」は、「空也」の精神は引き継いでいますが、「空也」とは異なるまったく新しいブランドです。「空也」は130年以上の歴史を持つ由緒あるブランドであり、先代から代々築き上げてきた伝統もある。だからこそ、自分発信で新しいプロジェクトをゼロからスタートさせるならば「空也」の下でやるのはナンセンスだと思いました。

「空也」の5代目である自分が、その伝統に手を加えたり、安易に崩したりしてはいけない。空也から学んだ和菓子への思いは継承しつつも、まったく違うものとして始めるべきだと思いました。

商品づくりの枠を広げた「あんこは豆のジャム」という新発想

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改めて、「空いろ」というブランド名はとても素敵ですね。「空也」の「空」という字を引き継ぎつつも、現代的なイメージも広がります。「たいよう」「つき」「ほし」などの詩的な商品名にも、「空いろ」というブランド名とのつながりが感じられて想像力がふくらみます。

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山口ありがとうございます。和菓子づくりにおける「空也」の哲学を引き継ぎつつも、新しい感覚で現代的に色づけしたブランドを目指してこのような世界観に仕上げました。ブランドのコンセプトは「あんこは豆のジャム」です。

「あんこ」と「ジャム」という言葉の組み合わせが斬新です。コンセプトについて詳しく教えていただけますか。

山口ヨーロッパや中南米では、豆は主食として食べられていることが多く、日本のように砂糖で味付けをする文化に抵抗を感じる方が多いのが現実です。けれど、あんこって、おいしいですよね(笑)。

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はい、おいしいです! きっかけさえあれば、海外の方にも大いに共感していただけるおいしさだと思うのですが……。

山口ありがとうございます。だからこそ、分かりやすいコンセプトで、新しい角度からあんこの可能性を提案できればと思いました。「あんこは和菓子の材料」という固定観念を取り払い、改めてあんこというものと向き合いました。

そして、「豆に砂糖を加えてあんこをつくるのだから、あんこを豆のジャムだと考えればもっといろんな可能性が生まれるのではないか?」という考えに至りました。そこからイメージをふくらませて、いろいろな商品を開発していきました。

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しっとり食感は偶然の産物だった? 和と洋の枠を超える人気商品「つき」のおいしさ

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つぶあんを丸いクッキーでサンドした「つき」。「写真はつぶ(プレーン)」。1個248円。

「空いろ」の人気商品である「つき」について聞かせてください。あんこをクッキーでサンドするという、和と洋のコンビネーションがとても新鮮です。

山口まさに「つき」は、和菓子と洋菓子の枠を飛びこえた、今までにないお菓子を目指した商品です。そういう意味で、とても「空いろ」らしい商品といえるかもしれません。

クッキー生地がしっとりとしていて、とてもおいしいですね。

山口ありがたいことに、そういうお声を多くいただくのですが、実は、この食感は偶然の産物なんですよ。

最初、クッキーはもっとさくっとした食感に仕上げたつもりだったのですが、あんこをサンドすると、時間の経過とともにあんこの水分がクッキーに移行してしまう。ところがそのしっとり感が逆に「おいしい!」と評判になって。

あんこという食材ならではの、幸運なハプニングですね。

山口水分がクッキーに移行してからもおいしいまま。あんこもおいしい、クッキーもおいしい。それなら、このままでいこう! ということになりました(笑)。

「つき」の賞味期限は、4〜6日ほど。つくりたてで食べるとさくさくした食感があり、2〜3日ほどたってから食べるとクッキー生地とあんこがなじんで、しっとりとした食感が味わえます。

実は、「空也」の最中も2〜3日たってからが食べ頃なのですが、それとまったく同じ感覚です。

賞味期限が長いことも、あんこならではの魅力ですね。時間の経過とともに違うおいしさが楽しめるなんてとても素敵です。

あんは北海道産、砂糖は大ざらめ。材料を吟味して、「空いろ」独自のおいしさを追求

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「つき」に使われているあんこのこだわりについて教えてください。

山口豆はお菓子づくりの軸になるものですから、徹底的に厳選しています。豆は北海道産で、しっかりとした野性味が魅力です。砂糖は粒子の大きな「鬼ざらめ」を使っています。すっきりとした上品な甘さで、小豆の風味を引き立ててくれるんです。

味のバリエーションも魅力的ですね。

山口現在は、生地は「プレーン」と「まっちゃ」の2種類、中身はつぶあんの「つぶ」とつぶ白あんの「つぶ白」の2種類、合計4種類が定番です。それに加えて「りんごあん」や「マンゴーあん」など、期間限定の季節のフレーバーも展開しています。

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実は、国民的人気キャラのおかげ? 世界的に認知度の高いどら焼きを看板商品に

そのほか、山口さんが思い入れのある商品はありますか?

山口「空いろ」を立ち上げて最初に開発した「たいよう」でしょうか。いわゆる「空いろ」オリジナルのどら焼きなのですが、「空也」にはどら焼きがないので、とてもつくりがいがありました。実は、海外の方にいちばん知られているあんこのお菓子がどら焼きなんです。

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そんなに有名なんですか?

山口そうなんです。某国民的キャラクターのおかげで、みなさん、味は知らなくてもビジュアルは知っているんですよ。「DORAYAKI」という言葉もかなり浸透しています。

なるほど! マンガの影響力はすごいですね……。

山口ささやかな興味が入り口になって、どら焼きのおいしさが世界に広がるのはありがたいことですよね。「たいよう」では、豆の粒をほどよくのこした「つぶあん」と、素材を皮ごと漉した「空いろ」独自の「○(まる)あん」を用意しています。おかげさまで海外の方にも好評で、「つき」と並んで「空いろ」の看板商品になっています。

和菓子と洋菓子の垣根を取り払う。新しい挑戦はまだまだ続く

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「空いろ」では、ドリップコーヒーも一緒に販売されていますね。

山口こちらは「しずく」という商品名のオリジナルブレンドのドリップコーヒーです。和菓子やあんこに合うように、さっぱり上品な味わいにこだわりました。意外と、家などで和菓子とコーヒーを一緒に楽しんでいる方っていらっしゃると思うんですよ。和菓子には日本茶、という固定観念を取り払って、もっとカジュアルに、いろんな楽しみ方ができるということを率先して提案できればと思っています。

山口さんのお話を聞いていると、自分の中にあった和菓子に対する思い込みがどんどん溶けていくのを感じます……。

山口最近は、あんこを新鮮な角度からアピールする試みの一貫として、音楽を和菓子とお酒を楽しむDJイベント「アンコマンないと」も主催しているんですよ。

音楽と和菓子というのは、これまた意外な組み合わせですね!

山口銀座の木村屋總本店や松崎煎餅の店主など、和菓子に縁のある同年代の仲間と一緒に始めたのですが、イベントで和菓子をお出しすると、お客さまがとてもおいしそうに食べてくれるんですよ。

普段の仕事ではなかなかお客さまが和菓子を食べる瞬間に立ちあうことがないので、それがとても嬉しくて。「なんだ、みんな和菓子が好きなんだ!」と素直に実感できて、仕事の自信にもつながりました。

「空いろ」を6年間続けてきた今、改めて感じることはありますか?

山口「空いろ」を始めてから、メディアに注目していただく機会も増えましたし、同じような志を持つ同業者の方々との横のつながりも広がりました。ありがたいこともたくさんありますが、ずっと掲げてきた「あんこを世界へ」という理想にはまだまだ遠いというのが実感です。

あんこの魅力をもっとアピールするために、自分がやるべきことはまだまだあると思っています。「空いろ」の商品を通して、「あんこもなかなかやるじゃないか」とみなさんに思っていただければ、こんなにうれしいことはないですね。

■ 商品リスト

つき 1個248円
たいよう 1個140円
しずく 5枚入り540円

■ 教えてくれた人

山口彦之さん
1979年生まれ。老舗和菓子店「空也」の5代目にして、「空いろ」のディレクター。音楽と和菓子を楽しむイベント「アンコマンないと」主宰。「つき」のお気に入りフレーバーは「つぶ(プレーン)」。

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